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営業部の首なし魔女先輩

掲載日:2025/12/30

#年納め紅白執筆合戦2025 #首なし組

 

 通勤時間。人でごった返す会社のエレベーター前。 


 ──あ、宇根先輩だ。


 ひしめく人で気づかなかったけれど、意外な近さにしゃんと伸びた背中が見えた。長いポニーテールが揺れている。


 ──先輩はもう乗るとこか。俺はその次だな。


 同じタイミングで乗れないことをすこし残念に思う。

 宇根先輩が乗った途端、ブザーが鳴った。過積載だ。


「やだもう、急いでるのに!」


 不意に先輩が振り向いて、視線が合う。ぱっと明るくなった表情にドキッとした。


「あ! ねえ、あなた技術部の人だよね? お願い。私の身体、連れてきてくれない?」

「え」


 俺の顔を認識してたのか。

 驚いている間に先輩は自分の首をひょいと外して、エレベーターの中にいる営業部の人に手渡す。その人は慣れた様子で頭を抱えた。

 周囲の驚きは、意外なことにほとんどない。みんな慣れたものなのかもしれない。


 ──営業部の首なし魔女なんて呼ばれてたけど、本当に首が外せるのか。


 なんて思っている間に、俺の前に首のない宇根先輩の身体が立つ。

 ひと一人の身体が降りたことで、積載量が基準値内におさまったのだろう。ブザーが鳴り止んだ。

 閉まりかけた扉の隙間から先輩の首が言う。

 

「ごめんね、急ぎの資料作らなきゃなの。身体だけじゃ前が見えないから、手を引いてあげたら歩くから。身体は急がないから、ごめんね。営業部の宇根です。よろしくねー!」


 ぱたん。

 何を言う間も無く扉は閉じた。

 後に残されたのは俺と、首のない宇根先輩の身体。


「え、手、手を?」


 手を引いて、と言っていた。

 それはつまり、宇根先輩の手を取れということで。


「せいねーん、はやく繋いであげないと、不安そうだよ〜」

「えっ、あっ」


 後ろからささやかれてハッと目をやれば、宇根先輩の手がそわそわと周囲に伸ばされている。

 慌ててその手を取れば、ほっとしたように細い指が俺の手を握った。


「首なし魔女を見るのは初めてかい、青年」


 振り向いて声をかけてきた人を確かめれば、すらりと背の高い男性が。たしか、情シスの井伊地さん、だったろうか。


「はい。その、聞いたことはあったんですが。実際に見るのははじめてで」

「うんうん。それじゃあ魔女の取り扱いを教えてしんぜよう」


 言われるがまま動いているうちにエレベーターの扉が開く。


「さあさ、いってらっしゃい」


 背中を押されて、宇野先輩の手を引きながら恐る恐る乗り込む。

 そのまま営業部の部屋へ入った先で「まるで結婚式の新郎新婦ね」と宇根先輩の首に言われるなんて、その時の俺はまだ想像もしていない。

 ただ、預けられた手の柔らかさと温かさを感じながら、無事に届けなければという思いだけで頭がいっぱいだった。

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― 新着の感想 ―
うひゃー☆ホラー、ホラー?じゃないのですかどんだけ美人で憧れでも目の前で首外されたら何だ、見てはならぬものを見てしまったトラウ……いや?生涯忘れえないお宝か爪痕ってやつでしょうか(慣れてるみたいだが)…
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