「触発」
「触発」
「勝った……勝ったぞぉ!!」
その状況にキメラの群れを片づけ終わったウェン、エルが漸く気づいた。
「アルナ!?」
「おいおいおいまじかよ!?」
二人は急いで走り出す。
しかし、アルナまでの距離は凄まじく遠かった。
「ヨホホホホ!! 到底そこから間に合うはずがないでしょう!? 死んでくださ……ん?」
その時、トゥランスプラントは違和感に気づいた。
体を動かしてもいないのに視界が動き、意に反してアルナが移動する。
「……え?」
そして、鈍い音とと共に視界がひっくり返り、見えたのが自分の脚で気がついた。
動いていたのはアルナではなく、自分の切断された首だった事に。
「くそ!? や、やられた!? 何故だ!? な……ぜ……」
そして、トゥランスプラントは死亡した。
「……」
アルナは凄まじい速度で何かが通りすぎたのに気づいていた。
その先を見た時、そこには金髪の騎士、ロキ・プロキオンが立っていた。
「……やはり助ける必要はなかった様ですね」
ロキはアルナが危険だと思い助けに来た。
しかし、その場に立ちロキの卓越された観察眼からアルナの罠が張り巡らされている事に気づいた。
「野暮でしたか?」
ロキはアルナにそう問いかけながらアルナに手を差し伸べるが、アルナは手を取らず黙って立ち上がる。
その時、漸くウェンとエルが到着し、エルがお礼を言う。
「ろ、ロキ様! この度は私が付いていながらアルナをお助け頂き誠に感謝しております!」
「気にしないでくれ……ただのお節介だったようだ」
そして、遅れてフロウが到着し、ロキに言う。
「ロキ様、粗方片付いております」
「よし次へ行くぞ」
「はい」
その時、アルナはフロウを見て違和感に気づき、様子を伺っていた。
「……」
そして、フロウの言葉を聞きウェンとエルは周りを見渡した時、キメラの群れで溢れていた戦場が少し優勢に見え、エルが口を開く。
「これをロキ様達が?」
「あぁ……アルデバラン国を優勢にする為に崩れかけの部隊を見て回っているんだ」
「なんと素晴ら……ん? あれは……」
その時、更に遠くの方で一際土煙を立てているところがあった。
「何かこっちへ来ている……」
徐々に近づく土煙と誰かの雄叫びに更に吹き飛ばされるキメラの数。
「うぉぉおおお!! 俺も負けてらんねぇ!!!!」
そこには必死で剣を振るうゼドが居た。
「あれは!? ロキ様の所のゼド・カブル!?」
エルがゼドの奮闘に驚いていた。
「あ! やっと見つけたぁ!! ロキさぁん! フロウさぁん!!」
ゼドもロキ達に気付き、キメラを斬る合間合間に手を振る。
その時、ウェンとエルは自分達が苦戦していたキメラをたった1人で倒すゼドを見て驚いた。
「俺達が苦労していたキメラをゼド・カブルはあんなに簡単に……」
ロキはゼドを見て言う。
「どうやら彼も触発されたみたいだね」
「それは、誰かに刺激されたと言うことですか?」
「その通り……この戦いで私達はある者達を見て負けてられないと思った所だよ」
「それはいったい……」
「ん? 本当に聞きたいのかな? これを聞いて君達はいい気分にはならないだろう」
そう言いながらロキはウェンを見て、ウェンはロキの視線を察し言葉を口にする。
「まさかとは思いますが、錬金術師って言うんじゃないでしょうね?」
「おっと……まさか君からその言葉が出るとは思っていなかったよ」
「ふん! ロキ様が錬金術師を御贔屓にされてることは存じてます! ですが! この状況を錬金術師達が作った!? そんなありえない事考えられませんね!!」
「そうか……まぁそうと思う者もたくさんいるだろう……しかし、そちら二人はその様に思ってないみたいだね」
ウェンはエルの顔を見て驚く。
