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48 第1回側近会議

マチルダ視点です。

「それでは、第一回側近会議を始めます!」

 

 ここはオーキュラス家の使用人部屋。アリス様の側近用の控えの間だ。

 現在、隣の私室にいらっしゃるアリス様はコニーにお任せしている。

 

 集まっているメンツは、私ことマチルダ、ユレーナ、ヨハン、ヴィルヘルム。

 

「側近会議とか言うから来たけど、何話すんだい?」

「おっほん。まずはその危機感のなさについてです!」

「えっ」

 

 きょとん顔のヴィルヘルムにびしっと指を突きつける。目をぱちぱちとしたヴィルヘルムは、危機感?と繰り返した。

 

「筆頭側近とか言う割に、あなたにはアリス様にもっと尽くそうという気概が感じられませんわ!」

「ええ!?愛と敬意なら負けないけど!?それに、週に1度は勉強教えてるし……」

 

 なにやら不本意そうな顔をしたヴィルヘルムに、ヨハンが追い打ちをかける。


「確かに、アリス様についている時間はヴィルヘルムが圧倒的に短い。ユレーナとマチルダはメイドから身の回りの世話を教授され始めてるし、俺も使用人と警護体制を確認したり、先達から側近の心得を教わっている。……それに、これからアリス様が学園に通うことになったら、ヴィルヘルムはどうするんだ?」

「うぐっ……」

 

 確かに、という顔をしたヴィルヘルム。

 

 ちなみに、側近同士では敬称も敬語も使わない。出身の家の爵位はバラバラだが、家督を継がないものしかいないし、同僚になれば上下などないからだ。

 ユレーナだけは誰に対しても敬語な子なので、敬語を使っている。

 

「私たちはアリス様と同い年だから学園でお側にいられますけど、その間ヴィルヘルムは何をするのですか?」

「うっ」

「役立たずになるな」

「ヨハン貴様……」

 

 女子にきついことを言われても気まずそうにしていただけのヴィルヘルムだが、同性のヨハンにはキッとした目を向けた。

 ヨハンもそれにどことなく反抗的な目で返す。

 

 しかし、ヴィルヘルムはため息をつくと言い訳をし始めた。

 

「そうは言っても、今はまだ仕方ないんだ。少ないとはいえ自分の授業もあるし、つい最近まで僕がオルリス兄上の代わりにいろんなことをやってたから。今はそれを兄上に引き継ぐので忙しいし……」

「言い訳はカッコよくありませんわ」

 

 ぴしゃりと遮ると、ヴィルヘルムはふぐぅと唸り、観念したと言うように両手を上げた。

 

「まぁ、何かしら大きい役目が欲しいとは思ってたさ。唯一の年長者で筆頭だからね」

 

 その言葉を聞いて、私の目がキラリと光る。

 

「では、より良いアリス様の側近になるために、私達になにか指南をして!」

「し、指南?」

 

 ヴィルヘルム以外は全員、きた!という空気になった。

 

 それというのも、私たちはしがない下級貴族の末っ子ばかり。

 家庭教師なんてついてないし、側近の経験があるものは家族に少なかった。

 勉学は家にある姉や兄のお古の教材で自習してきただけだし、当然、武術の知識なんかも乏しい。

 

 このままでは使用人の延長線みたいな、普通の側近にしかなれない。猛勉強していらっしゃる勤勉な主人……アリス様の側近としては、不十分なのではないか?と同い年組で話し合った結果、ヴィルヘルムを説得して(ちょっと煽って、とも言う)なんとかするのが一番確実だという話になったのだった。

 

「いいけど……はぁ、ほんとに今は時間がないのに……」

 

 頭を抱えて呻いているのを見るとちょっと申し訳ないが、まぁなんとかなるだろう。


「バージル出身のヴィルヘルムからは学ぶことが多そうですし、賛成です!」

「側近同士、剣術の手合わせをしたいとも思っていたところだ」

 

 ヴィルヘルムの了解を受けて、ユレーナがパアッと顔を明るくした。

 ヨハンも嬉しそうに好戦的な笑みを浮かべたが、ヴィルヘルムはそれには呆れた顔を返した。

 

