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50 入学前日その②


 夜の涼しい風が夏の終わりを告げ、秋らしさをいっそう感じさせている。

 夜のリビングにはハイメ、オーキュラス、そしてバージルの人々が勢揃いし、思い思いの場所に座ったり、テーブルに寄りかかってグラスを傾けていた。

 

「久しぶりにこうして親戚筋で集うことが出来て、嬉しいですな」

「ええ、本当に。アリスやオルリスの元気な顔も見れてよかったわ」

 

 そう言ったのはエピドートおじい様とフローラおばあ様。

 今年になってようやく再会できた、オーキュラス領前領主……つまり、お父様の両親だ。

 

 お父様と同じ淡い水色の髪に白いものを混じらせたナイスミドルと、これまたお父様と同じ蒼い瞳が優しい素敵な老婦人だ。

 ちなみに、フローラおばあ様の出身の家がフレシアおば様と同じ血筋なので、おばあ様とオルリス兄様は血縁である。

 

「ようやく娘と妻の元気な姿を見せることが出来て……昨年までは本当に心配をおかけしました」

 

 お父様が眉を下げる。それを見て、おじい様は元気になったのならなによりだ、と笑った。

 お母様は長いこと自分を責めてきたためか少し涙目になったが、こちらはフローラおばあ様に優しい言葉をかけられてふんわりと笑顔になった。

 

 今度はバージル家の家長、アッピキオおじ様が嬉しそうに声を出す。

 

「それにしても、アリス嬢は本当に天使のようです。病が治ってからはより一層可愛らしくなられ……その上、なによりもうちの息子を立ち直らせてくれた。感謝に堪えません」

「僕からも改めてお礼を。兄上と家族が和解できたのはアリス様のおかげです」

 

 そう言ってから私に向き直り、改めてお礼を言ってくれるアッピキオおじ様とヴィル兄様。慌てて頭を上げてもらう。

 

「い、いえ!私がしたのは些細なきっかけ作りだけですよ。あとはオルリス兄様と皆様の頑張りです」

 

 そう返すと、お父様が私の頭にそっと手のひらを乗せた。

 

「ふふふ。我が娘ながら、確かに天使さながらなのは否定しません。しかし、アリスの言う通りオルリス君自身が勇気を出したのは大きいと思いますよ」


 お父様がそう言うと、部屋の隅のイスにひっそりと座っていたオルリス兄様が、ふるふると震える声を出した。縮こまりそうになった背をぐっと伸ばして姿勢を正している。

 

「……い、いえ。勇気をくれたのも、仲直りのきっかけをくれたのも、アリスです。……見守ってくださった皆さんにも、アリスにも……本当に感謝しています」

 

 多人数の前で発言するのはかなり緊張するようで、そこまで言い切ったオルリス兄様は「はふう」と肩の力を抜いた。

 私をべた褒めする謎の話の流れはさておき、「頑張りましたね、兄様!」と視線をこっそり送る。

 すると、視線に気付いた兄様がこちらを見てふにゃん、と笑ってくれた。

 ……まじ、激かわ。

 

 そんなオルリス兄様の様子を見てほっこりしている人も多数だ。

 

「そのアリスも、明日からはもう学園生。早いものです」

「確かに。回復してお祝いをしたのがもう一年前とは、月日の流れはあっという間だ」

 

 少し改まった口調のオイディプスおじ様と、リヒテライトおじい様が感慨深そうに口を開いた。

 

「私とヴィル君の仕込みがいかに発揮されるか……、楽しみですわ」

 

 スーライトお姉様はなにやら身をくねらせて怪しい笑みを浮かべている。メガネが光っていて普通に怖い。

 しかしこの1年間、スーライトお姉様には本当にお世話になった。改めてお礼を言う。


「お姉様、お忙しい中で家庭教師を引き受けて下さり、ありがとうございました。このご恩は忘れません」

 

 少々大袈裟かもしれないが、五大教科だけではなく「根暗引きこもり令嬢のレッテルを根絶するため」とマナーから立ち振る舞い、常識まで幅広く教えを受けたのだ。感謝してもしきれない。

 

「ふふ、どういたしまして。子供らしからぬ知性を持ったあなたには驚かされることばかりで……楽しかったわ。アリスちゃんなら魔術の新しい世界を切り開いてくれると信じてるから、その成果でお礼をしてくれればいいわ」

「は、はひ……」

 

 子供らしからぬのワードに一瞬びくっとしてしまった。

 そして、期待重し……とも思ったが、私としても魔術は極めたいところだ。なんとか握りこぶしを作って頷いた。

 

「学園では慣れないことも多いでしょうから……私でよければ、何でも聞いてくださいね、アリス」

 

 おずおずとしながらもそう言ってくれたのはアテナお姉様だ。

 オニキスお兄様もツンデレぎみに同じことを言ってくれる。

 

 それらに丁寧にお礼を返しながら、明日から始まる新生活に想いを馳せる。

 

 こうして親戚で集まっているのは、大人達が領地に戻ってしまうためだ。それは寂しいのだが、これは私の入学祝いみたいなものも兼ねている。

 

 入学。……ふふふ。魔術学園への、入学!!

 

 この1年で基礎の基礎の基礎、くらいは勉強したけど、危ないからと実践はほとんどさせてもらっていないのだ。

 授業の様子も、お楽しみにしたいからと詳しくは聞かないでおいてある。

 

 今日の夜は興奮で眠れないかもなぁなんて思いながら、楽しい団欒の夜を過ごしたのだった。

 

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