16話 金髪ギャルとデート。俺の妹が尾行下手すぎる件について
日曜日、天気は良好。
俺はリリィと待ち合わせの駅前で、ぼーっと、複雑な気持ちで立っていた。
「リリィとデートか……」
俺は小雪のことが好きだ。ヘタレすぎて自分の気持ちを、ちゃんと伝えられていないけれど……。
いや、ここまできたらもう意地のようなものなのかもしれない。
昔交わした約束を守りたい。
小雪の誕生日、12月24日に、俺は想いを伝える。それまでは、小雪のお兄ちゃんとして、幼馴染として、一緒にいたい。
これは俺のワガママかもしれない。いやワガママだ。
それでも、最高の場所で、時間で、想いを伝えたい。それが俺にとって、12年も待ってくれた小雪に対する誠意だ。
「おまたせ、雨川」
後ろから、ハスキーな声が聞こえる。リリィが来たのだろう。
「おう、そんなに待ってない……ぞ……」
振り向いた状態で固まる。
可愛らしいベレー帽に、白を基調としたシャツ、デニムのサスペンダーパンツに、靴は皮靴のようなハイヒール。
いつもの金髪ギャルといった印象はない。まるで、イギリスのベイカーストリートを歩いているおしゃれな英国美女のような印象を受ける。
化粧もしているのだろうか、とにかく、いつものギャップがすさまじすぎて、かたまってしまったのだ。
「なによ……そんなに変?」
「いや……変じゃない、綺麗で驚いたんだ」
「っ……あっそ」
思わず本音が漏れる。
リリィの顔が瞬間湯沸かし器のように一瞬で赤くなる。
「雨川、お世辞とか言えたんだね」
「お世辞じゃねーよ。まぁ、小雪の次に可愛いな」
「はいはい、シスコン乙」
リリィと一緒に駅前を歩く。道行く人たちはリリィをみて頬を緩めるが、俺の顔をみてげんなりする。なにこれ?新手の羞恥プレイ?
「で、あのちっこいのはどうするの?」
「ちっこいの?」
「うしろ、こっそり見てみ」
リリィの言う通り、後ろを肩越しにこっそり盗み見る。
あんぱんと牛乳を持ってサングラスをかけた小雪が、電信柱に隠れながらこちらを凝視していた。
服装もどこから引っ張り出したのか、スーツを着ている。
「やっぱりついてきたか……」
「あれでバレてないつもりなの、残念すぎない?」
「残念とか言うな!俺の可愛い妹だぞ!ちょっとだけ頭のネジがゆるいだけなんだ!ちょっとだけな!」
小雪はもしゃもしゃと呑気にあんぱんを食べている。
道端であんぱん食べながら牛乳パック(1リットル)もってたら流石にバレるだろ……通行人の方々びっくりしてるよ?お兄ちゃん、小雪の将来ちょっぴり心配になっちゃったよ?
「で?どこ行くの?」
「まぁとりあえず、昼飯がてらラーメンでも行くか」
「いいね、家系にしようよ」
デートにラーメン、そう言ってもリリィはまったく嫌がる気配も見せない。むしろノリノリだ。
俺がリリィと仲がいいのはなにも、同じ悩みを抱えているからという理由だけじゃない。同じゲームが好きだったり、同じ漫画やラノベが好きだったり、とにかく趣味が合うのだ。
かといって、いつも行っている行列のできるようなラーメンは流石にパスだ。知る人ぞ知る隠れた名店という、矛盾を孕んだラーメン屋を俺は知っている。
「ここ?」
「あぁ、ここだ」
「なかなか雰囲気あるね、いいじゃん」
古ぼけた看板や暖簾は歴戦の猛者のような印象を与える。駅から少しはずれた裏路地を、進むと、ここ昇竜家に着く。
中に入り、食券を購入する。店内は、テレビを垂れ流しにしているアットホームな雰囲気だ。
俺たちのあとに、小雪も入店する。どうやら食券を買っているようだ。大盛りチャーシューメン、アブラマシマシ……
小雪ちゃん?さっきあんぱんと牛乳食べてなかった?
「あの子の胃袋どうなってんのよ」
「12年一緒だけど俺にもわからん」
笑いをこらえている俺とリリィの、一つ隣、真横のテーブルに座る小雪。どうやら自分の変装に完璧な自信を持っているらしい。
ポニテにしてサングラスにしただけじゃバレるだろ!なんでそういうところだけ残念なんだよ!俺の逃げ道をなくす時だけIQ上がりすぎじゃない!?
