69 アギレスタ皇子
アギレスタ皇子。
この皇子について知っている情報は、前世の後輩によりもたらされたものと、今世で手に入れたものの二つがある。
とは言っても、後輩情報は全攻略キャラ平等ではない。後輩の推しじゃないキャラの事は名前すら分からないのだ。
現に、皇子の名前も歴史の授業でスーライトお姉様に言われるまで知らなかった。
お馴染み、後輩の声が蘇る。
『 キラッキラの金髪王子様はお好きですか?……全然興味無い?!んもぉぉおー!!!せんっぱい、マジで何なら好きなんですかむしろ男に興味あるんですかぁ?!……え、どうせ腹黒で家庭の事情が複雑でヤンデレなんでしょって?そ~ですけどぉ……』
……情報少なっ!大半が理不尽に怒られただけだ。
まじでこれだけである。パッケージも流し見だったから、1人、金髪で高そうな服着てる子がいるなー、くらいだった。
まぁそんなわけで、私の中の王子様の先入観は「腹黒で家庭が荒れててヤンデレ」である。……最悪だな。
んで、今世で入手した情報は……
・ガブリエラが好き
・アリスが嫌い
………………。やっぱ最悪じゃぬぇ~~か。
なにやら知らない内に、ガブリエラは入学早々王子様のハートを見事ゲッチューしていたらしい。流石はゲームのヒロインである。
で、当然ガブリエラとつるんでいるという事は、私についてあることないこと吹き込まれているということで。
たまに見かける感じだと、学園に入学してからのガブリエラは悪役令嬢らしく強気だが、わりとお嬢様らしくしているように見受けられた。(正直、暴力を振るわないとか理不尽な罵倒をしないというレベルの話だが)
猪突猛進の大声バカだったのは大食堂での一件までだったので、多少学習したようだ。
あのアホっぷりがもうちょっと大人数に目撃されてれば、求心力も減って楽だったんだが……。
……ふう。
とにかく。
皇子とは、絶対に関わりたくないでござる。ぜっったいに関わりたくないでござる。
というのが本音だ。
だって……こちらから初対面の挨拶をしようとした時。
一言名乗っただけでろくに挨拶せず、睨んできたような……顔が綺麗なだけの失礼なガキンチョなのだ。
ガブリエラに執心してハイメの二番手?の私にその態度ということは、知能指数は低そうだし。まじで関わりたくないのでござる。
……と、思うのだが。
家のメンツとか、将来のことを考えるとなぁ。
放置することはできない。絶対にできないのだ。
別に仲良くしなくてもいいが、普通の友人くらいの仲になって誤解を解いておかないと、将来困る。
最悪、些細なミスで揚げ足を取られて追放とか、修道院行きとか、最悪お家降格とか大騒ぎになりかねない。
それに、皇族ということで中立のプラティナクラスに振り分けられている皇子が私を避けたり嫌っていると、中立派の子供たちにまで影響する。それは由々しき事態である。
ディアマンテクラスはガブリエラの噂を鵜呑みにしていると言うより、敵対派閥の私を落とすために便乗している感じだ。だが、中立派は違う。
皇族という権力者が姿勢を固めてしまい、それに追従されるのはまずいのだ。
ガブリエラと皇子を引き離すか。私から皇子と交流を持つか。
……はぁ。魔術の勉強に集中したいのに、まーったくもって面倒だ。何が悲しくてちびっ子のご機嫌を取らにゃならん。
派閥関係での唯一の救いは、第一学年アウルムクラスの子供たちには受け入れられていることだろうか。
大きな魔力を持ち、率先して学び、たぶん入学してからヘマは一度もしていない私のことを、わりとアウルム1年生のリーダー格として慕ってくれ始めているのだ。……一部の子からは、なんか崇拝めいた目で見られているのでそれはちょっと落ち着かないが。
はぁぁ、とため息を吐いていると、ガチャリと重厚なドアを開けてレイ先生が入室してきた。
「皆、おはよう。朝のホームルームを始めるわね」
この二週間で聞きなれた声が響く。
一日の流れだが、午前はこの教室で朝礼を受ける。
その後に五大教科のうち三つの授業をここで受け、昼休みを挟んで午後には移動教室があり、各々で専門の教室で選択授業を受けるスタイルなのだ。
魔術学だけは、隔日で午後をフルに使っての授業が行なわれる。
そんなスケジュールを振り返っていると、心なしかウキウキしたレイ先生が口を開いた。
「先日、学園長の新方針が三校会議で認められた。それにより、新学期から一部授業の免除と特別研究活動の推奨が始まるわ。概要はこれから配るから、遅れたくない者はしっかりと勉強に励むように! 冬期休暇の前に希望者にはテストを行うから、その結果次第で春からのスケジュールが各々変わるわよ」
どよめく教室。
私はと言うと……。
おや、思ったよりかなり早かったな、という感じだった。




