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54 波乱の入学時テスト その①

「では、始め!」

 

 レイ先生の美しいアルトの声に、一斉に羽ペンを走らせる音が響き出した。

 今は入学式の次の日。初めての授業……というより、入学時テストのようなものを受けている。

 

 部屋には40人ほどの生徒がおり、これはアウルム区の新入生達だ。お茶会で見た顔もちらほらある。

 レイ先生は宵闇寮アウルム区の担当で、ディアマンテとプラティナ、そして月光寮と金星寮にはまたそれぞれ違う担当がついており、別の部屋でテストを受けている。

 

 貴族たるもの、民を導くための教養を身につけるべし。

 

 そう教育されてきたちびっこ達は、多かれ少なかれ学校で学ぶことを予習してきている。

 とは言っても、爵位や家の財力、家の風習によってそれは千差万別だ。そのため、入学時に学力テストがあるとは聞いていた。それが今やっているテストである。

 

 ふんふん。……うーん、やたら手強い問題もあるけど……解けないことは無いな。

 私はノリノリで問題を解いていく。

 

 しかし、アラサーから見て、1年生のうちにここまでやるんだなぁなんて問題もある。ほんとにちびっこ向けの内容なんだろうか?

 この世界の貴族って大変だなぁ……。

 

 ちなみに、スーライトお姉様とヴィル兄様は教科書をほぼ使わず、それぞれの家に受け継がれてきた教材を使って授業してくれた。

 初めこそ教科書を使おうとしていたのだが、広く浅くな教科書よりも入門書や専門書をしっかり読み解く方が断然面白く、私の集中力が段違いだったためだ。

 知識にかなりの偏りは出来てしまったが、全教科の最低限をなんとかこなした後は、基本的にやりたいことをやらせてくれた。

 

 そんな訳で、私は学年ごとの授業内容の違いなどはほぼ知らない。テストの後に説明があるそうなので、実に楽しみである。

 

 そして私は、何枚もある紙をどんどん捌きながら、直前に受けた学科と授業についての説明も思い出す。

 

「家督を継ぐような者は高貴なる魔術科。それを助け守る者は誇り高き騎士科。そして上位者を助ける者は、補助に特化した教養科に振り分けられるわ。これは入学前にほぼ決まってるから、言うまでもないわね。そして学科ごとに授業は違ってくるわ。……でも今から行うのは、どの学科にも共通の五大教科のテストよ。これにより受けられる授業に変動もあるから、どの学科の生徒も心してかかるように!」

 

 いやはや、そう聞いて戦慄した。成績により受けられる授業と受けられない授業があるようなのだ。

 人数制限をしないといけない人気授業があるのか? もしくは、理解度に合わせないと落第者が続出する授業でもあるのか……。なんにしても、ここでワクワク魔術ライフの芽をひとつでも潰すわけにはいかない。

 

「なっ……こ、これは?!」

 

目をギラつかせて羽ペンを走らせていた私は、自分以外の羽ペンの音が止まっていることにも、その様子を訝しんだレイ先生が問題用紙を読んで驚愕の声を上げたことにも気づかなかった。

 

 カリカリカリカリ、ペラ、カリカリカリカリ。

 

「…………」

 

 カリカリ、カリカリカリカリ、…………。

 

「えーと……オーキュラス?」

「…………はぇ!?」

 

 いつの間にか目の前に来ていたレイ先生にびっくりして羽ペンを止める。

 

 どことなく信じられないものを見る目で私を見るので、首をかしげた。ふと周囲を見ると、なにやら訝しげにこちらを見ている。

 

「はい、先生。なんでしょうか?」

 

 あれ。もしかしてテストの制限時間とかを過ぎてたかな?!集中しすぎてて気づかなかったのかな……。

 やっば、一番恥ずかしいやつ。はー。

 

 内心赤面して動揺するが、人前でやたらに狼狽えてはいけない。私は努めてクールさを取り繕った。

 

「ええと……貴女、それ、少し見せてくれるかしら?」

 

 レイ先生が長い指で私のテスト用紙を指さすので、どうぞと差し出す。

 なんだろう、何かやらかしたのかな……。

 

 ソワソワしながら待っていると、レイ先生は片手で顔を覆った。

 

 な、何?!


やらかしその①です。次回に続く!

アリスちゃんは興味のあるものに没頭するタイプですね。人生2週目チートあっての基礎学力ですが。


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