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92 西の香り

更新、大変お待たせ致しました!

食文化革命方面も進めたい……と書いていたらなぜかこうなりました。

「こ……これは……!!」


 キラキラエフェクトの見える紙包みを厳かな手つきで受け取り、私はそれをそっと開封した。

 

 中から出てきたのは、カリッと揚がった衣を纏う小麦色。そしてさらに強まった、食欲をそそるスパイシーで豊かな香り。

 

「これ、これです……!!!!」

 

 思わずうっとりしつつ小さくガッツポーズを取ると、横からひょっこり顔を出したヴィル兄様がその物体の名前を言い当てた。

 

「おっ、完成したんだね! カレーパンってやつ」

「かれー……ぱん??」

 

 首を傾げる一同。


 ふふ、ふふふ……。そう!!

 

 「他にもっと持ち込むべき知識がいっぱいあるだろ」というどこかからの圧力やツッコミをひしひしと感じつつ!!!!

 

 私は、前世チートでこの世界にカレーパンを再現したのである……。ドヤ顔。

 

 きっかけはお母様だ。趣味と実益を兼ねてバージル家と共同開発でお菓子作りをしているお母様からの手紙に、カレー粉(この世界ではマレイ粉と言うらしい)が少量添えられていたのが始まり。

 

「西の変わった香辛料を取り寄せてみました。でも匂いのクセが強すぎてお菓子には使えないの。何か良いアイディアはないかしら?(困り顔のかわいい絵文字付き)」というメッセージと共に送られてきたマレイ粉を嗅いだ瞬間。

 

 私は、一瞬でカレーの舌になった。

 

 もはやカレーを食うまでは他のなにものも我を満たせぬ、という舌になってしまったのだ。

 

 ……キャラがぶれてしまうのも仕方ない。しかし、給食のカレーライスに始まりカレーうどん、カレーヌードル、そしてカレーパンなどに囲まれて育った日本人だから仕方ないのだ。

 思い出してしまった以上、定期的に食べないと禁断症状が出ることは間違いなかった。……異論は認める。


あと、「なんでマレイ粉なのにカレー?似てるけど……」という疑問がヴィル兄様から飛んできたが、


「これはカレーパンです。カレーパンという名前でなければならないのです。気持ち的に」

「そ、そうなの?でも紛らわしくない?」

「うーん、そうかもしれませんね……分かりました。マレイパンにしましょう。マレイ兄様」

「マレイ兄様?! なにそれカレーを認めないと元に戻らない感じ?!」


……という茶番を経てカレーパンと命名された。

 

 そんなわけで、コニーと家の料理人に大まかな作り方と詳細な要求を送り、試行錯誤の上で作ってもらった。ホントはカレーライスを食べたいけど、日本米に近いものが無いからまずはカレーパンを作ってみたのだ。

 

「お屋敷の料理人達の、血と涙と汗の結晶ですぅ!ぜひ出来たてをお召し上がりください、お嬢様!」

「そ、その例えはちょっと……」

 

 ゲンナリしたヴィル兄様のツッコミを受けつつ、期待顔のコニーに頷いて私は校庭のベンチを目線で探そうとした。

 

 しかし、視界に飛び込んできたのは超至近距離にきらめく紫色。

 

 もとい、どアップの学園長の、期待に輝く瞳である。

 

「それは……それはなんじゃ?!なんというかぐわしい香りじゃ……!! 」

「えっ……えっと、カレーパンと言います。……食べてみますか?」

 

 そう言えば、学園長はこくこくと激しく頷いた。なにやらハァハァとすごい勢いである。

 我らがロリババァにはカレー属性があったらしい……って誰得だ。

 

 そうしてぎゅむぎゅむと引っ付いてくる学園長をなんとか宥め、ベンチに座って半分を差し出す。

 学園長と同じくらいモノ欲しげなちびっ子達の目線を感じ、ちょっと申し訳なく感じつつも、パクリと実食した。

 

「んぐうっ!」

「ふぐ?!」


 カレーパンの香ばしい香りや美味しさを堪能する間もなく、大きく呻いた学園長にびっくりしてこちらも変な声を出してしまった。

 喉に詰まらせた?!ご老体大丈夫か?!と慌てて声をかけると、学園長は手を戦慄かせながら虚空を見つめて呟いた。

 