「いや、君、まだローヴァインに入学すらしてないだろ。普通に、手合わせにすらならないから」

「なにをっ……!?」

 

 やれやれお子様は、というポーズをされて、ヨハンがカッと顔を真っ赤にする。

 まぁ確かに、手合わせにすらならないだろう。いくらヨハンが騎士の家出身で剣術が得意だろうと、体格差がありすぎる。

 一同がうんうんと頷くと、ますます顔が赤くなった。

 

「くそ、そう言うのならやってもらおうじゃないか!」

 

 ふん!と顔を背けたヨハンに、ヴィルヘルムがまぁ良いけどさ、と返す。

 

「あ、あの、私も受けたいです。剣術のお稽古……」

「えっ、ユレーナが?!」

 

 おずおずと手を挙げたユレーナに全員がびっくりした声を上げる。

 

「構わないけど……ユレーナはどちらかと言うと文官の役回りだろう?なんで剣術を覚えたいんだい?」

 

 ヴィルヘルムが不思議そうに訊ねると、ユレーナは華奢な体をふるりと震わせて、両腕で自分の体を抱きしめた。

 

「アリス様がヴィランデル家のガブリエラ様に叩かれそうになったあの時、私、何も出来なくて……それが側近として、本当に悔しかったのです」

「あぁ、なるほど……」

 

 一同が再びうんうんと頷く。

 

 確かにお茶会などの席では、男の側近がお側につくことは少ない。

 ないことはないが、女性の席には女性の側近がつくものだ。その間、男性の側近は会場や部屋の入口、壁際に控えている事が多い。

 

 頭脳担当、執事候補など特殊なタイプを除けば、女の側近はメイドと共に女主人を助け、男の側近は周囲を警戒して警護に就いている。

 それがこの国の一般的な側近イメージだ。

 

 ちなみにあの日は、側近にユレーナ、警護にはオーキュラスの使用人が送迎を兼ねてついていた。

 

「確かに、至近距離でも守る必要はあるね。まぁ、ご令嬢同士でそんな物理的な危険が生じることは、本来少ないはずなんだけどね……」

 

 ぎらりとした目を見せるヴィルヘルム。というか、一同。

 

 ユレーナからそのお茶会の話を聞いた時は、温度差はあるものの、ガブリエラ様に対してそれぞれが怒りを覚えたものだ。

 特に昔からアリス様を見守ってきたというヴィルヘルムは相当怒っていたし、主人に尽くす騎士一族出身のヨハンも怒りをあらわにしていた。

 かくいう私も、アリス様を慕っているのでもちろん怒りを覚えた。

 

 アリス様は同い年の女の子としても憧れるし、なにより仕えるべき主人として理想的だと私は思っている。

 我儘な……それこそガブリエラ様のようなご令嬢の下につくと、理不尽な扱いをされたり八つ当たりに虐められたりすることはよくある事だ。

 その点アリス様は優しく、理性的だ。将来はオーキュラス家を継がれる方だし、仕えるに値すると私は思っている。

 それなのに、訳の分からない難癖をつけられた上に暴力を振るわれたというのだ。怒らないわけがない。

 私も決意を新たにする。

 

「そうよ……そうよね。私とユレーナは最もお側につく存在。私にも剣術を教えて、ヴィルヘルム!」

「分かった、他でもないアリスの為だ。全員まとめて指南しよう」

 

 ヴィルヘルムはキリッとした顔をして、やる気を見せた。

 話がまとまったところで、私は宣言した。

 

「では、次の議題に入ります!」

 

 ……アリス様がローヴァインに入学したら、アリス様は正式に貴族の一員に数えられ、活動を始めることになる。

 つまり私達も正式に側近として活動を始めることになるのだ。

 

 今はまだアリス様の外出が少ないため、コニーとオーキュラス家の使用人に任せてお側につかない日があるが、入学されたら宿直も始める。つまり半ば住み込みでお側につくことになる。

 

入学まで半年を切った今、決めるべきことは多いのだった。 


結託したちびっ子に言いくるめられるヴィル兄様です(笑)

次は、いよいよ魔術学園入学直前です。

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