36 授業計画その2
さてさて、意気込みも新たに教科について教えてもらう。
「先程も言った通り、この1年やるのは基本の五大教科よ。文学、歴史学、算術、音楽、魔術学ね。ついでに霊草学も私からじっくり教えようと思ってたんだけれど、バージルのヴィル君と連絡を取り合ったらやる気満々みたいだから、あちらに一任することにしたわ。専門家の方がいいもの。でも、進捗は教えてね」
「はい、わかりました」
確かにヴィル兄様、「僕からはワンポイントだけ」とか言った次の瞬間には自分の教科書全部持ってきて1年分やろう!とか言ってたもんな。1年分のワンポイントってそれもうワンポイントじゃないよね。
「体力作りとマナーのお勉強の他に、これからは五大教科も集中的に行うわ。私も夫のサポートや家のことがあるから毎日じゃないけれど、最初のうちはここに1週間のうち半分は泊まるから。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします!」
ちらりと、そうなの?と両親を見ると、うんうんと嬉しそうに頷いている。
スーライトお姉様も子供がいるのに、そんなに私の相手をしてもらってしまっていいのかな?と思って聞いてみたのだが、ちょうど下の子が学園に入学して手がかからなくなったので良いそうだ。
なんか、泊まり込み合宿みたいな雰囲気になってきた。実家なのに。
大量の荷物にはお姉様の荷物も含まれていたらしい。
となると、一週間が七日だから、そのうち三、四日はスーライトお姉様とのお勉強会。
で、一日はヴィル兄様とのお勉強だから、約五日はお勉強の日だ。
ふむ。となると後の二日は、予習復習以外は自由時間か……。いい感じだな。
両親とスーライトお姉様も、大体の直近のスケジュールが固まってきたねと話し合っている。
その中で、私のお誕生日会の話題が出た。
丁度いいので私はお母様に話しかける。
「お母様、お母様。1ヶ月後の私のお誕生日会なのですけれど、私も準備に参加してもいいでしょうか?」
「あら、もちろん良いですよ。どうしたの急に?」
ふふふ、と私は笑う。
「お母様ともお菓子を考案する約束をしていましたし、沢山の人に来てもらうお祝いですから。おもてなししてみたいのです!」
「まぁ!それは素敵ね。それじゃ、素敵なものをたくさん用意して、招待客の皆様をびっくりさせちゃいましょう」
ふふふ、と頬を染めて嬉しそうに笑うお母様。
うん、誕生日会を盛り上げるのは親孝行になりそうだ。
「来月に迫っているのなら、急がなければいけないわね。招待状はもう送っているの?」
頷く両親。メイドに指示して招待客リストを持ってこさせると、お姉様と両親で席次の相談が始まった。
そういう話し合いになると、私は親戚のお正月会に置かれた子供状態である。つまり蚊帳の外で暇だ。
席次は首を突っ込んでも分からないしなぁ……とぼんやりしていると、壁際でコニーが私と同じくぼんやり待機しているのが目に入った。
ふと思い立った私は、コニーにあっち向いてホイを仕掛けることにした。
コニーに視線を向けると、すぐに反応してどうかしましたか?という顔をする。私はすかさず以前教えたじゃんけんの構えを取った。
コニーもハッとした顔をして構えをとる。
ちなみに、両親の話し合いを邪魔してはいけないので、当然音声なしのあっち向いてホイ対決である。
さーいしょはぐっ、と小さく手を振りタイミングを合わせ、じゃーんけーんぽんっ!と手を出す。
しゅばっと出た手は、私がぱーでコニーがぐーである。私が勝ちだ。
無音であっち向いてホイ!と右を示すと、コニーはふんっと上を向いた。
そしてゆっくりと下ろした顔はドヤ顔である。
くっと悔しさを押し殺し、すぐさまジャンケンの構えをとる。
そうしてほいっ!ほいっ!ほいほいほいっ!と戦いは続き、スピードはどんどん上がり、フェイントやタイミングずらしで相手の油断を誘うなど高度な技術が炸裂したところで、視線を感じてハッと振り返った。
すると、いつの間にか増えていたアルフォンスさんまで加えて、両親とお姉様が微笑ましいものを見る目でこちらを見ていた。
は、恥ずかし……。コニーちゃんも下を向いてかっかと赤面している。
そんな様子を見たお父様がふと口を開いた。
「やはり、お誕生日会の前にお友達候補を何人か作っておかないとな。聡明とはいえ、遊び相手が欲しい年頃のようだし」
「そうね、大人びていてもアリスもやっぱり遊びたいお年頃ですよね」
うう。精神年齢はアラサーとか言えない……。
そんなわけで、場は私のお友達候補を考える会になった。




