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31 霊草術

「今回の場合はプレゼント用という事だから、何らかのお守りとしての効果を想定してみよう」

 

 そう言ったお父様が、私の記した羊皮紙を指さす。

 

「カレンデュラの火、セージの風、コルツフットの水という要素を読み解いてみるよ。まず、火から連想できるのはどんなことだと思う?」

 

 お父様の静かな声に、私はうーむと考えてみる。

 

「火は……ゆらゆらと動いて、明るい光と影を作って、熱くて、灰や炭を作って……、力強いもの?」

 

 私がしどろもどろにそう言うと、お父様はうん、と頷いた。

 

「うん、概ね良いね。では、セージの司る風は?」

 

 風。風かぁ。

 

「ゆらゆらしてて、暑かったり寒かったりして、何かを運んだり……? 早かったり留まったり……」

 

 これも概ね良いらしい。

 

「では最後に、水からは何をイメージするかな」

「水は……生きるのに必要で、柔らかくて。水鏡っていうくらいだし、何かを映したり反射したりする……でしょうか」

 

 早急に語彙力とイメージ力が欲しい……。

 

 しかしお父様は満足げだった。

 

「うん。大体そのイメージがあれば良いだろう」

 

 そうして、「霊草と変化の魔術」のページを捲る。

 置く時にゴトリと重い音をさせるほど分厚いその本は、捲る度に少しホコリっぽい匂いとインクの匂いをさせた。

 

 開いたページは、「三種の混合作用と成果について」という見出しだ。

 

「素材の名前で検索する本と、要素で検索する本に分かれていることが多いんだよ。今回は三種類ということで特徴があるから、ここを見てみよう」

「三種類だと、特徴的なのですか?」

 

 私がそう問うと、お父様はいたずらっぽく笑った。

 

「勿論。想像してごらん。ひとつの鍋の中に火と風を入れたらどうなるかな?」

「火と風……、うーん。燃えすぎてお鍋が焦げてしまうか、風が強すぎて火が消えてしまうでしょうか?」

 

 うん、と頷いたお父様。

 

「そうだ。本来はそのように、二種類でも扱いは難しい。そこに水を入れたらどうなるかな?」

「えっ、更にですか……」

 

 私はイメージしてみる。

 

 風によって燃え盛る火に水をかければ、せっかくの炎は消えてなくなってしまう。

 

 火で熱した水に風を吹きかければ冷めてしまう。

 

 慎重に調節した風で火を煽れば、鍋に入れた水を早く、熱く煮えたぎる熱湯にする事ができるだろうか。

 だが、火だけで根気強く熱し続けるのと最終的な結果は変わらない。

  

「ううーん、3つ合わせてもそんなに良いことはないような……?」

「そうだね。ぱっと見は難しいだろう。だけど、さっき挙げたような多彩なイメージの組合せなら違ってくるはずだよ」

 

  例えば、と開いたページの一つの項目を指さす。

 

「草、火、風の三要素を見てみよう。簡単な連想をするだけならば、風によって燃え上がった炎が草を焼き尽くして終わってしまう」


 しかし、お父様が指し示す項目は「邪葬風の護符」という物騒な名前だ。

 

「植物の、太陽に向かって伸びていくイメージと、運び去る移ろうものである風、浄化と動力を想起させる火という三つの要素を、魔力で慎重に重ね合わせていくことによって、悪しきものを流す護符になるんだよ」

「はぇぇ……」


 なんだか連想ゲームみたいになってきた。

 

 とりあえず邪葬風というやつが、ビックリするくらい中二病な名前の割に、人のためになる術であることはわかった。

 だが、そんな連想ゲームで霊草術とやらはできているのだろうか?

 

 そんな疑問を抱いたが、お父様は説明を続けた。

 

「要素を数多く並べるだけではもちろんダメだよ。要素の中の、どんな特性を引きずり出すかを指示して固定する必要がある。そこで、本人の魔力や様々な補助器具が必要になって来る」

「おお……」

「自然に起こる現象とは違う、象徴・イメージに近い特徴を引きずり出そうとすればするほど貴重な魔道具やその他の触媒が必要になるんだ」

 

 きちんと説明には続きがあった。なるほどなぁ。

 

「しかし、今回の場合は貴重な補助器具はそれほど必要なかっただろうね。なにしろ製作者がオルリス君だ。バージル家の血筋は特に植物魔法が得意だから、要素の中から望んだ効果を引き出すことが出来るだろう」

「えっ、そうなのですか?!」

 

 そんなのチートじゃないかと驚くと、お父様はふふっと笑った。

 

「とは言っても、バージル伯爵もヴィル君もそこまでの力は持っていないよ。オルリス君が特別なんだ」

「そうだったのですね……」

 

 さすがは乙女ゲームの攻略キャラ、存在がチートであったらしい。

 

「そういうことを前提にして、火、風、水の三要素の項目を見てみよう」

「はい!」

 

 目次に戻ってから、その三要素の組み合わせのページを捲る。

 

 すると、いくつかの術が記されていた。

 

「今回はセージとコルツフットを使っているから、これかな」

 

 

 そう言ってお父様が指し示したのは、あるひとつの術だった。

 






設定を考えるのが楽しいです。

「ぼくがかんがえたさいきょうのまほう」感が凄いですが、楽しいものはしょうがない。

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