91 くんくん
「んん?何事じゃ?」
コニーに抱き着かれてどうしたもんかと途方に暮れていた私へ、最近よく聞くようになったロリボイスが近づいてきた。
「あ!学園長先生!こんにちはー!!」
「こんにちはー!!」
ちみっ子が元気な挨拶とともにその正体を告げる。……おうふ、今コニーで手一杯なんですけど……!!
「が、学園長先生。こんにちは」
「うむ、こんにちは。励んでおるようじゃな。ところでアリスよ、その者はどうしたのじゃ?」
艶やかな白髪を揺らし、ほてほてと歩いて近づいてきた学園長がコニーを指差して言う。するとコニーは涙まみれの顔を凄まじい勢いでバッと上げ、さらにおいおい泣き出した。
「ううっ!お゛、お嬢様のお友達のかたですかぁっ……?し、失礼しておりますぅ、ううう、ゴニ゛ーは、コニーはぁぁっ」
……だめだ、もうなんかグダグダだ。あと学園長は確かに見た目は同い年だがお友達ではない。
ひとまずハンカチを顔全体に当ててぐいぐい拭ってやりつつ、学園長に向けて簡単な説明をする。
すると学園長は、あぁ、と納得の声を漏らした。
「学園の生活は人脈作りを兼ねておるからのぅ。側近がひとりも決まっていない生徒を除いて、家のメイドを使うのは禁止なのじゃ。ま、可哀想じゃが諦めるんじゃのう」
「ぞ、ぞん゛なぁ゛ぁっ……!!」
学園長の言葉を聞いていよいよ絶望の表情を浮かべたコニー。可哀想だけど、なんとか慰めて家に帰すかなぁ……と考えていると。
「ふわぁ……。くんくん。いい匂い~」
いつの間にか、金狼族のファニール君が音もなくコニーの横にしゃがみ込んでいた。
いつも眠そうにしている彼が、コニーの首筋に擦り寄りそうな勢いで近寄り鼻をふんふんさせている。
「ちょっ?! こらファニール、女性を嗅ぐな!」
慌てたユセフ様に首根っこを掴まれたファニール君は、宙ぶらりんになりながら「だってぇ」と切なげな声を出した。
「この人から、凄くいい匂いがするんだもん」
金の巻き毛をふわふわさせ、犬耳をぴくぴくさせながら眠そうにそう言ったファニール君は、なおもコニーをじっと見つめている。
「えっ、私……?」
なぜかポッと頬を染めてときめくコニー。
しかし、その匂いの正体はすぐさま学園長に看破された。
「ふむ、確かに良い匂いがするの。その娘の……手にしている、バスケットから」
…………。
だよねー。よかった、あやしい展開にならなくて!!
「へっ?あっ!! そうです、これ、差し入れに持ってきたんです!!」
学園長の言葉で我に返ったコニーが赤くなりつつワタワタとバスケットを開く。
すると、その場に焼いたばかりの香ばしいパンとバターの香りが広がった。
「おお、おお……!!なんと、なんと美味しそうなのじゃ……!!」
途端に目をキラキラとさせる学園長。その視線の先はバスケットの中に釘付けになっていた。
中に入っているのは、もちろん皿替わりに使われるようなメラン(黒パン)ではない。私の誕生日会でのお披露目から更に改良を続けている発酵リューコ(白パン)だ。
「コニー、これ……!!」
私はその中のひとつを震える手で指さした。
「ふふふ……、そうですお嬢様。今日という日に来たのは、ついに完成したこれのためでもあるんですっ!」
むふんというドヤ顔をしたコニーは、バスケットに入った焼きリンゴデニッシュや可愛い形のくるみパンなどではなく。
悪魔的な香りを放つ、あるひとつの紙包みを取り出した。
完全な趣味をぶっこんですみません。将来イケメンになりそうなショタに翻弄されるお姉さん、好きなんです……。苦手な方がいたらすみませんw




