第22話:マメーのまほーをじまんします!
小屋の前に近づくと、マメーはとてて、と駆け出して小屋の扉を開けた。
「いらしゃいませ!」
にこにこと笑みを浮かべてお客様を出迎えるために。
「ええ、お邪魔するわ」
「お邪魔します……」
ブリギットは慣れ親しんだ様子で部屋へと入り、とんがり帽子を帽子掛けにかけると、卓の椅子についた。
ウニーもその隣に座る。
「おちゃいれてくるね!」
そう言いながら、ちらちらきょろきょろとマメーの視線がさまよう。
ブリギットはそれが手にした包みと台所の間を行き来しているのを見た。
お客様にお茶を淹れないと、そう思っているのだが、一方でプレゼントの中身が気になっているのだ。
「ふふ、お茶はいいわよ。先にそれを開けてごらんなさい」
ブリギットは笑って言った。
「ブリギットししょーありがとう!」
マメーは卓の向かいに着き、うふふーと笑いながら包みの紐を解いた。
がさごそと音を立てながら、梱包の麻袋と油紙の包みを取り払うと、赤と白の水玉模様の箱に金のリボンのかかった箱が出てきた。
「うわーすごい! すてきー!」
マメーは椅子からぴょんと降りると箱を天に掲げてくるくると回り始めた。
「あの、マメー、プレゼントはその中身なんだけど……」
「そうだった!」
ウニーがそう言えば、マメーは再び椅子に座り、慎重な手つきでリボンをゆっくりゆっくり引っ張り始める。
そして中から出てきたのは……。
「きらきら! なあに? きらきら、すごい! なに!?」
マメーは興奮して叫ぶ。
「えっと、最近王都で流行っている色ガラスのペン。それとインク」
「かわいい!」
マメーの髪と瞳をイメージしたのか、螺旋状に琥珀色のあしらわれた、エメラルドのようにきらきら翠色のガラスペン、それとインクである。黒いインクが蝶のような形状のガラスのインク壺に入っていた。
ウニーは言う。
「ちょっとインクに魔力通してみて。ちょっとね」
「ん」
マメーは魔力をぎゅっとした。
マメーの手の中で黒いインクの色がさあっと変わっていく。
「ピキ〜?」
「ピ〜?」
マメーの肩の後ろから髪の毛越しにゴラピーたちがインクを覗いていた。マメーの魔力が放出されるとやはり気になるのであろうか。
「わあっ、いろがかわったよ!」
「これねー、虹色インクって言ってー。通した魔力によって色が変わるんだけどー。……マメーの緑色のキレイね。見たことない」
魔力の種類によって色が変わるのだ。植物系の魔法の素質を有していると緑色になるのだが、五つ星の魔力を通したところなど当然見られない訳である。見事な深緑で夏の森の中、夕立の後の葉のように煌めいていた。
ブリギットもそれを見て溜息をついた。
「それにあらゆる色がラメのように入っているわね。いい色だわ」
緑の中には極小の宝石を散りばめたように赤青黄色無色とあらゆる色が混ざっている。これはマメーが植物系以外の魔術の才も有していることを示していた。
ブリギットは自分の爪を見る。彼女の長く伸ばされた爪は美しくマニキュアで装飾されている。マメーのインクはその色のようであり、それよりさらに美しく見えた。
すごいすごいとマメーもウニーもひとしきり興奮した後、魔女見習いたちの会話はやはり魔術のことになった。
ウニーは問う。
「マメーちゃんもグラニッピナ師匠から魔術を教えてもらえた?」
マメーは力強く頷く。
「そうなのウニーちゃん! マメーもまほーおしえてもらえるようになったの!」
「良かったね、マメーちゃん! やっぱり〈光〉の魔術から?」
〈光〉は最も基本的な魔術で、しばしば最初に教わる魔術である。ウニーも初めてろうそくほどの光が自分の指先に灯った時は感動したものだ。
「ううん、しょくぶちゅのまほー」
「へー、マメーちゃん準植物特化だものね」
「ん」
「植物系魔術って見たことないけど、どんな魔術から始めたの?」
ウニーの師匠ブリギットもウニー自身も植物系魔術への適性はない。また植物系といえば麦を植えるときに良く育つよう豊穣を祈る魔術を使うなど、素晴らしい魔術ではあるが地味というか、結果が出るのがだいぶ先というイメージだ。
「えっとね、じゃあみせるね!」
だからマメーがこう言ったとき、見てすぐに分かるような魔法ってあるのかなとウニーは困惑したのである。
「え、う、うん」
「ゴラピー!」
マメーは特に意味もなくびしっと指を立てて、高らかにゴラピーの名を呼んだ。
もちろんウニーたちにはなんのことか分からないし、魔力も全く籠っていない魔術の詠唱ではないただの声だったから、謎の言葉にしか聞こえなかった。
だがそれに応える者がいるのだ。
「ピキー!」
「ピー!」
奇妙な鳴き声と共に、赤と黄色の人型のようなものがマメーの肩から卓の上にぴょんぴょんと飛び出してきたのだ。
そして彼らは卓の上でウニーたちに向けて手を振った。
「きゃっ、うわぁ!」
思わず驚きに仰け反ったウニーは、椅子ごとばたんと後ろに倒れたのだった。








