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53 新しい部屋


 レイ先生の案内で、新入生達がそれぞれの私室へと向かう。

 私はユレーナとマチルダを従えて螺旋階段を登り、上層のアウルム区に入った。

 

「わぁ……!綺麗ですねぇ!」

 

 ユレーナの感動する声に同意を返す。


 宵闇寮は巨大な塔のような形をしており、中央に螺旋階段がある。その螺旋階段から通路に出ると、各部屋へ行ける訳だ。

 私の部屋があるのは上層部のアウルム区のひとつで、階段から通路に出ると私の部屋の他に5つほど部屋が並んでいるのが見えた。

 

 その通路の装飾をもって「アウルム」……つまり「金」と名付けられているのだが、それが本当に綺麗だった。

 

 白に近い灰色の石造りの壁には、見事な装飾を施された黄金色の燭台が取り付けられている。

 その等間隔に並んだ燭台には蝋燭ではなく魔石のランプが取り付けられ、窓のない古城の廊下をゆらゆらと趣深く照らしていた。

 

 この寮の構造的に、窓があるのは私室側のみとなっている。螺旋階段と私室に挟まれた通路には窓がないのだ。

 そのための光源としてランプが設置されており、その形が区画の名前になっているそうだ。

 

「アウルムは金の燭台と聞いていましたが、ディアマンテは名前の通りダイヤモンドの何かなのでしょうか……?」

「シャンデリアみたいになっているのかもしれないわね。うーん、1度見てみたいわ……プラティナもきっと名前の通り綺麗なんでしょうね」

 

 ユレーナとマチルダがはしゃいでいる。口を開くと素が出そうだったので、私も頬を染めてそれに頷いた。

 

 この五部屋に通じる通路は傾斜になっていて、小さな段差の緩やかな階段になっている。

 

 廊下の装飾や美しい調度品をほえーと見ていると、一番上の部屋から人が出てきた。

 

「アリス!」

「あ、アテナお姉様!」

 

にこにこしたアテナお姉様の元へ小走りで寄る。

 

「入学おめでとうございます、アリス。同じアウルムなのは分かっていたけれど、区画まで同じだなんて嬉しいですね!」

「ありがとうございます。はい、私も驚きました。とっても嬉しいです!」

 

 普段は声が小さく、どもりがちなアテナお姉様だが、喜んでくれているようで珍しく沢山喋ってくれた。

 

 

「アリスの部屋はこっちですよ」

 

 小さな手に引かれて入ったのは、上から3番目の扉だ。

 

「……!! は、わぁぁ……!!」

 

 漫画だったらキラキラエフェクトが自分の周囲に飛び出していそうなくらい、私のテンションはマックスになった。

 

 中に入るとまず側近用の小部屋だ。

 8畳程の石造りの部屋には焦茶色のラグが敷かれ、同じ色のカーテンがついた二段ベッドが両壁際に置かれている。

 その部屋の向こうには大きめのアーチ形ドアがあり、今それは開かれている。

 その向こうには、外の明かりに照らされた明るい部屋が見えた。

 

「はぁぁ、寮って感じですね……!素敵……!」

 

 思わず鼻息が荒くなる。側近部屋を通り抜けて私室に入ると、私は喜びのあまり目眩でよろけた。

 

「あ、アリス様?!」

「きゃ、大丈夫?!」

 

 すかさずサッと動いたユレーナが支えてくれる。それにお礼を言いながら私は部屋に向き直った。

 

 石造りの古風な部屋には、大きな窓がふたつある。

 その出窓のようになったスペースには花が飾られ、窓際には重厚な木材のテーブルに赤いクロスがかけられていた。

 そのクロスの上には、燭台と実家から持ってきた本が綺麗に並べられていた。

 

品の良いダークレッドのラグに目を通してから壁際を見ると、アーチ型にくり抜かれたような溝があり、そこがベッドになっている。

 

 これ、あれだ……!!

 

 ナウ○カのベッドだ……!!

 

  私の目眩の原因はこれである。

 確か、アルコーブベッドってやつだ。壁をくり抜いて、その段差をベッドにするやつ。

 

 そこはフカフカの布団が敷き詰められ、ラグと同系色の寝具でいかにも寝心地が良さそうだった。

 壁際には小さな棚や本棚もあり、お篭もりに最適な空間である。

 

 しかし部屋のこうした作りも最高だが、それをシックに彩る布や小物、家具の配置が完璧だ。

 寮というだけでテンションは上がっていたが、それをまるで古のお姫様の部屋のように、ロマンある仕上げにしてくれたのは……

 

「マチルダ、ユレーナ!ありがとうっ!!」

 

 くるりと振り返って2人に抱きつくと、2人からきゃあと可愛い悲鳴が飛んだ。

 

 頬ずりして2人まとめていい子いい子すると、2人からお花エフェクトが飛んだ。にへへ、という顔が最高に可愛い。はぁ……繰り返すが、うちの側近が最高に可愛い。

 

「あ、アリス……意外と愛情表現が豪快なのですね」

 

 おおう、という顔でアテナお姉様がびっくりしている。

 それに、あ、やっべ。と気づいた私は名残惜しいが2人を離した。

 

「えへへ……メイン監修はマチルダ、布選びは私、家具の配置は2人で決めました」

「引越しの時だけは男手を許されているので、ヴィルヘルムとヨハンも入って沢山働いてくれましたよ」

 

 そかそか。男二人にも後で沢山お礼をしなければ!

 

「それにしても、二段ベッドがふたつとは床が多いのですね。側近の女子は2人だし、宿直は日替わり交代では……?」

 

 アテナお姉様がぽやんと疑問を浮かべる。すると、マチルダがふふんと胸を張った。

 

「アリス様の側近たるもの、自分の私室などもはや物置です!ここに完全に住みこみますし……なにより、アリス様の側近になりたいという者は多く出てくるでしょうから、その者達の分を先に用意しておいたのです!」

 

「そ、そうなのですね……?」

 

 マチルダから迸る謎の自信にアテナお姉様が圧倒されている。

 

 確かお姉様の側近は女子5人と男子数名だったと思うが、どうやら住み込みではなく日替わりで宿直をしているらしい。

 

 確かにベッド多いなと思っていたが、そういう理由だったのか。

 まぁでも、完全住み込みするんなら仲間は多い方がいいよね。まさに女子寮って感じでわちゃわちゃできて楽しそう。

 

 人数的にもういいかと思っていたのだが、良い子がいたらスカウトしてみようかな、なんて思うのだった。


アルコーブベッド、憧れなんですよね。

そしてユレーナとマチルダは娘的ポジジョンになりつつあります。主人公は褒めて育てるタイプです。

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