「混合人獣」
「混合人獣」
前方の方で悲鳴が聞こえ、キリオ、シリス、ジムが確認した時には複数のアルデバラン兵が無残に死体で転がり、
ミラク国兵士であろうその者は涙を流し覚束ない足取りで叫んでいた。
「い、痛いんだよぉぉお!! 誰かぁ!! 助けてくれぇ!! 体が熱くて熱くて痛い! 早く誰かぁあ! 俺を殺してくれぇ!!」
キリオは彼を見て苛立つ。
「おい……ジム……ミラク国の奴らやりやがった……」
「やっぱり作っていたんだね……」
そこには魔獣ジオウルフの腕と脚を生やし、契約刻印が胸に刻まれた人間がいた。
更にはその後方で色んな魔獣を溶接された人間型のキメラが群を成し進軍していた。
シリスも初めて見る混合人獣に驚く。
「な、なんだよあれは……」
「ミラク国は魔獣だけじゃなくて人間もキメラにしやがった……」
「そんなことが可能なのか!?」
「俺らも見るのは初めてだ……けど魔獣どおしが出来て同じ生物の人間ができない事は無いだろ……ジムと二人で懸念してた事だ……」
ジムも会話に入ってくる。
「厄介だね。今度はあの攻撃力で知恵と戦略がくるのかな」
シリスが答える。
「いや、無理矢理に掛け合わせてるから反作用を起こしてる。長くは持たないはずだ」
その言葉にジムは言う。
「そもそも向こう側は長く持たせる必要がないんですよ。僕達も遺跡で未完成のキメラと戦った……相手兵を数多く倒せればそれで良いと言う感じでしたね」
「……なるほど……そりゃ最低だな」
そしてキリオは余りの苛立ちに拳を握りしめて言う。
「……マジでむかつく……どう見ても奴隷を使って無理矢理戦わせてる」
ジムはそのキリオの言葉に些細な疑問を抱いた為、聞く。
「それは可哀想だから怒ってるの?」
「そんな次元の話じゃないだろ」
「でもキリオ……」
ジムはその次の言葉を伝えるか迷った。
しかし、この戦場で迷いは残さない方がいいと判断し、言葉を続ける。
「……キリオは人を殺せるの?」
「……」
キリオは黙り込み、考え、そしてゆっくりと口を開く。
「もし俺の転移先がシリスの屋根裏じゃなく、ミラク国だったら……俺も戦場で混合人獣にされてたのかな……」
キリオは一生懸命に相手側の気持ちを探る。
「……そして、今みたいに出会うはずだったジムやシリスに殺されてたのかな……」
キリオは必死で考える。
「……いや……そんなの報われないよな……そんなの……許せるはずがないよな……自分の死が、無意味な物に終わるのって……許しちゃいけないよな……」
「キリオ? 大丈夫?」
「……繋げるんだ……」
「え?」
「繋げるんだよ……あいつらの死を無意味な物に終わらせちゃいけない……俺だったらそうして欲しい!!」
キリオは相手を倒さなければいけない理由を見つけた。
「でもキリオわかってる? それは殺すのと一緒だよ?」
「わかってる……俺があの人達を殺す理由を俺は無理矢理作って自分の心を守ろうとしている事は十分わかってる……でも、苦しいよりは死で楽になるのを人間は選ぶだろ? 俺だってそうする」
キリオは言葉を続ける。
「俺も昔、自殺したいと思った時があった……苦しくて、辛くて、それでもいっぱい悩んで、その場から逃げたくて、そして自殺を考えた……誰にだって一回は考えたことがあるんじゃないのか?」
「うん……僕もそんな感じで異世界に来たようなもんだね……」
「ならジムにもわかるはずだ……死ぬ事で救われる人もいる……ただ俺はその死を必ず繋げる……」
「うん……凄くいいと思う」
ジムはキリオの思いと理由に納得し、言葉を続ける。
「ちなみに聞くけど、混合人獣を直すことは出来ないんだよね?」
その言葉にシリスが口を開く。
「無理だな……生物を分解するって事は死ぬのと一緒だ。楽にしてやるしか無い」
それを聞いてキリオは拳に力を入れ、覚悟を決める。
「よし……」
「先陣はあたしがきってやろうか?」
「いや……俺が行く……行かせてくれ」
「わかった……無理はするなよ」
「無理をしないで俺はこの先この世界で生きていけるのか?」
「それこそ無理だな」
「ならやるしかない……」
キリオは黒い鋏剣を錬成し、そして構えて武装錬金術を使う。
「戒級強化……」
キリオが一歩踏み込んだ瞬間、フルエンハンスメントの強化で得た凄まじい脚力で地面は逆立ち、気付けばキリオは混合人獣の目の前で鋏剣を振りかぶっていた。
『……繋げる……繋げる……決してあなたの死を無駄にしない!!』
キリオが鋏剣を振り抜くその時、混合人獣と目が合う。
その顔は苦しさ、恐怖、悔やみで歪み、泣いていた。
「うぁあああ!!!!」
キリオは人を殺す恐怖、情け、迷いを打ち消そうと雄叫びを上げ混合人獣の人間部分である首を刎ねる。
そして刎ねた頭は無惨に転がり、遅れて重量ある体が音を立てて倒れた。
「……」
キリオは体全身を力ませ耐える。
腕に伝わった人を斬った感覚、死ぬ寸前の相手の顔、吐き気を催す程の気持ち悪さ。
