79 金狼族と黒猫族、合流。
イヴァン視点です。
突然の嬉しすぎる出来事に高鳴る胸を抑えつつ、仲間のところへ向けてひた走る。
プラティナクラスに飛び込むと、第一学年の獣人の仲間がちょうどたむろしている所だった。
「イヴァン。そんなに慌ててどうしたの?」
幼馴染のフレッジが声をかけてきた。
フレッジは金狼族だ。耳がいいから、恐らく俺が走ってくるのが分かったんだろう。
フレッジと一緒にいた金狼族の友人、そして俺と同じ黒猫族の者もきょとんとしてこちらを見ている。
「あ、あ、アリス様と直接お話してきた……!しかも、共に勉強出来ることになったぞ!!」
「ええ?!急になんでそんなことになったの?!」
フレッジが驚くのも無理はない。普通なら、男爵家の俺たちと接点のない侯爵家が急に親密な関係になることなど、滅多に無いからだ。
「いや……なにか話しかけるきっかけは無いかと様子を見ていたんだが、アリス様と親しげに話してる側近が疎ましくて……。ちょっと、まぁ睨ん……いや、見つめてたんだ」
「いや、何してるの?!その時点で何してるのきみ!!」
ひいい、とフレッジが悲鳴をあげて耳をぺたんと下げる。
プラティナクラスで流れるアリス様の噂は傲慢とか冷酷とか、あまり良いものがない。その反応も頷ける。
まぁ、俺はそうは思わなかったがな。
側近やご友人に向ける笑顔を偶然至近距離で見たことがあったが、とても暖かい表情だった。
その上貴族に多い、悪いことをしている嫌な人間の匂いがしなかったのだ。
「まぁ聞け。そしたらなんと、アリス様が俺にイタズラを仕掛けてきてな!最初は側近の方がやったのかと思って声を荒らげてしまったんだが……」
俺の言葉を聞いて、獣人の仲間がひいいい!と悲鳴をあげる。そんなにアリス様が怖いのだろうか。
しかし、俺が続けた言葉で反応は変わった。
「最初に不躾な視線を向けて無礼を働いたのは俺の方なのに……アリス様の方からすぐに謝ってくれたんだ。ニコニコしてて可愛くて……、ゲホゴホ、と、ともかく、凄く気さくな人だったぞ!」
興奮して一気に喋る。フレッジや仲間達はぴるぴるとヘタっていた耳と尻尾を元に戻して安堵のため息をついた。
「は、はぁ。噂よりも寛大な人でよかったね。それで、なんで一緒に勉強することになったの?」
「あぁ。どうやら、俺が様子を見ていたのを勉強に加わりたいからだと思われたらしい。その場で誘ってくれた上に、友達も一緒にどうぞと……つまりお前らも一緒にと誘ってくださったんだ!」
俺は拳を握りしめ、頬を上気させて語る。
クラスに残っていた連中がこちらをじっと見ているのがわかったが、興奮して大声で話すのを止められない。
そして、その内容に仲間達がひっくり返りそうなほどびっくりした。
「え、え、えええー?! 僕達も?! 宵闇寮のフレッジとイヴァンだけでもびっくりだけど、騎士寮の僕達もってこと?!」
「そうだ!アリス様は俺の友達と仰った。つまりお前ら全員だ。運が良ければ、アリス様やご友人の側近になれるかもしれないぞ!」
そう言うと、みんな一斉に立ち上がり興奮し出した。
「うわぁぁー!行こう行こう!」
「流石俺らのイヴァン様だー!」
「おい、寮に戻ってる奴も誰か呼んでこい!」
「おいお前、寝てる場合じゃないって!起きろ!」
「出世だー!!出世街道だー!!侯爵家にお近づきだー!!」
そんな風に各々叫んでばたばたと動き出した仲間達。そいつらを連れて、俺はアリス様の待つ校庭へ意気揚々と引き返し走り出した。
…………そんな俺らの後ろ姿を見つめる、とある人物の視線に、気付かずに。
イヴァン様のお友達も登場です。
興奮のあまり、大音声の広告塔になっていることに気付かないイヴァン様でした。




