登校
休日はそんなこんなで書類仕事と【演舞】につぎ込んだ。
まぁ、プリンの上を歩く感覚が寒天の上くらいにはなったかなという感じ。
そしてやってきやがったよ月曜日。
学校は嫌いじゃない、元々勉強はそれなりに好きだ。
こう、抑圧されるとやりたくなるって言うじゃない。
あれと同じで俺は高校生になれないかもしれないという危惧があった。
幸いにして親父も母さんも「蓄えはある! 妹たちの分は頑張る!」と張り切っていたが、その矢先で親父のヘルニアという事態で、入学金払ったけど働こうかと相談してぶん殴られたりという事もあったのだ。
まぁ結果として俺は勉学のありがたみを知って、真っ当な学生になったのである。
放課後部活もせずに、友人もほとんどいない状態でダンジョンに突撃かましてるという点を除けばな。
だが今問題なのは顔面刺青猫耳美少女という加重属性になってしまった事!
どう説明したものやら……。
「三上さんの件は既に学園関係者には通達してあります。ですのでまずは職員室に向かうとよろしいでしょう」
「雑賀さん……お役所仕事って時間かかるイメージでして」
「おおむね間違っておりませんが、いざという時の連携は得意です。主に年末年始の市役所や、年明けの税務署はのんびりしている暇がありませんから」
おぉう、聞きたくなかった裏事情……。
「とはいえ好きでのんびりしているわけではなく、窓口に対して人員が多すぎたり、逆に書類量に対して人員が足りなかったり、複数の部署を跨ぐ案件で書類の数が膨大だったりと理由は様々です」
「あぁ、窓口をたらいまわしにされるアレ……」
「その半分はそもそも窓口が違うというお客様側の問題だったりします」
……今度から気を付けよう。
「ちなみに三上さんの戸籍情報などは全てダンジョン省から関係各所に提出済みです。身分証も数日以内に届くでしょう」
至れり尽くせりか?
いや、その分書類書いたわ。
目を閉じたら住所氏名電話番号の文字が浮かぶくらい書いたわ。
「ちなみに学校側も私服登校を許可しています」
「あぁ、それはマジで助かります。随分体型変わって、妹の洋服借りてる状態なんですよ」
凄い嫌な顔されたけど、思春期の妹だからね、仕方ないね!
なお長女の発案でせっかくならお洒落させようと中学生マインド全開のフリフリ&だせぇってなる格好させられそうになったのでジャージだけ借りた。
身長が30㎝くらい下がって、足のサイズも変わったので……。
普段は俺のジーパンとか短パンベルト締めて、だぼついているがTシャツで十分なんだけどね。
冬に備えて諸々準備したい所。
おしゃれの観点よりも外に出られる服が欲しいねん。
というわけで春先だけどちょっと早めの短パンにだぼTという部屋着のまま出てきました状態。
絶対ウザがらみする奴出てくるなこれ。
「そういう輩は私が締め上げますので」
「……ナチュラルに心読まないでいただけます?」
「いえ、声に出てました」
「マジですか……」
そんな会話をしながら、学校の連中にちらちら見られながら職員用の出入り口から職員室に直行した。
下駄箱行ってもいいけど目立つからね。
あと靴のサイズが合わない。
「失礼しまーす、1年の三上です」
「どうぞー」
ドアをノックすると軽い返事が返ってきた。
この声は、我が担任荒巻修太朗先生ではないか!
