表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/331

59 レティシアの事情

 結局あの後、テストは普通の問題用紙に差し替えてやり直しになった。

 

「アリスさま~!」

「あ……レティシア様!」

 

 午前の授業が終わり、お昼の時間になる。

 ひとまず外の空気を吸いに教室を出たところで、愛らしい声に呼び止められた。

 振り返ると、ふっくらとした可愛らしいフォルムのレティシア様が駆け寄ってくる。

 

「アリス様、さっきのお姿、とってもかっこよかったですぅ!」

 

 目をキラキラさせながら、はぅぅん、という感じで褒めちぎってくれるレティシア様に苦笑いして応える。

 

「いえ、そんな。なんだか悪目立ちしてしまって恥ずかしいです……」

「いえいえ、恥ずかしがることなんてないと思います! とってもかっこよくて……周りにも、きらきらワクワクしてる子がいっぱいいましたよぉ!」

「きらきらワクワク……?」

 

 疑問符を浮かべると、遅れてやってきたローリエ様が翻訳してくれた。

 

「私達もそうですが、先程の貴族としての姿勢に感銘を受けた者は多いようですよ、アリス様?」

「え、ええ?」

 

 私から感銘を受けるとかないない(笑)と一瞬思ったが、確かにさっき貴族っぽいことを言ってみた時、全教科にやる気を出してる子達はいたなぁ。


 そんな話をしつつふと周囲を見回すと、とっくにお昼を食べに散り散りになったと思っていたアウルム区クラスの子供たちはまだ教室や近くの廊下におり、よく見れば聞き耳を立てて私たちの言動を吟味しているようにも見えた。

 

 うお……こ、怖。

 

 そんな小学校らしからぬ情報戦の様相に恐れをなした私は、レティシア様とローリエ様を少し離れた場所に連れ出した。

 幸い、時間はお昼だ。食事を求めて大食堂へ向かう。

 

早足な私を見てローリエ様がくすっと笑う。

 

「ふふ。アリス様は、意外と注目されるのが苦手なのですね」

「……ええ、そうかもしれません。あまりお屋敷から出ないで暮らしてきましたし……」

「でも、アリスさまのお家は二番手ってやつなんですよね?やっぱり、どうしても皆さんから見られてしまいますよねぇ」

「ふぐぅ……」

 

 レティシア様の邪気のない言葉に呻いてしまった。

 

 そうだよなぁ、ハイメ派閥の二番手であるオーキュラスの娘である以上、注目されるのは免れない。

 そう考えれば、自分たちの上に立つかもしれない人間をアウルム区の子供たちが吟味するのも当然の話だ。

 

 ……先代アリスや両親、親しい人達のためにも、あの程度の空気でビビってちゃ駄目だね。

 

 気持ちを切り替えた私は、歩きつつ2人にテストの話を振った。

 

「そういえば、先程のテストはどうでしたか?」


 そう言うと、ローリエ様はクールな表情はそのままに頬を染めた。

 

「アリス様を見習って予習を進めていたおかげか、難しい方のテストも少し解けました。とは言っても、大体二年生までの分ですが」


 おお。中身アラサーの私と違って正真正銘の幼女なのに偉いなぁ、ローリエ様。素直に褒めると、ちょっとフフン顔になった。

 ……普通に可愛い。これがクーデレってやつ?

 

 しかし反対に、レティシア様は暗い顔をしていた。

 

「普通のテストは、たぶん、半分くらいは……。難しい方のテストは、全然……」

 

 はうう、と肩を落とすレティシア様。どうやら芳しくなかったようだ。

 

 それも無理ないかもしれない。そもそも何故家督を継がない第三子のレティシア様が宵闇寮にいるかと言えば、第一子の長男が病気で急に亡くなってしまった&姉は金星寮出身で既に嫁ぎ先が決まっていることが原因なのだそうだ。

 

 第三子となると本来は金星寮が妥当だし、お金のない家だと貴族でも学校に通えないのがこの世界だ。

 

 そこを急に宵闇寮入りすることになったのである。

 突然家督を継ぐ可能性が出てきたのだから、予習不足なのも頷けた。

 

 しかしレティシア様は、周囲の生徒達が通常テストを普通にこなしているのを見て焦りを覚えたらしい。

 

 その様子を見て、ローリエ様と私は目を見合わせた。

 

「よろしければ、放課後に一緒にお勉強しませんか?」

 

 気づけばそう口から出ていた。

 すると、レティシア様がぱっと顔を上げる。

 

「えっ……!良いのですか?」

「ええ、もちろん。私達、お友達ですもの。一緒に頑張りましょう?」

「……っ! ぅぅ、アリス様、眩しい……」

 

 ローリエ様が目をすがめて何事か小声で呟いた。よく聞こえなかったが、とにかくローリエ様もレティシア様に協力したいと言ってくれた。

 

「はわぁ……!!あ、あ、ありがとうございますぅ!!レティシア、頑張ります!」

 

 キラキラした笑顔を浮かべるレティシア様。

 

 比較的余裕のある私たちが友達を支えるのは当然なことだ。助けになれればいいな。

 

 まぁあと……スーライトお姉様とヴィル兄様から課された1年分の自習課題は相変わらずブートキャンプレベルなのである。

 これを1人でこなすのはキツいし寂しい。

 

 …………。

 

 一緒にブートキャンプ頑張ろうね、二人共!!

 


レティシア様を助けたい気持ち8割、キャンプ仲間が欲しい下心が2割でした(笑)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