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33 薬草学と霊草学


 ローヴァイン離宮魔術学園は十月入学の学校だ。

 そのため、十一月の現在からだと一年無いくらいが私の入学準備期間になる。

 

 その事を考え、少しペースを早めにすることになった。

 

 まず、勉強会で一週間分まとめて教えてもらう。

 そして次の日からは、一日ひとつ必ず素材を暗記し、次の植物の予習をしておき、次の日にはそれを完全に暗記し、また次の植物に目を通しておき……という流れで自習することになった。一日1.5個という感じだね。

 そして一週間に一度、ヴィル兄様との勉強会でそれを発表して確認してもらうのである。

 そんな訳で、図鑑は貸してもらえることになった。

 

 当然、植物学界の権威・バージル家式育成計画はそれだけでは終わらない。

 

 ごそごそとヴィル兄様自身の古い教科書を引っ張り出してきたかと思ったら、「まるまる一年分ローヴァインの授業を予習するよ。1年でやることなんてたかが知れてるし、可能ならスピードを上げて2年生の領域までね」というのだ。

 

 あ、ありがたい。めっちゃありがたいけど……幼女の頭がパンクしないだろうか。

 

 なにしろ、ハイメのお姉様が教材の選抜を終えて領地から戻ってきたら、他の科目でも猛勉強が始まるのだ。

 究極コースになった魔術の他にも、当然、歴史や文学などの基礎教養科目はある。

 普通だと思っていたヴィル兄様ですらこれということは、お姉様はどんなスピードの授業計画を練っているのだろう……。

 

 ひぃぃ、と思わず頭を抱えそうになるが、ヴィル兄様は上機嫌だ。

 

「アリスのために色々できるのがほんとに嬉しいんだ。……一緒に、頑張ろうね」

 

 そう言って優しい目で見詰められ、頭を撫でられてしまえば、涙目で頷くしかない。

 

 くぅ、優しい。好き。

 


 ◇

 

 

 さてさて。

 そんな感じで大まかに予定を定めたら、いよいよお勉強開始だ。

 

「これはセントーリー。支配星は太陽、要素は火、熱と乾燥の特性で、古代にはfel terraeと書き、視力低下の回復、心肺機能強化、臆病の改善など――――」

 

 図鑑を持ち、音読する。

 

 それを終えたら、兄様がその素材についてより詳しい解説をしてくれる。それをできるだけ羊皮紙にメモする。

 それから本を兄様に返して、何も見ずに先程の植物の説明を諳んじる。

 

 こんな風にして素材丸暗記学習一週間分を軽く把握したら、次は薬草学だ。

 

「薬草と霊草という風に呼び方を分けるのは何故か知ってるかな?」

「うーん、……分からないです」

 

使い込まれた教科書を前に、講義してもらう。

 

「霊草も薬草も、ハーブを示すのは変わらないよ。だから使い分けずにハーブとだけ呼ぶ人もいる。だけど、特に魔術に使われるものが霊草、普通の薬に使われるものを薬草と使い分けることが多いんだ」

「なるほど……」

 

 なんで使い分けてるんだろうと思っていたが、そういうことらしい。

 

「だけど言ってみれば、まだ魔術での用途がうまく確立していないだけのものを薬草と呼ぶ見方もできる。そういうものを発掘して広めるのがバージル家の得意技ってところかな」

「おお……!」

 

 つまり、町中で埋もれている一般人をスカウトし、アイドルを誕生させるのが得意ということか!

 

 そんな突っ込まれそうな解釈をしつつメモしていく。

 

「まぁともかく、薬草学っていうのは魔術的要素の少ない、物質としての成分だけで作る薬作りを習うことが多い学問かな。反対に霊草学……授業の名前としては霊草術か。そっちでは護符や魔法陣、魔香としての加工の仕方を習うよ」

「はい、分かりました!」

 

 ふふふ。なんとも心躍る説明だ。

 早く実践してみたいなぁ……!

 

 

 こんな風に概要を教えて貰い、初日のお勉強会は幕を閉じた。

 

 

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