43 瞳の色
「話は聞かせてもらったわ!」
決闘ではなくこちらを見ていたらしいスーライトお姉様が、ふんすと鼻息荒く発言した。
「お、お姉様?」
どうしたのかと見ていると、つかつかとオルリス兄様の方へ歩いていったスーライトお姉様は兄様の両手を取った。
それにオルリス兄様は目を白黒させる。
「精霊に愛されすぎて困っているということよね。それならうちの研究所においでなさい!」
「夫人の……ですか?」
戸惑った様子のオルリス兄様に、オイディプスおじ様がフォローを入れる。
「妻の運営する研究所では精霊魔術について主に研究している。人が生まれ持った魔術との相性なども。君の状況も詳しく調べられるかもしれないぞ」
「!」
それは確かに丁度いい。あっという間に話はまとまり、オルリス兄様は今所属している学校に通いながら、研究所に所属することになった。
ちなみに兄様の通う学校はミスティコ・プローヴァ研究院という、アブデンツィアの上に当たる大学みたいなところのことらしい。
提出物と試験さえしっかりしていれば単位が取れるとかで、兄様は一応学生をしていたようだ。
さてさて。色々あったが一件落着し、パーティーは無事に終わりを迎えた。
オルリス兄様やフレシアおば様、他の招待客も帰り、今は家族とハイメの親戚メンバーだけだ。
夕餉も終わり、大人はワインを、子供は就寝前の飲み物を片手にして居間で団欒タイムになっている。
「それにしても、あの場でいきなり勧誘するとは思いませんでした」
夜のランプに照らされたお母様が、ふふと笑う。オルリス兄様研究所入りの話だ。
「……大方、昔の自分を見ているようで放っておけなかったんだろう?」
オイディプスおじ様が肩を竦めてそう言う。
そのあまりに意外な発言に、私はきょとんとしてしまった。
「スーライトお姉様が、オルリス兄様みたいだった……?」
盛大にハテナを浮かべていると、スーライトお姉様は昔の話よ、と苦笑いを浮かべた。
「この、赤に近いダークピンクの目の色が原因でね、ずっといじめられて……自信がなかったのよ。今日のオルリス君みたいに前髪を伸ばして隠したりして、幽霊みたいだった。人前に出るのが怖かった時期も、あったわね……」
「え……?!」
衝撃だ。引きこもりの幽霊みたいなスーライトお姉様なんて想像出来ない。
「うふふ。でもお姉様は、愛の力で変わったんですよね」
お母様がポッと頬を染めてそう言うと、静かにワインを飲んでいたリヒテライトおじい様がぽつりと呟いた。
「スーラは本当に変わった。あの勢いを受けて、結婚を阻止できる者はいないねぇ」
お、おおう。色々あったんだなぁ。
髪をバッサリ切って生まれ変わり、高笑いするスーライトお姉様の姿はわりと想像出来た。
「でもどうして、目の色が原因でいじめられたりしたのですか?とても綺麗な色なのに……」
ぽつりとそう言うと、あぁ、とお父様が答えてくれた。
「瞳の色で差別する人間というのは一定数いてね。最も嫌われている、赤い瞳に近ければ近いほど、謂れのない侮辱を受けたりするんだ」
「嫌われて……?赤い瞳になにかあるのですか?」
なにやら複雑そうな話だ。スーライトお姉様が話を引き継ぐ。
「一般的に赤い瞳の人間は、禁じられた呪や、血液を触媒にした精霊術に適していると言われているの。更に、高い魔力を持つことも多いから恐れられているのね」
「そう、なのですか……」
呪と聞いてピクリと体が震えた。
確かにそんな説があるのなら、人々は赤い瞳を怖がってしまうかもしれない。
「禁じられた呪は試しようがないからそちらは諦めたわ。でも血を触媒にした術がどうのこうのって話については真実を知りたくて、オリジン・スロット……つまり精霊魔術の研究を始めたのよ」
なるほど、と頷く。
どんな結果があろうとも、自分についての真実に向けて突き進んでいく。
それはなんだか、とてもお姉様らしいと思った。
これにて第2章終わりです。
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第3章からは、金薔薇シナリオにおける序章が始まります。




