23話 私のお兄ちゃんがこんなにロックなわけがない【文化祭編/後編】
文化祭当日
軽音部部室の小さな窓からは、朝日が差し込んでいた。外からは出店などを準備している生徒たちの元気な声が聞こえてくる。
俺は、部室の隅で、ギターのピックを握りしめていた。
「おし……これなら……なんとかいけるだろ……!!」
完璧、とまではいかなくても、最後まで曲を完走できるくらいには弾けるようになった。
ギリギリまで粘ってここまでが限界か……けれど、初心者が3週間で到達できる限界まではなんとか持っていけた気がする。
指に血が滲んでいる、けど痛みなんてどうだっていい、自分の作った曲を妹に、小雪に届けられる喜びの方が大きかった。
部室の扉が勢いよく開く、リリィだ。
「アンタ……まさか徹夜で練習してたの?」
「へへっ……だけど、仕上がったぜ、あとは魂込めて歌うだけだ」
「……ほんと、バカじゃないの、アンタがぶっ倒れそうになってどうすんのよ」
リリィが手を差し伸べてくれる。俺は眠たい目を擦りながら、リリィの手を掴んだ。
「若!野外ライブで使うような、どでかいアンプ!準備しやしたぜ!!配線もバッチリです!」
勢いよく、ヤスが部室に入ってくる。作業員の格好に扮して、いろいろと裏で動いてもらっていたのだ。ヤスの準備が完了したのなら、あとは本当に歌うだけだ。
「迷惑かけたな、ヤス……ドラム叩き終わったら速攻でトンズラこいてくれよ」
「……それが若のケジメなら、あっしは何も言いません、最高の唄を、小雪ちゃんに届けましょう」
ヤスは何故か涙目になっている。やめろよ、なんか任侠映画っぽくなってるだろ!別にお縄につくわけじゃないから!……いやもしかしたらお縄につくかもな……。
「おう、じゃあ、アレやろうぜ、野球部とかがよくやってる円陣ってやつ」
「はぁ…?なんでアタシがそんなこと……」
「いいっすね!若き日を思い出しやす!」
リリィも文句をいいつつ、ヤスは上機嫌で、みんなで円陣を組む。
「俺たち誘拐ヤンキースの最初で最後のライブ……小雪の為に、最高のライブにしよう」
「もちろんです!」
「このシスコン、さっさと掛け声かけなさいよ」
大きく息を吸って、腹から声を出す。
「誘拐ヤンキースッッッ!!!夜露死苦ゥゥゥッッッ!!!!」
「「「夜露死苦ゥゥゥッッッ!!」」」
おきまりの掛け声を決めて、俺たちは、今日のステージ、屋上へと向かう。
「おい雨川!屋上にある巨大なセットはなんだ!外にいる一般生徒から苦情が入っているぞ!またお前がなにかしたんだろう!!」
「やっべ…!」
後ろから生活指導の教員の声が聞こえる。いつも俺の容姿だけで難癖つけてくる嫌なやつだ。だけど今回に限っては俺は何かしてしまっているので、なにも言い返すことはできない。
リリィの肩を抱き寄せる。
「ちょっ!なにすんのよっ……!まさかこんなところで……っ!?」
リリィが頬を赤らめてよくわからないことを言っているが、無視をして、大声をだす。
「グヘヘ!!いいところにベースを弾けるかわい子ちゃんがいたぜ!!コイツをいまから屋上に連れて行って無理やりベースを弾かせてやるぜ!俺様の魂のライブの為になぁ!!!!」
「なんだとぉ!!罪もない一般生徒を!やはり雨川、貴様外道だったのかぁ!!!」
面白いように引っかかってくれる。これで謹慎やら退学やらの処分は俺だけですむ。ヤスには悪いが、自力で逃げてもらうことになるだろう。なに、ヤスなら大丈夫だ。こんなとこなんかよりもっと凄まじい修羅場から生還している。
全力疾走で教員数名から逃げる。屋上に立てこもったらこっちのもんだ。階段を、リリィとヤスと一緒に駆け上がって、屋上に立てこもる。
「ハァ……ハァ……すっげぇ……」
