88 黄金の……
さてさて。
様々な面倒事を抱えつつも、学期末が近づき、いよいよテストが三日後だと予告された私達は最後の追い込みに入っていた。
「“応えよ我が声に、光よ前に進みいでよ”」
アサメイを構えて集中し、そこへ力を注ぎ込んでいく。
込めすぎず、少なすぎず。呪文が求めてくる量を感じ取り、求められたタイミングでスムーズに注ぎ込んでいく。
魔術が完成すると、室内がふわりと優しい光に照らし出された。
この発光の呪文も慣れたもので、夕暮れ過ぎの暗い室内で生活に適した明るさにする位は簡単に出来るようになった。
「はぅ……、アリス様は魔術もお上手ですよねぇ」
「ありがとうございます。好きこそ物の……というやつですよ」
レティシア様の賞賛の言葉にむふふ、と笑う。
私の場合は少ない魔力を絞り出すのではなく、多い魔力を小出しにする感覚なので、慣れれば調節はしやすいのだ。……蛇口みたいな感じ?
一度覚えてしまえば、体力の消耗は少ない。
「ふぬぅぅ……!!“かたわらの雪、白い鋼。今ここに形作れ”っ!!」
ひゅるる……、ぴちょり。
目を瞑り、渾身の力でぶるぶるとアサメイを握りしめたイヴァン様の頭が、落ちてきたちょっぴりのみぞれで濡れた。
「フニャッ?!」
びっくりしたイヴァン様がぴるぴると頭を振って氷を落とす。
「あらら。力を入れすぎですよ、イヴァン様」
魔術の座標指定に失敗し、いつかの光景を自分で再現してしまったイヴァン様がしょんぼりしている。
よしよしとハンカチで頭を拭いてやると、嬉しいような悔しいような、複雑な顔をしたイヴァン様が顔を上げた。
「くっ……。成功率を上げるために呪文も増やしているのに、なかなかアリス様のように上手くいきません。なぜなんだ……」
耳がヘタっている。しかし、これでも物体が出せているだけ、ケモっ子の中ではわりと上手い方だったりするのだ。
今は室内で出来る、炎系統以外の簡単な魔術の練習をしている所なのだが、大体「物体」を作り出す魔術では似たようなことになっているケモっ子が多いのだった。
光や風などの、イメージとして魔力を混ぜ混みやすい流動体みたいなものは、比較的出しやすい。
しかし、大きさ、硬度、温度や座標などイメージすることの多い魔術は、子供……の中でも特に獣人にはまだまだ荷が重いらしい。
今更ながら、お父様が決闘で見せた氷の魔術は凄かったんだなぁと思った。
「うーん、霊草術ならまだ触媒の扱いとか、教えやすいんですが。呪文以外は感覚と魔力に頼るアニマ・スロットは、人に教え難いんですよね」
「そうだな。特に獣人は体質的に、アサメイを使ったその手の魔術が苦手だ……しかし、第一学年のこのグループは比較的出来ている方だな」
獣人の講師役であるユセフ様がヴィル兄様に相槌を打つ。
そう、特に獣人はアサメイ使いが苦手らしいのだが、特訓のお陰かこの自習グループのケモっ子達はなんとかなっている方らしかった。
「アリス様が提唱する“体内循環”の法を実践すると、かなり楽ですよ!」
ヨハンがホクホク顔で小さな風を短剣に纏わせている。
体内循環のなんちゃらという厨二病ネームなアレは、発光呪文の初授業で私が意識したアレだ。
医学の未発達なこの世界では意識しづらいようだが、自分の経験から効果が(……想像以上に)あったこの方法を、グループでは実践させている。
血液の流れに乗せ左回りに回し、アサメイも自らの手足の一部のように意識する。そうすることで、かなりやりやすくなった……と、講師役の先輩達も言っていた。
そんな小技などを含めてコツコツと毎日練習の時を重ねていくうちに、ちびっ子の大半は光・風・氷・炎・雷・水・土の超初級呪文を内のひとつは実践出来るようになっていた。
「ふう……あちらもまぁまぁ形になって来ましたよ」
ガチャリとドアが開き、講師役の一人・レギオン様が汗を拭いつつ入ってきた。
お疲れ様ですと労い、詳しい様子を聞く。
「一部問題児はいますが、大部分は平均といったところですね」
レギオン様には、後から加入したアウルム・プラティナ・ディアマンテの希望生徒達を担当してもらっている。
そちらは初期メンツに比べて大人数だが、加入時期が遅かったこともあり全員の全教科合格は見込んでいない。なので、ひとまず集団講義の形をとっている。
意欲的な子は完全合格を目指しているようなので、また構成を考え直す必要はありそうだ。
ちなみに、ガブリエラに対抗する訳では無いが……この自習グループにも、名前がついた。
その名も、「黄金の夜明け団」
ぐぅぅ……っ。恥ずかしいやら興奮するやらでかゆいっ!かゆいぞぉ……!!
この、知る人ぞ知る……というか人によっては失笑しかねない名前になってしまったのには訳があるのだ。
……いやほんと、私の一存などではないと説明しないと、恥ずかしくて死んでしまう。ほんと死活問題である。