「う…………、ま………………。」

 

 お、美味しかっただけかい。

 

 ずっこけそうになりつつ安心して息をつくと、学園長は老体らしからぬスピードでガッと私の手を取り、ずずいっと寄ってきて目をうるうるさせ始めた。

 

「これの作り手を我が家に引き抜きたい!頼む!!」

 

「ええっ?! それは出来ないですよ学園長。料理人もコニーもうちの大事なお抱えなんです、絶対手放せません!」

 

 そう、大事なのだ。


 料理長とはお誕生日会の時に共同戦線を張り、発酵白パンの酵母を共に育ててきた。(徹夜で酵母の観察や管理をさせたので、共同戦線というと割合が違うというか、申し訳ないけど……)

 そして料理長だけでなく、他の料理人やコニーも試作や試食、アイデア出しに尽力してきた仲間である。

 

 更に、私が大まかに書いた料理の基礎やレシピ集を使い、この世界の食材や器具で再現出来るようにと宿題も出してある。

 そんな宿題が出せるようになるくらい、我が家の料理人とは信頼関係を結んでいるのだ。

 

「アリス、アリスぅ……!」

「そ、そんな困り眉で幼女みたいな顔してもダメです学園長。 うーん、どうすれば……」

 

前世のレシピや知識だけなら私が学園長に渡せるが、この世界の食材で実際に作るとまた違うのだ。だから私の指示に慣れた料理人が要る。

 

 しかし、お父様やお母様の雇った料理人を勝手に動かすことはできないし。学園の厨房に行け、なんていきなり皆に言うことも出来ないし……。既存の料理人との摩擦なんかも起こるだろうから、精神的にもタフな人材じゃないと無理だ。


 どうしたもんかと頭を悩ませていると、事態を見守っていたフレッジ君が口を開いた。

 

「コニーさんからアリス様のお側にいたいという希望も出てますし……、侯爵家の料理人が作ったレシピを、コニーさんが厨房で再現するというのはどうですか?」

「さすがフレッジ。それだ! アリス様、コニーさんを侯爵家と学園で兼業させてはどうでしょう?」

「それだー!」

「だぶるわーく!」

 

 フレッジ様とイヴァン様の提案にケモっ子達が賛同する。

 

 兼業、か……。なるほど、私の使用人としては側に置けないから、料理人として厨房で雇ってみればということか。

 

 しかし、料理人というのはこの世界ではかなり下に見られる仕事である。何気にコニーちゃんは「次期侯爵の専属メイド」という、使用人としてはランクの高い位置にいる人間だ。いいのだろうか……?

 

 そう思ってコニーを見ると、未だかつてなくイイ笑顔で、グッ!とサムズアップしていた。思わず素で目をぱちぱちしてしまう。

 

「え、いいのコニー?厨房に行くってことは、料理の下ごしらえとか後片付けとか、汚れ仕事もするんだよ?」

「全然構いませんよ、お嬢様!! むしろ、この機会にお嬢様のレシピを学園に広めましょう!!」

「おおっ!それなら私もかれーぱんをいつでも食べられるではないか!!よし、採用じゃ!」

 

 ちょっ、まっ、と止める間もなくわいわいと話が纏まってしまい、気づけばコニーは荷物を取りに帰ってしまっていた。

 呆然としていると、学園長に肩ポンされる。

 

「安心するのじゃアリス。コニーには『臨時調理指導員』の肩書きを付けるからの。ただの料理人ではなく上級職の肩書きがあれば、コニーやおぬしの家の面子も保たれるであろう?」 

「えっと、はぁ、まぁ、多分……」

 

 というか私の専属とは言え、お父様やお母様になんの相談もなく使用人の兼業を認める訳にもいかない。早急に手紙を書かねば。

 

 ……こうして各方面の要求を受けて流れに流されているうちに、コニーは見事、学園での居場所を獲得したのであった。

 

カレーパンとコニーちゃんと学園長が場に揃って化学反応した結果、学園の食事情にビッグバンが……起こるかも?

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