営業部の首なし魔女先輩
#年納め紅白執筆合戦2025 #首なし組
通勤時間。人でごった返す会社のエレベーター前。
──あ、宇根先輩だ。
ひしめく人で気づかなかったけれど、意外な近さにしゃんと伸びた背中が見えた。長いポニーテールが揺れている。
──先輩はもう乗るとこか。俺はその次だな。
同じタイミングで乗れないことをすこし残念に思う。
宇根先輩が乗った途端、ブザーが鳴った。過積載だ。
「やだもう、急いでるのに!」
不意に先輩が振り向いて、視線が合う。ぱっと明るくなった表情にドキッとした。
「あ! ねえ、あなた技術部の人だよね? お願い。私の身体、連れてきてくれない?」
「え」
俺の顔を認識してたのか。
驚いている間に先輩は自分の首をひょいと外して、エレベーターの中にいる営業部の人に手渡す。その人は慣れた様子で頭を抱えた。
周囲の驚きは、意外なことにほとんどない。みんな慣れたものなのかもしれない。
──営業部の首なし魔女なんて呼ばれてたけど、本当に首が外せるのか。
なんて思っている間に、俺の前に首のない宇根先輩の身体が立つ。
ひと一人の身体が降りたことで、積載量が基準値内におさまったのだろう。ブザーが鳴り止んだ。
閉まりかけた扉の隙間から先輩の首が言う。
「ごめんね、急ぎの資料作らなきゃなの。身体だけじゃ前が見えないから、手を引いてあげたら歩くから。身体は急がないから、ごめんね。営業部の宇根です。よろしくねー!」
ぱたん。
何を言う間も無く扉は閉じた。
後に残されたのは俺と、首のない宇根先輩の身体。
「え、手、手を?」
手を引いて、と言っていた。
それはつまり、宇根先輩の手を取れということで。
「せいねーん、はやく繋いであげないと、不安そうだよ〜」
「えっ、あっ」
後ろからささやかれてハッと目をやれば、宇根先輩の手がそわそわと周囲に伸ばされている。
慌ててその手を取れば、ほっとしたように細い指が俺の手を握った。
「首なし魔女を見るのは初めてかい、青年」
振り向いて声をかけてきた人を確かめれば、すらりと背の高い男性が。たしか、情シスの井伊地さん、だったろうか。
「はい。その、聞いたことはあったんですが。実際に見るのははじめてで」
「うんうん。それじゃあ魔女の取り扱いを教えてしんぜよう」
言われるがまま動いているうちにエレベーターの扉が開く。
「さあさ、いってらっしゃい」
背中を押されて、宇野先輩の手を引きながら恐る恐る乗り込む。
そのまま営業部の部屋へ入った先で「まるで結婚式の新郎新婦ね」と宇根先輩の首に言われるなんて、その時の俺はまだ想像もしていない。
ただ、預けられた手の柔らかさと温かさを感じながら、無事に届けなければという思いだけで頭がいっぱいだった。




