66 学園長先生との密談
「さーて、アリスよ。話してもらおうかの!」
にこにこにこ。
「んぐ……。その、学園長先生。このことは、内密にお願いしますね?」
「うむ、勿論じゃ。人払いもしてある。安心して全部話すが良い!」
なにやらハイテンションなオルテンシア様に、思わず疲れたため息を出してしまう。
場所は学園の離宮区画、最上階の学園長室だ。
放課後の呼び出しに応じてやってきた訳だが、初っ端からこれである。
心配してついてきてくれたヴィル兄様とヨハンも、学園長の異様な目のキラメキに若干引いていた。
さて、私が太陽光に負けない不思議発光体になってしまった原因であるが……。
恐らく、ルージ事件が原因ではないかと思うのだ。
ヒントは学園長があの時言った条件。
『常に魔力を使い続ける』
これだ。
憶測だが、呪に対する抵抗=魔力の恒常的使用、それがつまり修行となっていたのではないだろうか。
しかも、命懸けの。
常に抵抗しているということは、拮抗するために絶えず魔力が動いているということだ。使うほどに回路が強化されていくのならば、筋は通る。
回路を川に例えるとしたら、初めはチョロチョロと流れる一筋の小川。しかし水が流れ続けることによって川底が削れ、河原の石は丸くなり、流れる水の量は増大してスムーズになっていく。あんな感じ。
そう考えれば、活動し続けていた私の魔力回路が極めてスムーズに魔力を放出したのは頷ける話だ。
そして、本来ならば貴族ではない私が大きい魔力を持っていたのも、それなら理解出来る。
呪に力負けしたらその時点で死んでいたのだ。男爵家出身の小物といえど、大人であるルージの命を削った魔法に対抗するために、こちらの魔力が少しずつ増え続けていたとしても不思議ではない。
原作ゲームのアリスがどうやって生き延びて学園に入学したのかは知らないが、案外、なにかのきっかけで増え続けていた魔力が弾け、打ち勝った可能性もある。
その辺りを、憶測も含めてオルテンシア様に説明した。
もちろん私の出自とか、転生などの詳しい事情は伏せてある。
側近たちにも、私が孤児院出身であるなどの部分は伏せた上で「世間一般には病だったと言ってあるが、実は呪により衰弱させられていた」という話は明かしている。それと同じ内容を話した。
すると、オルテンシア様はふむ、と頷いた。
「なるほどの……一理ある。というより、そうとしか考えられんな。……だがアリスよ、恐らく他にもなにか理由があるような気がするのじゃ。お主の力はそれ程に、幼子としては大きい。……今はわからんが……、今後どこかで影響してくるじゃろう。自らの力、自らの魔力とよく向き合い、変化を見逃さぬようにするのじゃぞ」
思いがけず真剣な顔の忠告を受けた。
……知的好奇心でふんすふんすしていたオルテンシア様だけど、やっぱり教育者なんだなぁなんて思った。心配されるのは、少しこそばゆい。
重々しく頷いた私に満足気な顔をしたオルテンシア様へ、今度はヴィル兄様が恐る恐る声をかけた。
「学園長、僕は現場を見ていないのですが、それほどにアリスは大きな力を使ったのですか?本当に先程のアリスの仮説以外にも、原因不明の理由があるのでしょうか……?」
不明点があることが不安であるらしい。すると、オルテンシア様も煮え切らない表情をした。
「魔力量も、操る力……すなわち出力も、すでに修行を詰んだ大人の域に達しておったからの……。恐らくお主らと同じ呪文で攻撃の打ち合いをしたら、お主らが跡形もなく消し飛ぶぞ」
それを聞いたヴィル兄様とヨハンが、揃って「え゛っ?!」と素っ頓狂な声を出した。
怖がらせた……?と思って怖々振り向くと、二人ともアワアワという顔をしていた。そして言うことは同じ。
「守るべき主人の方が、圧倒的に魔術に長けているだと……?!」
おおう。なにやら、それぞれ側近としての危機も感じたらしい。現場見てなかったもんね。なんかすまんね……。
その様子をみてクスクスと笑ったオルテンシア様は、あの時のユーダ石を四つ私に差し出してきた。
「これはお主にやろう。ユーダ石そのものは、まだ素のままじゃからランプにはならん。このままだと魔力が抜けてもったいない故、勉強の材料にでもするがいい」
それにお礼を言って受け取った私に、オルテンシア様はニヤリと笑ってとある提案をしてきたのだった。
仮説を立てる回でした。思いがけずシリアス。
ブートキャンプ説などが流れましたが、あちらは学力と体力の方面なのでこれには関係ない設定です(笑)




