57 守る側の存在
気を抜けばバッファロー並に荒くなりそうな鼻息を気合で押し殺し、ゆっくりと席から立ち上がった私はレイ先生に質問した。
「はい、先生。……その選択科目を、全て受講することは可能ですか?」
ざわ……
再び教室がざわめく。
なんだよ、挙手して自ら先生に質問するやつはクソ真面目異端児認定か?ここは荒れてる中学校か?おん?
……と思ったが、そもそも中学以下の年齢層だった。
ともかく外野はどうでもいい、さあどうなんだ?!とレイ先生を見やると、何故か僅かに口元が引きつっていた。
「……時間割的には、一応可能よ。学力的にもあなたなら多分問題ないわ……でも、そんなことする子は滅多にいないわよ?」
「えっ?!」
「えっ?」
え?と驚いたことに、え?と驚かれる。いや、驚くでしょ。
だってどう考えても必要じゃない?全教科。
「……ひとまず、受けられるのなら安心しました。ありがとうございます」
悪目立ちするのもアレだしと思って座ろうとすると、顎に手を当てて少し考え込んだ様子の先生が声を出した。
「……ちなみに、どうして全教科受けようと思ったのか聞いてもいいかしら?」
え、突っ込んでくるの?と思いつつ、嘘をつく必要も無いので素直に答える。
「ええと……霊薬学は、五大教科の魔術学にも多少同じ内容が含まれているのは知っているのですが……そもそも、素材について深く学ぶこちらも必修でないのが不思議なくらいの基本だと考えます。以前、生で決闘を見たのですが、素材を触媒にした精霊魔術の技術は興味深かったですし……。魔法薬学にも不可欠ですし」
「なるほど……?」
レイ先生が何か言いたそうな顔をしているが、早く座りたいのでさっさと話を進める。
「次にルーン文字学と古代ロアン文字学ですが、詩や呪文が魔術に大きな影響を与えるこの世界において、この勉強をしないことは考えられません。語源を知らないことは文字の意味や色を知らないことと同義です」
「……」
なんか静かになってしまった。話進めていいのかな?
「天文学は、素材や呪文に影響を与えることがわかっている以上避けて通れないと思います。魔法薬学は奥深くて面白いですし、人々が困っている時に役立ちそうです。そして剣術ですが……民を守る貴族として、もはや当然習うべきものだと考えます。私たちは守られる側ではなく、守る側の存在ですから……。以上が、大まかな理由です」
ふふふ。最後らへんの理由すごくかっこよくない?めちゃくちゃ貴族っぽいこと言ったぞ私!
嘘は言っていない。思った通りを言った。でも正直な所をいうと、どの教科もかっこよくて面白そうだからの一言に尽きる。
そして剣術については、習うことで「かっこいいポーズ」を身につけ、ビシッとキメて魔法発動とかしたいってのが本音だ。右腕が疼くんだ。
しかしそんなことを言う訳にもいかないので、それらしい理由をつけてみた。
ひとまずこうして聞かれたことには答えたのだが、レイ先生は再び片手で顔を覆って黙ってしまった。
すると、教室の生徒のひとりがぽつりと呟いた。
「……俺も、全教科、受けようかな」
「わたくしも……さすがに剣術はお母様に怒られるかしら」
見れば、教室は二種類の反応にわかれていた。
半分ほどの子供たちは、なにやら興奮した顔で我も我もと全教科に立候補している。
もう半分ほどの子供たちは、えー全部やんの?何この流れ……という顔をしていた。
わかるよその気持ち。私も何この流れ?って思う。
なんだろ、貴族っぽいこと言ったのがウケたのかな。
……まぁ、勉強したい子供が増えるのは良いことだから、いっか!