「は? エルもアルナもマジでそう思ってんのかよ?」
「まだ断定は出来ないが、少なからず錬金術師に何かを感じていることは確かだ」
「ぶっははは!! んなわけねぇじゃん!! あいつらはただのゴミだぞ!? 生きた肉の壁だ! 精精死んで人数を減らす事があいつらの責務だろ!?」
「おい! ウェン言い過ぎだぞ!」
「何が言い過ぎだ!? 本当ことだろぉ!? それとも俺が間違ってるって言いたいのかよ!」
それを見ていたロキが口を挟む。
「では一度見てみたらいい……そうすれば自ずと答えは出ると思うよ……まぁ……見る勇気があるのならね」
「それはどう言う意味ですか……俺が錬金術師如きにビビってるって言いたいのですか!?」
「おい! ウェン! ロキ様に失礼だろ!!」
エルはエスカレートするウェンに向け口を挟む。
「うるせぇ! エルは黙ってろよ!!」
荒れるウェンにロキは更に挑発を入れる。
「君はまだまだのようだね……周りを全然見れていない……しかし、いい仲間は持っているようだね」
そう言ってロキはアルナを見て言葉を続ける。
「君がこのまま王になってくれれば私もプロキオン国の王候補として助力を願いたいと思うんだけどね……しかし、今のアルデバランは貧困や差別が相次いでいる……君の代で良き国を期待してしまうよ」
「……」
何も言葉を返さないアルナ。
見かねてエルが言う。
「ロキ様! アルナは……」
その時、ロキが右手を上げてエルの発言を遮り言う。
「言わなくてもいいよ……何か事情があるのはわかってる。そこに踏み込むつもりはないよ」
ロキは遮った手を戻し、言葉を続ける。
「アルナ君……君にとってはこの2人はかなり重要な2人となるだろう……だからこそ彼の荒さが目につく」
ロキのその言葉にウェンはもう我慢できなかった。
「はぁ? 俺がアルナの足を引っ張ってるっていいてぇのかよ?」
「おい! ウェン! プロキオン国の王候補だぞ!? 流石に言葉を慎め!!」
「王候補なら何を言ってもいいって言うのかよ……」
その言葉にロキは端的に返す。
「では貴族なら何を言ってもいいのかな?」
「……このやろぉ……」
「まぁ、君達が錬金術師をどう思おうが私には関係ない……しかし、私の友人を馬鹿にされたのは不愉快なのでね……君に理解してほしかった……手を出せば私は黙っていないよ?」
「……ちっ……」
「そして、自分の目で見てみるといい……この戦場の中で1番何を思い、何に対して戦い、何を変えようとしているのが誰なのか……自ずと理解できるはずだよ」
ロキは振り返りフロウを見て言う。
「フロウ行くよ」
「はい」
そして、フロウは少し離れたところで戦うゼドに叫ぶ。
「行くぞゼド!! 早く来い!!」
「はぁーい! 今行く!!」
その時、アルナはエルの肩に手を置き、エルはアルナの言葉を理解した。
「なんだと!? それは本当なのか!?」
頷くアルナにエルは平常心を装いロキを止める。
「ロキ様!」
「まだ用でも?」
「お、お互い……背中には気をつけてください……」
エルはロキを呼び止めた手前、どう説明をすれば伝わるのかを悩んだが、出た言葉は中途半端だった。
「ん? 君も気をつけたまえよ」
ロキはフロウとゼドと共にまた戦場に足を向けた。
そして、気になったウェンはエルに聞く。
「なんだよさっきの……」
「いや……アルナがフロウさんから闇の気配を感じると……」
「闇の気配? それがあったら不味いのか? アルナ?」
代わりにエルが答えた。
「それはわからないみたいだな……ただ不吉な予感がするらしい」
「そうか……大天使アリエルの恩恵を持つアルナがそう言うなら本当にまずいのかもな……」
三人は去り行くロキの背中を見て気苦労であって欲しいと願った。




