298 潜入道具
「まず、潜入となると必要なのは隠匿の道具……ですが、これは改良済みなので問題ありませんね」
「ああ」
内陣への報告会議の後、アベルさんと私はすぐに準備の最終確認に取り掛かった。
今行っているのは、この一年でコツコツと作ってきた魔道具の確認である。
なぜかアギレスタ皇子に見破られた「隠匿の首輪」だが、確認したところ私とアベル様、レイ先生にも効きにくいことが判明している。
魔力量が原因なのか、体質が原因なのかは分からなかったが、自分たちで実験を行い効果増幅の重ねがけを行いブーストすることで精度が改善された。
自分たち同士で確認して漏れはなくなっている。
次に、潜入・脱出に使う飛行具。
これは初のフル金属製も考えたのだが、金属よりも木材の方が風の文字と相性が良いため断念した。
その代わり……何があっても壊れないよう、素材の育成段階から維持をこれでもかと込めた特製の木材を育成することに。
その結果、金属を殴って凹ませることが出来る強度を誇り、早々燃えない上、アルヘオ文字を付与した専用の道具でつけた傷以外は魔力を篭めれば修復するという冗談のような木材が完成している。
オルリス兄様に三日三晩徹夜の儀式をしてもらって育成し、ようやく飛行具二本分が作れたレベルのものなので量産は出来ないが、今後は無理せずにコツコツ育成して量を増やしていく予定だ。
(なおオルリス兄様へのお礼は、後日一緒にニコニコ植物採取ツアーへ行くということになった。)
次に、身の安全を守る魔道具。
防御装置に該当するものだが、今まで作ってこなかっただけに少々難航した。
まず、どう守るのか。空中に盾を召喚するのか、常時バリアにするのか、弾くのか、無効化するのか、何を選別して認識し弾くのか。完成イメージについても、制作方法についても議論は難航した。
その結果、ひとまず起用されたのが「塔のオース」という魔道具である。
これはかなり物騒で、研究の結果すこし使えるようになった「塔」のタロットを応用したもの。
オースとは口のことで、これは全てを破壊する“塔”次元の口の中へ対象をぶちこむという恐るべき魔道具だ。
……実は失敗した魔道具や後に残せない極秘資料の焼却炉代わりにするためこっそり作っていらないものをポイポイ捨てていたのだが、その危なっかしい使い方を見て、未だかつて無いほどびびって慌てたアベルさんに全力で止められたという経緯もあったりする。
確かに、私が転んでそこへスポッと入ってしまったらジ・エンドだ。
……ごほん。
まぁとにかく。
それをエアコン石を作った時の応用で指輪にエンチャントし、起動すれば自分の前方一メートル四方の範囲のものを“塔”の中へ強制収容できるという破壊兵器……ごほんごほん、ブラックホー……ゲホッゲホッ、防御装置が完成した。
なお今はアベルさんが全力で改良したので生き物は弾かれるようになっており、無機物と魔力にのみ反応するようになっている。
さてさてそして、最後の装備品。
それは──変身の魔道具だ。
「では、起動するか確認しましょう」
そう言って二人で革製の腕輪を装着する。
幅の広い腕輪にはぎっしりとアルヘオ文字が刻まれており、中央には合金のラインが入って更に文字が刻んである。
それに魔力を流すと合金部分の文字に光が宿り、変化が訪れた。
「……おお、黒髪にしたんですね!」
「ああ。君は金髪か」
目の前のアベルさんは黒髪、褐色肌に碧眼のオリエンタルな顔立ちの青年に。
そして私は、鏡で見れば桃色の鋭い瞳に金髪ボブの少女になっているはずである。
つまりは完全な別人だ。
「何度やっても不思議なものだな。話すといつものとぼけた君なのに、見た目は抜け目なさそうに見える」
「さりげなく貶してないですか……?」
むうっと睨むとくすりと笑われた。
それにぶつくさ文句を言いつつ、鏡を取り出して自分の顔をぺたぺたと触る。
これは容貌や色だけを変えたものなので背格好は変えられない。幻なので触れば見破られてしまうが、他人の顔なんてそう触らないものだから大丈夫だとは思う。
いつか実際に体を変化させる「変身薬」とか「変身ベ○ト」とかを作りたいものだが、今は隠匿シリーズを応用したこれを作るので精一杯だった。
「決行は週末……それまでに皇城についての知識を収集しないとな」
「そうですね。私はお父様とお母様、あとはリヒテライト様にお話を聞いてみます」
「ああ。こちらは蔵書を当たってみよう」
そう言ってこの日はアベルさんと別れ、私は親族に話を聞くことにした。
チートが増えてきました。




