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51 魔術学園の入学式





……この世界が、ゲームありきで発生した世界なのか。

 

 それとも、この世界が反映されたのがゲームだったのか。

 

 それは誰にも分からない。


 

「諸君は、つる草という植物をどう思う」


 

 大聖堂のような荘厳な大広間に、鈴の音のように高く凛とした声が響く。

 

 ……どちらにせよ、今この世界はここにあり、私はここにいて、生身の人々がリアルに蠢いている。

 私がいくら考えたところで、ゲームが先かこの世界が先かなどわかる訳もない。

 


「つる草とは、樹木に寄生する草じゃ。単体では自らの体を支えることも出来ないような、か弱い草じゃ」


 

 ローヴァイン離宮魔術学園の大広間に今集っている、何百人という人々は。

 

 ……入学式という厳粛なるこの場で、壇上の人物の声を静かに聞いていた。


 

「じゃが、つる草は実は逞しい。引っ張られてもなかなかちぎれず、天地を縦横無尽に走り、なおかつ一種の美しささえ有しておる。古い木や建築物にはその歴史の証明のように、然るべき装飾のように這い広がる。優美さを極めたつる薔薇などは、その姿のためだけに価値を認められ、民衆に愛されてきた」


 

 大広間の一番前、一段高くなった舞台の上から響く声に、場の全員が圧倒されていた。

 

 ……私は、目の前のとある事実に耐えきれず俯いた。

 


「貴族という生き物は、所詮は国という一本の大樹に寄生するつる草よ。……じゃが、ただの雑草で終わるか?それとも、民衆に愛される気高き薔薇になれるか?……それは諸君次第じゃ」


 

 この言葉に動揺が広がる。

 

 感銘を受ける者、戸惑う者、自分たちを雑草呼ばわりされ、怒りを見せる者。

 

 だが、私……アリスは、もっと違う所に動揺しており、それどころではなかった。

 

「我が学園ローヴァインの名は、いにしえの言葉で正義のつるを意味する!諸君は今まさにこの学園に入学したのだ。必ず、大樹を彩りその威光を守る、栄えある正義のつる薔薇となれ!!」

 

 そう言い切った存在は、体を思い切りふんぞり返らせて高笑いした。

 

 その姿に、私の中のツッコミゲージも最高点に達する。

 

 

 なんで……。

 

 

 なんで……!!

 

 

 なんで…………っ!

 

 

 なんっっで、乙女ゲーにロリババァ突っ込んできた、金薔薇スタッフーーー?!?!

 

「ふぅ。久しぶりの演説で疲れたのじゃ。あとは頼んだぞ、ダヴィド」

 

 そう言ったロリババァ……じゃなかった、ローヴァイン離宮魔術学園の最高権力者・オルテンシア学園長は、舞台から颯爽と降りた。

 

 足首まで到達する真っ白なウェーブの髪に、三つ編みや玉飾り。

 華奢な体躯に、愛らしい幼い顔立ち、薔薇色のほっぺ。

 

 髪色に合わせた細身の長く白いワンピースのその少女は、どういう訳だか入学したばかりの私たちとほとんど変わらない見た目をしていながら、開口一番で最年長の学園長を名乗ったのだ。

 そして長老のような口調で壮大な演説をした後は、一方的にバトンタッチしたアブデンツィア貴学院の長・ダヴィド貴学院長の腰をぽんぽんしてさっさと席に着いてしまった。

 

「やれやれ……話の内容は悪くないですが、肝心の学園の説明などはまだ何もしていないでしょう」

「ふん、この私にそんな労働をさせるか?そんなものはお前がやればいいのじゃ」 

 

 そう言って学園長は鼻を鳴らした。もう椅子から動く気は無いらしい。

 それにしょうがないなぁと苦笑いしたダヴィド貴学院長は、50代後半くらいの顎髭を生やした厳つい男性だ。

 全身真っ白なオルテンシア学園長とは正反対の、黒髪黒目。それに黒いカソックの様な服を纏っている。

 

 ダヴィド貴学院長は生徒達の方へ向き直ると、背筋を正し低い声で咳払いした。

 

「えー、おほん。諸君、入学おめでとう。私はアブデンツィア貴学院の長をしているダヴィドだ。独立した最高学府であるミスティコと少し違い、アブデンツィアはローヴァインの延長線上のような組織だ。学舎も繋がっているため、会うことも多いだろう。何か相談事がある時は気軽に訪ねて欲しい」 

 

 威厳がありつつも優しいその声に、先程のイレギュラーすぎる学園長に面食らっていた面々が安心したようなため息をついた。

 

「諸君はこれから6年間、貴族としての基礎をローヴァインで学ぶことになる。先程の話にもあったが、ローヴァインとはいにしえの言葉で正義のつるを表す。つる草は生命力が強く、天にも地にも力強く伸びていく。諸君らもこのスヴェラストリ神聖帝国の高貴なる一員として、幅広い分野で活躍し、役目を果たしてほしい」

 

 あぁ、めっちゃ校長先生っぽい……。安心するわぁ……。

 

 ほっこりしていると、オルテンシア学園長が小声で喋った。

 

「のうダヴィド、ちゃんと注意事項も言うのじゃ」

 

 ダヴィド貴学院長の服の裾をつんつんと引っ張ったオルテンシア学園長に、またダヴィド貴学院長……長いな。脳内ではダヴィド校長とオルテンシア様でいいか。

 

 ダヴィド校長が苦笑いして、分かっていますよと囁いた。

 

「えー、オルテンシア学園長は、見ての通り幼い見た目をしている。しかし肉体年齢は老婆……痛っ!!」

「誰が老婆じゃ!!!!違うぞ諸君、か弱い幼女なのじゃ。か弱い!!幼女!!なのじゃ!!」

「ゲホゴホ……あー、か弱い幼女であらせられるので、いきなり抱きついたり衝撃を与えたりしないように。過去にオルテンシア学園長を驚かせようとした生徒がいたのだが、その時にギックリ腰になったオルテンシア学園長は一週間は動けなかった。……本当に気をつけるように」 

 

 お、おおう……。

 

 生徒一同は、注意事項と、学園長と貴学院長の力関係を悟った。

 

「うん、なんで肉体に歴史を重ねてきた私が幼い見た目をしているのか不思議じゃろう?実はな、変身薬の研究に手当たり次第色んな薬品を浴びていたら、いつの間にかこうなっていたのじゃ! どの薬品が当たりだったのかはわからんが、諸君らも死ぬまでぴちぴちのお肌でいたいならば、研究に励むと良いぞ!」

 

 きゃらきゃらと笑ったオルテンシア様はあくまで老体とか高齢という言葉を使いたくないらしい。

 ひとまずこの話に終止符を打つと、ダヴィド校長が説明を再開した。

 

 簡単な学園生活の流れを説明し、それぞれが入ることになる寮監督の紹介をする。

 

 初っ端から凄いのが来てどうなるかと思ったが、ともかく楽しそうだ。

 ニヤニヤそわそわウッキウキしてしまうのをなんとか無表情に押し込めているうちに、入学式は無事に終わったのだった。

  


ひとまず、やっと入学しました!

待ちくたびれていた方々はお待たせしました。


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