75 レイ先生のジェスチャー・ゲーム
冬期休暇前テストが発表された時のことを思い起こす。
◇
「先日、学園長の新方針が三校会議で認められた。それにより、新学期から一部授業の免除と特別研究活動の推奨が始まるわ。概要はこれから配るから、遅れたくない者はしっかりと勉強に励むように! 冬期休暇の前に希望者にはテストを行うから、その結果次第で春からのスケジュールが各々変わるわよ」
配られたテスト概要の書かれた紙を受け取り、読んでみる。
『 冬期休暇前試験について』
・教科は文学、歴史、算術、音楽、魔術の五大教科。
・範囲はそれぞれの学年の一年間分。
・免除されるのは授業の大部分だが、一部内容はテストの合否にかかわらず必修とする。
・その他、試験についての情報は極秘とする。
……。
え、これだけ?
何日間やるとか、各教科の試験時間とか、なんかあるだろ他に。必要なものとかさ、あるじゃん。それが極秘って。
そう思ったのは私だけでは無いようで、教室は若干ざわついた。
さっきまではどことなくルンルンしていたレイ先生も、その反応を見て「だよね~」という顔をしている。堪らず手を挙げてみた。
「オーキュラス、発言を許可します」
やっぱ来たなというニヤニヤ顔で見ないで欲しいが、ひとまず質問してみる。
「試験日についてとか、詳しいことが何も書かれていないのですが……」
「……答えられません」
えっ。まさかこれすら「極秘」に入るの?!
意味わからん。
レイ先生は目をギュッとつむり、両手で口元に×を作っている。ちょっと可愛……いやまてこいつは女装してる大の男だ。
うーむ。なんでだろう。
学園的には生徒の学力を上げること、つまり研究活動を推奨し始めたんじゃないのか?なんで、まるでテストを失敗させるのが目的なような、訳の分からない縛りプレイを……?
とりあえず質問したこと自体は咎められなかったので、答えられない事と答えられる事を見極めるためにぽんぽん質問してみる。
「試験期間は……」
「答えられません」
「試験に必要な持ち物は……」
「答えられません」
「試験の……」
「答えらr……ゲホゴホ」
まだ何も言ってないのに拒否ってしまったレイ先生は気まずそうに咳払いした。
しかし、どういうわけだかレイ先生はクイ、クイと片手で「もっとこい」のジェスチャーをした。
え?と思いつつ、とりあえず質問してみる。
「えーと……羽ペンは必要ですか?」
「答えられません(こくこく)」
「…………なるほど。試験は何月何日に行われますか?」
「答えられません(ぶんぶん)」
「試験は数日かかりますか?」
「答えられません(こくこく)」
「……実技はありますか?」
「答えられません(こくこくこくこく)」
……どうやら、明確に答えることは出来ないが、YES/NOに首フリで答えることはぎりぎり出来るらしい。
意味がわからないが、なにやら先生も必死なのでふざけているわけではなさそうだ。
異様な光景に面食らっていたアウルムクラスの子供たちも、貴族的な勘でこれはなにかあると踏んだ。
全員、レイ先生の面白ジェスチャーに真剣に向き合い始めた。
「実技では自分で素材を用意しておく必要がありますか?」
「(……悩んだようにこくこく)」
「草ですか?」
「(悩んだ末、ふりふり)」
「魔石ですか?」
「(こくこく)」
「では、音楽はどうですか?実技がありますか?」
「(こくこくこくこく)」
oh……そうだよね、普通あるよね実技。
「音楽の実技は楽器を使いますか?」
「(分からない、というふりふり)」
「うーん……声楽はありますか?」
「(こくこく)」
なるほど、楽器はわからないが歌うテストはある可能性が高い、と。
「最低限、他に聞いておかないとまずいことはありますか?」
「(……悩んだ末、ふりふり)」
「レイ先生、ありがとうございます」
ぺこりとお礼をして着席すると、レイ先生もぷはぁと口を開いた。
生徒達も、突然の情報戦に詰めていた息をぷはぁと吐いた。
◇
レイ先生は私たちにきちんと合格してほしいみたいだったし、そもそも選択授業だって沢山受けてほしいみたいだった。
でも、なにかに見張られているような……まるで妨害されているような感じだった。そうじゃなきゃあんな意味不明な伝え方はしないだろう。
それらが、あの瞬間は意味不明だったが……。
今の私はそれについて、ひとつの仮説を立てていた。
レイ先生のジェスチャーゲーム中の顔は、(。>×<。) ←こんな感じでしたw




