第18話:ししょーはおねむだけど、マメーはおしごとちゃんとするのです。
「ごちそーさまでした! すごいパンケーキすごくおいしかった!」
マメーがパンケーキをぺろりとたいらげると師匠はうなずき言った。
「はいよ、そりゃー良かった。ま、あたしゃ寝るよ」
師匠はふあぁと大きなあくびを一つ。
「ししょーおねむ?」
「そりゃそうさ。まだ寝てないからね」
昨晩は満月だった。満月の光は特別な魔力がある。人狼だって変身するのだ、もちろん魔女にとっても重要である。
魔術儀式などには最適で、師匠はその光を集めて薬を作っていた。
そして満月が西の空の低くに傾いてからゴラピーの蜜について調べはじめ、結局は朝、マメーたちが起きてくるまでここにいたということだ。
「なんかやっとくことあるー?」
「洗い物して植物の世話、それと勉強。いつもどおりさね」
「はーい、ししょーおやすみー」
「ピキー」
「ピー」
マメーとゴラピーたちはぶんぶんと手を振った。師匠も軽く手を上げて部屋から寝室へと向かったのだった。
マメーはもらったオパールをポケットに入れ、パンケーキを食べたお皿と自分と師匠のコップを台所へ持っていく。
「ピキー」
「ピー」
ゴラピーたちもそちらに行きたいようだ。両手をあげて抱っこをせがむ仕草をとるので、抱きかかえてとことこ歩く。
マメーは流し台の上にゴラピーたちを置き、お皿やフライパンを前にして、黒っぽい皮を一枚取った。
「ピキー?」
それなあに、と赤いゴラピーが問う。
「これはねー、ソープベリーのみのかわ。これをこうしてー」
マメーは手にした皮を水につけて揉んだ。するとすぐにぬるぬるとし始め、さらに揉んでいると白い泡がもこもこと出てきた。
「ピー!」
黄色いゴラピーはびっくりした、と両手を上げた。
ソープベリーとはムクロジのことである。ムクロジの実の皮にはサポニンという成分が含まれていて、石鹸として使われるのだ。
「これをー、ヘチマのスポンジでー。あわあわ、ごしごし」
マメーはごしごしとお皿を洗い始めた。
ここにあるヘチマのスポンジもヤシの繊維のタワシも、植物を利用した道具である。
ヤシなどもっと南の植物は師匠がマメーを育て始めるより前に世界を旅して買い求めたものであるし、ソープベリーのように師匠が魔術で改良したものもある。普通のソープベリーではこんなにきれいに泡立たないのだ。
「ピキー!」
「ピー!」
ゴラピーたちは泡が楽しいのか、ちっちゃい手にすくい取ってふわふわと持ち上げて遊んでいた。
洗い物をおえると、一人と二匹は外に出た。深い深い森の奥にぽっかりとひらけた土地である。
「じゃーいこー」
「ピキー!」
「ピー!」
ゴラピーたちはマメーの言葉に、おーと手をあげた。マメーが庭を歩き出せば、その後ろについてとことこ歩き出す。今日はまだ朝も早く、師匠も寝てしまっているから時間がある。マメーはゴラピーたちが草をかき分けるようにして歩いているところの、道ばたの草を抜きながら歩くことにした。
チュリチュリと鳥の鳴き声がきこえる。
「コックロビンさんおはよーさん」
チュリチュリと鳴き声が返ってきた。コックロビン、つまりコマドリである。
マメーがきょろきょろとあたりを見渡せば、胸元が赤い灰茶色の鳥が、エサを探しにか地面の上をぴょんぴょん跳ねていた。ゴラピーよりは一回り大きいくらいの小鳥である。
「ちゅりーちゅりーちゅるるるるー」
「ピキーピッピキー」
「ピーピピー」
マメーがコマドリの鳴き声を真似ればゴラピーたちも真似ているのか声を出した。全く似ていないそれにマメーは笑い声をあげ、コマドリはびくりと振り返って、こちらをまじまじと見た。
そもそもコマドリはあまり人に対する警戒心のない鳥である。特にここは森の中で、人といえば基本的にマメーと師匠しかいないし、二人はコマドリを捕まえたりしないので、なおのこと人を恐れない。
コマドリがこっちを見て何をしているかというと、マメーが草を引っこ抜いているので、掘り起こされた土のなかから出てきた虫を食べようとしているのである。
マメーとゴラピーが小道から薬草園へととことこ移動すれば、コマドリはマメーが草を抜いていた場所へとぱたぱた移動した。
「じゃあマメーは水やりとかしているから、ゴラピーたちはきのうみたいにそのへんにいてね!」
「ピキー!」
「ピー!」
ゴラピーたちはマメーにいってらっしゃいと手を振り、彼女も振り返して作業に向かう。
昨日のように手押しポンプをうんしょうんしょと押して水を汲んで、じょうろを持って一回りしていると、ゴラピーたちがうんちょうんちょと白っぽい玉を運んでいるのとすれ違った。
「ピキー」
「ピー」
「あ、ゴラピーそれはなあに?」
二匹ははいっとマメーに玉を差し出す。マメーが受け取ったそれは白くて丸くて硬く、ちょっとあたたかかった。
「ゴラピー、これコックロビンさんのたまごじゃない?」
「ピキー」
「ピー」
ゴラピーたちはうんうんと頷くので、マメーはめっと声を出した。
「ゴラピー、たまごはだめよ。もどしてこなきゃ」
「ピキー……」
「ピー……」
ゴラピーたちがしょんもり悲しい声をあげるので、マメーは二匹を抱き上げた。
「ゴラピーたちがわたしにいろいろもってきてくれるのはうれしいの、ほんとうよ。でもあかちゃんをとりあげたらかわいそうだわ。すはどこかな?」
マメーはゴラピーの指す方に向かった。








