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74 放課後ブートキャンプ

「それでは、本日より放課後ブートキャンプを始めます!」

「はい!よろしくお願いしますぅ!」

 

 活き活きと宣言した私とその横に立つヴィル兄様へ、レティシア様が元気な声で応えた。両手の拳をぐっと握ってやる気を示している。

 ローリエ様や側近組も「ぶーときゃんぷ……?」と疑問符を浮かべつつ、よろしくお願いしますと続けて声を出した。

 

 場所は学園図書館の自習室。

 図書館の中にはいくつかの小部屋があり、司書に申請すれば有料でしばらく借りることが出来る。

 

 この学園図書館は離宮区画とは違い、新たに増築された。

 スペースの限られた離宮内の図書室では、本を置ききれなくなったためにこちらが増設されたそうだ。

 

 この図書館、非常に大きい。今度はスペースが足りなくなることがないようにとかなり余裕を持たせて作られたらしく、現在使われていない空き部屋は有効活用すべく貸し出し、自習室にしているというわけだ。

 無料の自習スペースももちろんあるが、そちらは静かにしないといけないので今回は有料を選んだ。

 

 ちなみに試験前はすぐに埋まるというヴィル兄様情報があったため、今回のイレギュラーな試験が発表されたその日のうちに速攻で予約を取った。それでもあと二部屋で試験日までの予約は終わるところだったので危ないところだった。

 

「部屋を取れて良かったですね。大食堂や教室だと周りが煩いですし、各自の部屋だと男女で分かれないといけませんでしたから」

「はい、本当に良かったです!助言ありがとうございました、ヴィル兄様」

 

 ローリエ様とレティシア様がいるのでヴィル兄様は側近モードで敬語だ。

 

 ちなみに、部活みたいでなんだか楽しくなってきた私はテンション高めである。

 

 こう、いいよね。放課後に部室(?)に有志で集まって、なにかに向けて頑張るのって青春だよね!

 

 ルンルンしながら今後の目標とスケジュールを説明していく。

 

「まず、目的の再確認です。現時点での目標は、全員で冬期休暇前のテストに合格することです。あと一ヶ月半ほどしかないので急務ですね」

 

 皆が重々しく頷く。

 元はと言えばレティシア様のサポートのために放課後に集まって勉強しようという程度の腹づもりだったのだが、先を見据えて冬期休暇前テストに全員合格を目標に切り替えたのだ。

 研究活動が始まれば、おのずと学力にはどんどん差がついてしまうだろう。それならばもう、レティシア様とローリエ様も最初から一緒に研究活動するつもりで授業免除を目指して行こうという話になったのだ。

 ひとまず説明を続ける。

 

「試験範囲は第一学年で学ぶ五大教科の全てです。これに八割以上正答出来なければ、春からの授業免除を受けることは出来ません。……が、これはあまり心配していないのです」

「そうなのですか?」

 

 ローリエ様と、特にレティシア様が不安そうにしている。若干涙目だ。

 しかし、しっかりと対策を練ってきた私は自信満々に答えた。

 

「実質、冬期休暇前テストの範囲やレベルが入学時テストと同じだと仮定してみると、私とヴィル兄様は完璧、ローリエ様も8割がた正答でき、側近組も入学前に私を追いかけて勉強していたのでそこそこできているのです。要点を勉強していけば恐らく間に合います。ですが……」

 

 ちょっと言いづらいが、こほん、と咳払いして続ける。

 

「その、レティシア様は複雑な事情があったので予習が間に合わず、あまり正答率が高くありません。なので、全員合格のカギはレティシア様にあります。……しかし、レティシア様には私が付きっきりで教えるつもりです。オーキュラスの名にかけて、何があっても絶対に合格させてみせます」

「あ、アリス様ぁ……!!」

 

 はううん、という声を出したレティシア様は両手を胸の前でぎゅうっと握り、感動で目をうるうると潤ませた。


幼女をひとりだけ置いてけぼりになんてしないさ、このアラサーのおばちゃんに任しとき。という気持ちで力強く頷いて返す。

 すると、なぜかヨハンとローリエ様がウッと声を出し、眩しいものから目を守るようなポーズをした。窓の光が眩しかったのかな?

 

「そういうわけで、私とレティシア様は常に一対一でみっちりやります。ローリエ様はある程度出来ているので、復習しつつ分からないところがあれば私に聞いて下さい。そして側近チームはヴィル兄様から学ぶ、という割り振りでいきます」

 

 真剣に聞く皆の顔を見回し、内容についても触れていく。

 

「学ぶ範囲については、入学時テストの傾向から出題されるものを予測してヤマを張っているので、ある程度限定していきます。……というのも、それらの勉強よりも最も時間をかけたいことがあるからです」

「それらよりも……?」


 ヨハンが不安そうな声を出す。マチルダとユレーナも顔を見合わせ、ヴィル兄様とローリエ様、レティシア様にはもう話してあるので、ああ、という顔をした。

 

 これが少し心配だと思いつつ、ゆっくり声を出す。


「魔術と音楽の実技です」

 

 えっ、という声が上がった。

 

 そう、入学時テストとの違い。

 

 それは実技だ。

 

 入学時テストはあくまで基礎知識や学力差を見るためのもの。だが、今度のテストは違う。

 春から秋までの授業免除がかかっているのだ。どう考えても実技をやらないわけが無い。

 

 しかしこれについて、説明は一切なかったのである。実技のじの字も出てこなかった。側近達の反応から察するに、恐らく月光寮と金星寮のクラスでも同様だったのだろう。

 

 私は改めて、テストについて発表された時のこと、そして今日レイ先生から聞き出したことを思い返してみた。

 

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