46 オーキュラス家にて
今日は週に二日の、お勉強会のない日だ。
そこで私は部屋に一人にしてもらい、先日のお茶会について思いを馳せる事にした。
側近見習いのヨハンと、先日正式に私専属メイドになったコニーには、部屋の前で待機してもらっている。
「あれって、多分……いやもう確実にそうだよなぁ」
金髪ドリル頭に、豪奢な赤いドレス。
令嬢らしくない、強気でズケズケとものを言う性格。
……あんな先走り野郎だったかどうかは、さて置いて。
「やっぱ、金薔薇の主人公だよな。ガブリエラ・ヴィランデルって……」
私はハァとため息をついた。
金薔薇は完全な未プレイだが、貸してくれた後輩から聞いた偏った知識が少しだけある。
その中の一つが、「主人公は悪役令嬢である」ということ。てかまぁタイトルだね。
ちなみに乙女ゲーの主人公なので、顔とかはパッケージに載ってなかったと思う。
デフォルト名も未プレイなので知らなかったが、多分ガブリエラなんだろう。
ぶっちゃけ知っているのはほぼそれだけなのだが、外見の特徴はタイトルから予想できた。金色の薔薇ってところだ。
金色→つまりはたぶん金髪。悪役令嬢ならよくあるドリル頭だろう。
薔薇→薔薇をイメージさせる、布を豊かに使ったドレープと飾り盛り沢山のドレス。ガブリエラを見かける時は必ずこういうのを着ている。
そしてあの「正義感」を振りかざしたアクの強さと、令嬢っぽくない力強さ。
もう間違いなく、悪役令嬢の主人公ちゃんだろう。
しかし、そう仮定しても私は腑に落ちない点があった。
そもそもなぜ、お茶会で私の事を監視していたのか。
あれはまるで、私がミスを犯すのを知っていて待ち構えているような、隙を見せたらすぐに襲いかかってくるような……そういう雰囲気だった。
そこから考えられるのは、彼女も転生者だということ。
だがその予測を、私はやんわり否定する。
もしガブリエラが転生者であり、私のことやストーリー、そして攻略対象たちのことをある程度知っているとする。
それならば、わざわざ不利な立場である嫌われ者の「悪役令嬢」になる必要は無いのだ。
そして、今私が生きてる『この世界』はゲームではないから。
相手を、設定のまま動くキャラクターだと見くびった演技なんて、最初は騙せてもいずれは綻びが出るだろう。
乙女ゲーをプレイする程度の年齢だったんならその位は分かるはずだ。
まぁそんなわけで、わざわざ「悪役令嬢」になるためだけに、あんなことをしたとは考えにくいと私は思う。
話がちょっと逸れたが、とにかくガブリエラが金薔薇のメインヒロインであることはほぼ確定だろう。あのお茶会での態度は、対立派閥の私を攻撃したかったのかもしれない。
そして私は、もうひとつほぼ確定な事を考える。
後輩の声を思い出す。
『先輩、最近流行りの悪役令嬢はお好きですか?……え?特に? うーん……それなら、サブヒロインでプレイするのもオススメですよ! 』
そう、金薔薇にはヒロイン選択なるシステムがあるのだ。
主人公が悪役令嬢という、ゲームとしては少し特殊な設定。
それに制作陣がヒヨったのかなんなのかは分からないが、とにかくプレイヤーは、このサブヒロインを主人公にしてプレイすることも出来るんだそうだ。
サブヒロインは二人いる。
一人は、超強気な主人公とは真逆の、美しいが儚く影のある令嬢。こちらは甘くて繊細な恋愛を楽しめるらしい。
もう一人は、ジャンヌみたいな戦乙女系キャラに育つ令嬢。こちらはいわゆるRPG風乙女ゲー的展開らしい。
そんな二人のサブヒロインは、主人公に悪役令嬢を選ぶとキャラ設定が少し変わり、恋に狂うライバル役になるそうだ。
もう白状するが、アリスというキャラクターがサブヒロイン&ライバルキャラだったのは間違いない。これが第二の確定事項である。
オルリス兄様など、攻略対象との接点。
ルージ事件などの特殊な過去。
そしてなにより、突っかかってくるメインヒロイン。
どっちのサブヒロインなんだかは知らないが、これだけ材料が揃えば流石に認めざるを得ないよね。
「はぁ……」
思わずため息をつく。
ヒロインに突っかかられるライバル役とか、マジで無理。
これってあれでしょ。攻略対象たちと関わると、もれなくあの子とモメるやつ。
そこまで考えてげんなりするが、だからと言ってオルリス兄様と関わるのを止めようとは微塵も思わない。
だって、私は親戚のお兄さんとしてオルリス兄様が好きだ。
立ち直ってくれた兄様がこれからどんな風に羽ばたくのか見守りたいし、可愛がってくれるのは素直に嬉しい。
ヴィル兄様も慕っていたオルリス兄様に拒否されなくなって、最近はよりいっそうニコニコ活き活きしている。
「ま、なるようになるか」
思考が纏まらなくなってきたが、私の行動方針は変わらない。
ウキウキするファンタジー・魔術を追い求めて頑張る。
身近な人を大切にする。
この二つだ。
この世界がなんだろうと、誰がどんな役回りだろうと、生きた世界は刻々と変わっていく。
変わっていくのは、ガブリエラですらそうだろう。
だからまぁ、私は好きな事をやって、好きな人達と一緒に生きよう。
改めてそんな事を考えながら、お茶を啜った。




