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47 エインズシュット家にて

ローリエ視点です。


 私の名前はローリエ・ユリア・エインズシュット。

 

 エインズシュット辺境伯家の長女だ。

 

 エインズシュット家はどういう訳か女が多く産まれる家で、国境と接する辺境伯という防衛の役目を負いながらも、女領主を多く輩出してきた家だ。

 そのため、女と言えども私は領主になる可能性が高い。弟がもし生まれても、それは変わらないだろう。

 

 常にクールに。毅然とした態度を。

 相手に舐められず、賢く気高くあれ。

 

 領主になることを見越したそういう教育はとても厳しいが、私の本来の気質とそれほど相違はないので辛くはなかった。

 

 ……辛くは、ないのだが。

 

「おとうさまぁ!メリル、次のお茶会用に新しいドレスが欲しいの!」

「あぁ、いいぞ。次はどんな色がいい?」

「えっとねぇ~」

 

 1歳年下の妹のメリルを見ていると、私はどうしようもないコンプレックスに苛まれるのだ。

 

 家の嫡子として、父からは厳格に、いっそ冷たいほどの教育を受けてきた。

 しかし、父も本当は娘を女らしく育て、可愛がりたかったのだろう。

 妹のメリルが生まれるやいなや、溺愛し始めた。

 

 妹は要領がいいタイプで、どういったタイミングで誰にわがままを言えば願いが叶うのかがなんとなく分かるタイプだ。

 だから、本当は女の子を可愛がりたくて仕方なかったお父様にはベタベタと甘えるし、お母様の機嫌の善し悪しも敏感に感じ取って甘える。お母様もそんなメリルをつい甘やかしてしまうようだ。

 一人称も「メリルねぇ」と名前を使い、使用人たちにも天使のような笑顔を振りまくからウケがいい。

 

 それに対する私は、不器用で愛想がないの一言だった。

 

 姉なんだから我慢しなさい、領主になるのだから毅然とした態度をしなさい。

 姉なんだから譲ってあげなさい、領主になるんだから簡単に泣くな。

 

 そんな声に必死に従い、両親を落胆させたくなくて求められる人物像になりきるうちに。

 妹のように、他人に甘えることが出来なくなった。

 

 常に周囲を窺う私には、年齢相応の子供らしさみたいなものが欠如しているとも自覚している。

 

 天真爛漫な妹と比較されて、使用人から「姉の方は可愛くない」とか「変に達観していて気持ち悪い」なんて陰口を叩かれているのも知っている。

 

 …………私は、妹が苦手だ。

 

 いや、嫉妬している。私にないものを持っている妹を妬んでいる。

 

 可愛いものが似合う、皆に愛される妹。

 可愛いものが似合わない、姉として常に我慢を強いられる私。


 別に両親から愛されてないと思ってるわけじゃない。 

 でも私が唯一持っているものと言えば、家督と、お母様から譲り受けたこの髪飾りだけだ。

 この髪飾りだけは妹がおねだりしても譲らなかったし、両親も譲れとは言わなかったから。

 

 そんなこんなで鬱屈した日々を送っていた私だが、最近は楽しいことも増えた。

 

 ローヴァイン入学を前にしてお友達になった、アリス様と、レティシア様。

 この2人とおしゃべりしている時は、とても楽しい。


 アリス様は、ハイメ派閥の2番手の家のご令嬢だ。

 長く闘病生活を送っていたと聞いているが、そんな事を感じさせない凛とした女の子。

 

 金色の瞳は陽の光を受けるとキラキラして、好きな話題ではより一層明るく輝く。

 姿勢は良く常に前を向いていて、銀色の御髪は風になびくときらめいた。

 仕草は可愛らしく、お顔立ちも美しい。

 そしてなにより、幻想的な見た目に反して気さくな性格がアリス様の魅力だ。

 

 気難しそうに見えるせいかなかなかお友達ができなかった私に、お茶会で真っ先に声をかけてくれたのは感謝してもしきれない。

 次期領主たらんとして常に気を張っていた私にとって、かっこよさと可愛らしさ、更に気さくな性格を両立させたアリス様の姿は、同い年にして理想だった。

 

 そして、レティシア様。

 

 愛らしい見た目の彼女のことを、最初は妹と同じようなタイプかと思って避けていた。

 でも、レティシア様はそんな事を言ってはいられないと思うくらいのドジっ子だったのだ。

 

 初めてお茶会で出会った時は、令嬢同士の口喧嘩に巻き込まれて意見を求められているという状況だった。

 しかし状況がよく分かっておらずおろおろとしていて。

 

 以前までの私だったら、妹に似たレティシア様の事は、見て見ぬふりをしていたかもしれない。

 でも「アリス様ならどうするだろう?」とふと思った私は、気づいた時には助け舟を出していた。それが最初だ。

 

 それからも、招待された先の家の中で迷子になって半泣きになっていたり、お茶会での話題についていけずはわはわしたり。


 そんな彼女を見かける度に思わず手助けしてしまい、そうしているうちに懐かれた。

 

 なにより、家のことを思ってふとぼんやりと暗い気持ちになっていた時に、私の手をぎゅっと握って「大丈夫?」と言ってくれたその瞳が。

 私を真剣に、案じてくれていて……。

 

「ローリエ、お稽古の時間ですよ」

「はい、お母様」

 

 苦手な音楽のお稽古に呼ばれる。

 

 でも素敵な友達が2人もできた今は、入学後に2人をあっと驚かせたいなんて気持ちでお稽古できる。

 私は足取り軽く自室を出たのだった。

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