そうこうしているうちにおばちゃんがラーメンを運んでくる。
分厚いチャーシューにほうれん草、煮卵、うちわのように大きなのり。濃厚な香りが鼻腔の中に広がる。
まずはスープを飲む。濃厚で、体に染み渡るような味わい。これぞ王道家系だ。
「美味しいね、びっくりしたよ……」
「だろ?」
どうやらリリィにも気に入ってもらえたらしい。よかった。
隣からじゅるりと音が聞こえる。
小雪がこちらを凝視していた。正確にはラーメンを凝視している。
心配しなくても、すぐくるからおとなしく待っとけよ……!絶対に尾行してること忘れてるだろ……!
「っ……」
リリィも気づいたらしい、必死に笑いをこらえている。俺もなんだかおかしくなってきた。
すこし経つと、小雪のもとにも待望のラーメンがやってくる。
「うまっ!」
いや小雪ちゃん声出てるって!美味しくても尾行してるんだから我慢しなさい!
流石に焦ってこちらを見る小雪、俺たちは気づかれないように平静を装う。小雪には悪いけれど、面白いおもちゃを見つけた気分だ。
小雪は安心したように、はふぅ、とため息をついている。やばい、笑いがこらえきれない。
すぐさま器を空にして、昇竜軒を後にする。小雪は慌てて替え玉を食べていたけれど。尾行(笑)をしている小雪を待つわけにもいかないので、放っておいた。
「次はどこに連れてってくれるの?」
リリィが腕をくんでくる。思わずドキッとするけれど、普段から超絶美少女の小雪が密着してくるので、慣れっこだ。だからこんなやわらかいもの押し付けられてもノーダメージなんだからねっ!!
「悪ふざけはやめろ……!」
「……いいじゃない……で……デートなんだし……?」
リリィはそういうとまたしても真っ赤になる。恥ずかしいならそういうことするなよな!!ちょっとときめいちゃうだろ!!
「じゃあ次は、水族館にでも…」
次の行き先を告げようとした瞬間、リリィのスマホが鳴る。
「ごめん、電話かかってきちゃった」
「おう、きにすんな」
すこし離れて、リリィはスマホを耳にあてる。そんな姿もサマになっていた。すこしすると、大きな声がスマホから聞こえてきた。
『お前どこいってんだ…?さっさと帰ってきて飯つくれよ!腹へってんだぞこっちはよぉ!!』
「父さん…!?いつ帰ってきたの……」
ずいぶん小声でリリィは喋っているつもりのようだけれど、俺には聞こえた。いや聞こえてしまった。
『……んなことどうだっていいだろ!いいか!さっさと帰ってこいよ!帰ってこなきゃ……わかってるだろうな?』
「わかったから……大きな声ださないで……!」
不穏な空気があたりに立ち込める。リリィの体は小さく震えていた。
「ごめん……その……今日じつは、好きなゲームの発売日で、もう帰らなきゃ」
「……なんで嘘つくんだ」
「……えっ?」
「悪いけど、聞こえちまった、通話の声」
「………嘘ついて、ごめん……だけど、はやく帰らなきゃ、弟達がなにされるか……わかんないから……」
俺に背を向けていたリリィの声は、震えていた。なにか、家庭に複雑な事情を抱えているとは思っていたけれど、まさかここまでとは。
「大丈夫、いつものことだし」
リリィは笑っていた。笑っていたけれど、肩は震えていた。
「今日、俺はお前とずっと一緒にいる。」
「……え…っ?」
「そういや、約束まだだったろ?弟達に飯作る約束。今日にしようぜ? てか今日にする。もう決めた」
「アンタ……ほんとに……バカだよ……!」
俺がしてやれることは、たぶんなにもない。そんなことはわかっている。
けれど、なにもせず、今にも泣きそうな女の子を放っておくことなんて絶対にできない。
……でも、一応確認しておく。
「お前の父さんって、ケンカ強かったりする?」
「っ……かっこつけるなら最後までかっこつけなさいよ、ばか!」
笑いながらリリィは答える。
リリィとの初デートは、急遽、お父さんに挨拶へと変更になった。
背後から殺気を感じるけれど、いまは無視しておく。
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