第19話:ちゅりーちゅりーちゅるるるるー。
「コックロビンさんはどこかなー」
「ピキー」
マメーが問えばあっちだよと赤いゴラピーが指ししめす。
マメーはとことこそちらに歩いていく。
「ピー」
ちょっと行ったところで、黄色いゴラピーが通り過ぎたよと鳴いた。
マメーはきょろきょろとあたりを見渡した。
チュリーチュチュチュとコマドリの鳴き声が聞こえるが、巣は見つからない。彼らも見つかりづらく安全な場所に巣を作るのである。
マメーがゴラピーたちを地面におろすと、彼らは片手でマメーのローブの裾をちょいちょいと引きながら、逆の手で茂みの方を示した。
「このなか?」
マメーはかがみ込んでそっと茂みをかき分ける。
暗がりの中に赤い喉の鳥が見えた。コマドリが巣に座っているのだ。
マメーが手を差し出すと警戒するようにチュルリと鳴く。
「ちゅりーちゅりーちゅるるるるー、こわくないよー」
マメーは鳴き真似をしながらそう言うがダメである。〈動物使役〉などの魔術が使える魔女なら別であるが、マメーはその手の魔術を学んだこともないのだ。
コマドリはくちばしをカチッと鳴らしながらマメーの指を突こうとするような素振りを見せた。
「ピキー!」
赤いゴラピーは卵をかしてと両手を広げた。
「あなたがやるの?」
「ピー!」
黄色いゴラピーもうんうんと頷く。
そもそもゴラピーたちが巣から卵を持ってこれたのだ。戻すこともできるのではないだろうか。マメーはそう思い、赤いゴラピーに卵を渡す。
「がんばって」
「ピキ」
「ピ」
彼らはそう言うと、黄色いゴラピーはコマドリの正面に、赤いゴラピーは茂みの中、コマドリの後ろに回り込んでいく。
「ピーピピー」
黄色いゴラピーはコマドリの真似、というかコマドリを真似するマメーの真似を始める。
コマドリは警戒心を露わにしているが、だんだんとその視線が一点に集まり始めた。
ふりふり。チュリー。
ふりふりふりふり。チュルリ。
ゴラピーが頭の上の、茎から伸びる葉っぱを左右に振っているのである。
コマドリがそれにくちばしを伸ばせば、ゴラピーはさっと頭を上げてくちばしを避けた。
ふりふり。
そしてまた葉っぱを左右にゆらゆらと動かす。
チュリ。
思わずといった様子で巣から身を乗り出して、葉っぱをついばもうとした隙に、巣の後ろに隠れていた赤いゴラピーがささっと巣の中に白い卵を置いた。
「ピキー!」
「ピー!」
赤いゴラピーの合図に、二匹のゴラピーたちはわあっとコマドリから逃げてマメーの方に戻ってきた。
「ゴラピーおつかれさま」
マメーは二匹を抱き上げて、労うようにゆらゆらと揺れた。
「ピキ〜」
「ピ〜」
「でもたまごはめーよ」
ゴラピーたちは頷いた。
「そういえばなんでたまごもってきたの?」
マメーの問いかけにゴラピーたちは説明する。
「ピキー」
「わたしがコックロビンさんのはなししてたし?」
「ピー」
「そのたまごのなかでいちばんつよそーだった?」
ふーん、とマメーは考えた。卵を見て強そうと思ったことはないなあ。
「どうしてつよそうなのかしら?」
「ピキー」
「ピー」
「まりょくが。へー」
ゴラピーたちの話によると、卵の中であれが一番魔力が多かったというのである。
ここは魔女の庵であり、この土地は師匠の魔力に満ちている。それが動植物に影響を与えることがある。昨日の魔力の実もそうだし、沼のでっかいカエルもじつはそうなのだ。
師匠が横にいればそのあたりのことを説明してくれたかもしれないし、なんでゴラピーたちは卵の魔力の大小を見ただけで判別できるのだ! と驚いたかもしれない。だが師匠はこの場にいないので、マメーはへーと感心して終わりなのである。
「水やりのとちゅーだったから、ちょっとまっててね」
マメーは薬草畑に戻り、ゴラピーたちを地面におろした。
「ピキー?」
「ピー?」
ゴラピーたちは首を傾げる。何か探しに行っても良い? と尋ねているのだ。
「うん、でももうすぐおわるからあんまり遠くに行かないでね」
「ピキッ!」
「ピッ!」
ゴラピーたちは了解、と片手をあげてから、てちてちと走っていった。
「ちゅるりるるーちゅちゅー」
マメーはコマドリの鳴き声を鼻歌のように歌いながら水やりをする。もはや鳴き真似でもなんでもない。
水やりや雑草を引っこ抜いて捨てて、草花の手入れを終えて戻ってくれば、ちょうどゴラピーたちも何やら抱えて戻ってきたところだった。
「あ、ベリーのみ?」
ゴラピーたちはまんまるつやつやとしたブルーベリーをそれぞれ一つずつ抱えていた。
「これもまりょくあるの?」
そうマメーが問えば彼らはこくこくと頷いた。
マメーは薬草園の柵に寄りかかるようにして座ると、ゴラピーたちから青いベリーを受け取る。
「じゃあもらうねー」
マメーがあーんと口を開けてベリーを口にすればやっぱりお腹の下の方がぽかぽかする気がする。昨日のりんごよりは魔力は少ないのかな、実がちいさいからかな? とマメーは思った。
「おいしい!」
でも味はとても良かった。
「ピキー!」
「ピー!」
ぴょんと跳ねたゴラピーたちの頭上で、ぽんと青い花が咲いた。








