89 魔術結社
『黄金の夜明け団』
それは、前世の世界の19世紀に実在した魔術結社の名前だ。
愛読誌であった「激論!!オカルト」でも常連だったその名前。
詳しくはウィ○ペ○ア大先生を参照されたしという感じなのだが、掻い摘んで説明すると……まぁ、大人による大人のためのガチなオカルト魔法信仰集団というか。
魔術師としてよく知られる、アレイスター・クロウリーやマグレガー・メイザースなどが在籍した実在の団体だ。
カバラの生命の樹になぞらえた位階による上下関係が存在し、上位者は新しく入団した者の監督をしたり、昇格の試験を行ったりしたらしい。
そんなぶっとびサブカル集団の名前を何故拝借することになったかと言うと。
まぁ、いつも通りのちびっ子達による暴走と私のうっかりが重なった結果なのであった……。
◇
「ねぇねぇ、アリス様。あの怖い人の“群れ”にはお名前があるのに、どうしてここにはないのー?」
「フルもそれ思ってた。どうしてないのー?」
獣人の中でも特にケモノっぽい、天然な白猫の双子・フルダルとニルファルにようやく答案用紙に名前を書くことを覚えさせ、若干ぐったりしつつも頭をなでなでして褒めていた時のことだ。
そんな素朴な疑問に、講師役チームが反応した。
「確かに、様子見していた有象無象が加入して大世帯になってきましたし。無い方が不自然になってきましたね」
「ちょ、ヴィルヘルム……オーキュラス家の筆頭側近だからいいが、お前の言う有象無象にはお前より目上の伯爵家や辺境伯家もいるんだぞ……」
新規加入した遅参メンツに未だおこなヴィル兄様へ、ヨセフ様が青い顔しつつ忠告する。それに苦笑しつつ、レギオン様も頷いて口を開いた。
「ヴィランデル家の子が第二皇子を神輿にしているグループは“高貴なる薔薇の会”とか言うんだったか。薔薇って名前はどこから来たんだろうな?」
首を捻るレギオン様に、ヨセフ様が尻尾を一振りしてからあぁ、と答える。
「ヴィランデル家の娘を見かける時は必ずコテコテの薔薇モチーフドレスを着てるぞ。そこからじゃないか? ……考えてみると、せっかくの皇子要素がゼロなのが笑えるよな」
失笑する講師役メンバーに苦笑を返しつつ、私もそろそろ名前が無いと不便だと思っていたことを告げる。
すると、真剣に勉強していたと思っていたヨハンがンバッと顔を上げ、キラキラした目で提案した。
「超魔導聖騎士団はどうですか?!」
ざわ……。
ヨハンが隠れた重大な病を患っていることが判明し、グループになんとも言えない沈黙が落ちる。
いや、厨二病というよりこれはあれかな。戦隊モノにハマる小学生的センスか。なんとなくかっこいいからって理由で騎士団ってつけちゃったのがわかるぞヨハン。
微妙な空気が定着して可哀想なことになる前に、私はすかさずヨハンに笑顔を向けて頷き、万能の呪文「なるほどね」で場の沈黙を蹴散らした。
続けて、一番近くで勉強していたレティシア様とローリエ様に案がないかをたずねてみる。
「えっとえっと、チーム・お菓子パンなんてどうですかぁ?」
「それは食べたいものですレティシア様……。でも明日のおやつにしましょうね」
「わぁい!」
うん、可愛い。
「……アリス様が今日も尊い団」
「……ローリエ様、その、お気持ちは嬉しいのですが。多分、思想になんらかの偏りがある集団だと思われてしまうので」
「残念……」
ほんとに残念そうな顔をされてしまいちょっと心が傷んだが、さすがにそんな、ヲタクのグループラインの名前みたいな集団には出来ない。(……経験者であることは伏せておく)
横のヴィル兄様もやけに残念そうな顔をしているけど、まさか賛成だったのかな……。
「キューティープリプリ団……」
「きゅあきゅあ団……」
おっと、マチルダとユレーナはニチアサ枠か。頬を染めておずおずと言う2人が可愛いから採用したくなったけど、流されるな私……!!
「うーんと、もふもふ団!」
「しっぽ団!」
「ほねっこ!」
「えっとえっと、チームおさかな!」
「遠吠え団!」
ケモっ子達は思いつくままにきゃいきゃい候補を上げている。なんか食べ物関係が多いんだけどお腹すいてるのかな。
「聖魔極光魔道団……」
ボソリと呟くヨハン。まだ諦めていないだと……。
なんかこう、その集団にいればエターナルフォースブリザードをリアルに会得できそう。
「アリスが今日も尊い団……」
ヴィル兄様も諦めよう?
「リンゴのお砂糖漬け団!」
「おひげ団!」
「おなか空いてきちゃったよぉ」
「究極暗黒剣……」
「おひるね団!」
「うーん、アリスが今日も可愛い団ならどうかな……」
こんな感じで各々が思い思いに好きな単語を上げまくり、場がカオスになりかけたその時。
おずおずと手を挙げたのは、フレッジ様だった。
「その。なんとか団というのが多いようですし、アリス様やグループの特徴を足して、最後に団を付けるのはどうでしょうか?」
「おお……!!」
混迷を極めていた場が方向性を取り戻す。
「アリス様の色と言ったら、この美しい銀の御髪と金の瞳の色ですわね」
マチルダの言葉にうんうんと頷く一同。まぁ、確かに転生後の私の色彩はわりかしキラキラしている。
「このグループの特徴と言ったら……、勉強を頑張ってて、新学期からは自主的な研究を始める予定で……まぁ、新しい試みというか。新しい何かに向けて頑張ってる、ということになるのかな?」
ヴィル兄様が顎に手を添えて考えつつ言う。確かにそんな感じだ。
「金……銀……」
「新しいこと……試み……」
「うーんうーん」
皆が真面目に知恵を絞りながらも良いアイデアがなかなか出ない中で、ふと私は思い出した。
そういえば、金色な感じかつ勉強や研究を頑張っていて、名前だけは希望に満ち溢れた魔術集団がいたじゃないか!と。
「黄金の夜明け団……」
確かこんな名前だった。
懐かしいな……。名前とか魔術結社であるとか、こう、かっこいいー!!と思って調べたら、ガチの奇人変人・変態おじさんの集まりだったことがわかってウワーって思ったもんだ……。
そんなことを思い出し、懐かしさにウンウン1人で頷いていた私は、周囲から向けられる最大光度のキラキラ目線に気づくのが遅れたのだった……。
アリスのうっかりで某有名魔術結社の名前に皆が食いついてしまったのでした。
念のために書いておきますが、実在する団体・思想と当作品・作者は一切関係ありません。