学校の屋上には、野外ライブで使うようなセットをそのまま設置してあった。幾分か、簡易的なんだろうけど、こういうものを初めて見る俺からすると、とても大掛かりなようなものに見えた。
「さっさとはじめるわよ」
「若!準備はできやした!」
「じゃあ、派手に挨拶ぶちかますぜ」
ギターをアンプにつなげて、マイクをオンにする
「大由良高校のみんなぁ!!!この度デビューと相成りました!新生バンド誘拐ヤンキースと申します!!夜露四苦ゥゥゥ!!!」
「「夜露四苦ゥゥゥ!!」」
信じられないような大きな音が屋上のフェンスを揺らす。たぶんだけど、この学校の向かい側にある小雪の病院にも届いているはずだ。
騒音騒ぎで、この一度きりのライブが終わる頃には、俺は謹慎どころか退学処分になるかもしれない。
申し訳ない気持ちで、いっぱいだけれど、五分だけでいい、五分だけくれれば、伝えられる。
校舎の中にいた生徒も、体育館にいた生徒も、みんな校庭にぞろぞろでてくる。教員たちは下から必死に何かを叫んでいる。
挨拶はここまで、
あとは、たった一人のためだけに、俺は歌う。
俺は、練馬の中心で、妹に愛を叫ぶ。
「大切な家族に、この歌を捧げます」
「LOVELOVE sweet KOYUKIELU♡」
ヤスのドラム、リリィのベースの音が聞こえる。
ギターのカッティングを入れた瞬間、校庭のざわつきは無くなる。
短いイントロから、Aメロへ。
喉がちぎれるくらい、叫ぶ。
俺なんかが想像もつかないくらい
怖くて寂しい思いをしている妹に。
大好きなご飯を、全然食べなくなった妹に。
家族に不安にさせない為に、わざと大げさに笑う妹に。
届くように。
「お母さん、何か聞こえる、窓あけて……」
お見舞いにきてくれている、おじさんと、お母さんが不思議な顔をしている。聞こえないのかな?
「本当だ、何か聞こえるな……」
おじさんが、窓をあけると、お兄ちゃんの声がきこえてきた。
「おい……アイツなにやってんだ!!」
「あらあら…!」
お父さんとお母さんが、向かい側の高校を驚いたような顔で見つめている。
私はベットからゆっくり降りて、お父さんとお母さんの間から、外を眺める。
お兄ちゃんがいた。
学校の屋上で、お兄ちゃんがギターをもって、歌っていた。
「小雪!!!はやく元気になれよ!!!ご飯を2合しかたべない小雪なんて俺は見てられないぞ!!」
そして、とんでもない爆音で私のあられもない秘密を暴露していた。
「なっ!!なにいってんの!!今はちょっとしんどいから1合しか食べてません!!」
「小雪!!胸パッドだってお兄ちゃんが作ってやるから病気が治ったら一緒に海に行こうな!!」
「お…!お兄ちゃんのばかーーっ!!!!」
弱っていた体に、だんだん力が湧いてくる。いや力じゃない、殺意という名の衝動だ。
「小雪ぃぃいい!!!!!!頑張れぇぇぇえええええええええ!!!!!」
「ほんと……バカじゃないの……っ!」
音楽と呼べるものじゃないけれど、バンドというにはあまりにも不恰好なものだけど、
想いだけは、痛いくらいに伝わった。
「ありがとう……お兄ちゃん。」
お母さんとお父さんの前で、隠していたはずの涙は、自然と、私の瞳から溢れていた。
「ほんと、自慢の息子だよ」
「ちょっと歌は下手だけどね……」
お父さんとお母さんと私で、いままでないくらい、大笑いする。涙がでるくらい、みんなで笑う。
次の日、ほんの少しだけど、病状が回復に向かっていると、お医者さんから伝えられた。
日間ランキング1位を目標に今後は最低1日2話投稿をすることにしました。評価、感想、ブックマーク等をいただけると更新のモチベーションにつながります。できれば3話投稿したい…!
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