「失礼しやす。三上です」
「おぉ三上、聞いてはいたが……随分とイメチェンしたな」
「イメチェンじゃないっす」
「本音は?」
「想定外ながらにゲームで作れる最強の美少女になれてラッキー。ついでに戦闘能力とかライセンスも上がってラッキー。今のところ不便はしてないっすねぇ」
「はっはっはっ。まぁ探索者やってるお前にちょっかいだす馬鹿はそう相違ないと思うがな。ところで後ろの方が?」
「はい、ダンジョン省の雑賀と申します。今回は三上幸助さんの護衛兼監視役としてここにいます」
今までだんまりを決め込んでいたが、雑賀さんが挨拶をした。
周囲の先生はざわざわと俺を見ているが……。
「これはどうもご丁寧に。三上の奴は誤解されがちですがね、勉強熱心だし努力家で家族思いのいい奴なんですよ。どうか、護ってやってください」
おぉ、荒巻先生がこんな風に頭下げてるの初めて見た。
なんとももどかしいというか、むず痒いなぁ。
「はい、それと今後の生活に関してですがトイレは教員用を。体育などの着替えはどこか個別の場所を用立てて貰えたらと思いまして」
「あぁ、その辺は好調と話し合ってあります。幸いというか、うちはそれなりにでかい学校ですからね。教員用のトイレも余ってますし、昔寮として使ってた部屋があるんで更衣室には困りませんよ」
「それはありがたい。如何せん多感な時期に男女間のトラブルとなると、もはや我々の手には負えませんから……」
あ、いじめはどうにかできるが、そこまで行かない嫌悪感とかはどうにもならないんだな。
うん、普通にトイレとか何も考えてなかった。
「あー、せんせ。今みたいな私服登校になるけど、体育はこのままじゃ駄目かな? というか今の俺のレベルだと授業にならないと思うんだよね」
「うーむ……それはそうなんだがなぁ。一応探索科の先生と話し合ってそっちに混ざれないか聞いてみるが」
「いや、そんなレベルじゃないんだ。ここだけの話にしてほしいんだけど……」
「ほう……」
俺に合わせて声を潜めた荒巻先生、そして周囲を警戒する雑賀さん。
肩を叩かれたので言葉にする。
「俺、レベル4桁」
「ぶふっ」
「体育、無理でしょ」
「無理だな、それは無理だ。メジャーリーグもオリンピックも参加できない」
探索者が生まれてからスポーツ業界も大きく変わったのである。
レベル2になるだけで常人の倍強くなる世界だから、そりゃもうスーパーマンが次々と誕生してはそれを超えるべく鍛錬そっちのけでダンジョン潜って死んでいったわけだ。
結果的にルール配備されて、合計レベル100未満の部門と、合計レベル300未満の部門、そして合計レベル500未満の部門の三つが基本となっている。
たまーに合計レベル1000未満の部門とかあるけど、学生のうちは100未満が基本。
これはゲームのルールを根本から変えるシステムであり、ある意味では画期的だった。
例えばサッカーだが、レベル60のキーパーを置いて全部キャッチさせて、レベル20の2人がひたすらボールを蹴り続けるだけのチームなんかもいる。
つまり3人でサッカーチームを組んでいるのだ。
逆にレベル10を10人配備するとか、極端な話をすればレベル2を50人置いて妨害するなんて手段を取ったチームもいた。
なおそのチームはレベル50を2人だけ配備したチームに負けて半数が再起不能の怪我を負って治療費諸々で破産した。
レベル50のチームはレベル10のチームに数の暴力で負けた。
まぁそんな感じでメンバーのレベルも視野に入れてチーム構成するようになったのだが、当然非探索者のチームもある。
その場合探索者との勝負にはならないのでレベル1オンリーという内容になるが、好みは結構別れる。
いや、探索者チームってマジで漫画みたいなシュートとか平然とするから盛り上がるのよ。
一方でレベル1オンリーは王道という感じだけど、派手な見せ場が少なくてね……斜陽とまでは言わないが、コアなファンがついているというかなんというか。
ちなみに探索者部門だと男女混合が基本だけど、男女分けたパターンもあるのでスポーツが得意な探索者がよくそっちに流れる。
なお一部の国では「スポーツやる暇あるなら探索してこいや!」とダンジョンに投げ込まれて適正レベルを超えるというのはよくある事。
そしてレベルが1817もある俺はどの部門にも参加はできないのである。
「ドリブルするだけでボールが破裂しそうだな」
「バスケだったら地面に穴あけると思いますよ」
「マラソンが数分で終わるでしょう」
三者三葉、異口同音に俺の体育出禁が決まった。
とはいえ単位の問題もあるので、表向きは参加していることにするらしい。
雑賀さんがその文科省のお偉いさんと相談するそうだ。
本当に足向けて眠れねえな……。