どれもがキリオの怒りを更に駆り立てる。
「くっ……そ……くそがぁ!!!」
苛立ちを吐き捨て、鋏剣を構え直し、一人で混合人獣の群れへと突き進む。
一人、二人とキリオは雄叫びを上げ凄まじい速度で斬り倒していく。
「バカ! 一人で先行しすぎだ!!」
「キリオ! 危ないよ!」
遅れてシリスとジムも参戦しキリオの後へと続く。
「なんで! こんなに! 悲しいんだよぉ!!」
キリオはそう叫ぶ。
「なんでキリオが悲しいの!?」
「だって全員が泣いてんだよ! こいつらにもっと明確な殺意や、怒りや、何か有れば!! 俺だってこんなに苦しくないのに!! くそがぁ!!!」
ジムはキリオに言われて初めて敵の表情を見て苦しみと悲しさの悲嘆が伝わってきた。
『考えた事もなかった……僕は……いつからゲームのような感覚に浸っていたんだろう……』
人を殺めることはなにも変わらない。
しかし、相手を思うキリオのその闘い方はジムにとって新鮮だった。
そして、同時に羨ましさもあった。
だからこそ、よりキリオが仲間でいてくれて嬉しいとジムは喜びを感じ、一層にジムはキリオのサポートを全力でする。
キリオもまたジムを信じた戦闘を繰り返し一人、二人、三人と斬り伏せながらその度に悲しさを噛み締める。
「それでいい!」
シリスは微笑みそう言った。
「お前はそれでいいんだよ! それが正しい! 人を殺すことにお前は慣れなくていい! だけど人を殺める理由を感じろ! そして考えろ! その苦しさも! その悲しみも! 怒りも! 敵を思って全てぶつけろぉ! それがお前の戦い方だ!!」
「うぁあああ!!」
シリスの一押しでキリオは更に激しく鋏剣を振い、涙を流して感情を一杯に乗せて混合人獣を斬り伏せる。
「あしたも本気出すぜぇ!!」
シリスも錬金術を使用する。
「漆黒武装!!」
力一杯に腰を低く構えた時、青い雷光が両腕、両足に瞬いた。
錬成されたと同時に圧縮された魔力が解き放たれ凄まじい音を立てて完成する。
キリオのロンズデーライトで作った黒の鋏剣を参考にシリスは腕と脚に鎧の様な黒い武装を施し、肘と踵から伸びる刃が黒光りしていた。
「いくぜぇ!!」
シリスは戒級強化をしている為、目に止まらぬ速さで混合人獣を斬り伏せる。
「すげぇ!?」
余りの切れ味にシリスも驚いた。
「これは……いいな!」
前半で苦戦していた事が嘘のようだった。
シリスもまた戦いに一層、力を入れる。
そして、混合人獣の進行により押されていたアルデバラン国だったが、キリオとシリスが荒ぶる戦いを見せ巻き返す。
苦しさで涙を流しながら悲しく戦うキリオ。
弟子の成長に嬉しさを感じ微笑み戦うシリス。
それは周りに泣く鬼と笑う鬼の印象を与えた。
その二人のサポートをするジムも必死だった。
荒ぶる鬼に振り回される中で、ジムが気付き援護しなければ死んでいた場面も数多かった。
その二人についていけるジムもまた賞賛の声が上がっていた。
「うぁあああ!!」
キリオが力一杯に鋏剣を振り抜いたその時、甲高い音と共にキリオの斬撃は弾き飛ばされた。
「随分と殺してくれたな? お陰で俺がでばんなきゃならねぇじゃねぇかよ」
そこには5メートルは超え、サラマンダーの剛皮膚に包まれ、右腕と左顔だけ人間を残し、手足はジオウルフで構成されたキメラがそう言った。
「どうしたキリオ!!」
不穏な空気を感じ、シリス、ジムも合流した。
「こいつ正気を保ってやがる……」
混合人獣は言う。
「そうさ! 俺は訓練を受けたキメラだ! この実験の為に調整され! この戦争に勝つ為に作られた! トゥランスプラント!! その辺のキメラと一緒にするんじゃねぇぞ!? キメラを手に入れた俺は絶対に負けない!!」
「キリオ下がってろ……お前には手が余る……」
そう言ってシリスは前へ出て構え、言葉を続ける。
「ちょうど骨のある奴にしゃぶりつきたかった所だ! 楽しませてくれよ!」
「威勢だけは良いじゃねぇか! そう言う女は嫌いじゃない!」
そして、混合人獣は上から下までシリスを舐め回すように見てから言葉を続ける。
「よく見れば悪くない女じゃねぇか! 俺の今夜の情交の相手をさせてやってもいいぞ!!」
「おお!? あんた見る目あるなぁ! だが! お前みたいのがあたしを満足させられるわけねぇだろぉ!」
「ぶはは! 愉快な事を言うじゃねぇか!! キメラになってから人間の女じゃサイズが合わなくてなぁ!? 俺の逸物のサイズに負けて体が張り裂けて死んじまうんだよ!! 良かったら試してみるかぁ!?」
「そりゃ魅力的じゃねぇかぁ! でもなぁ! あたしをそんな尻軽女だと思うんじゃ……」
シリスは腰を低く落とし、力を溜める。
「……ねぇぞぉ!!」
その言葉と同時にシリスは力強く踏み込み瞬間的な速さで詰め寄り、打撃を入れた。
しかしトゥランスプラントは対応し、左腕に纏うサラマンダーの剛皮膚で受け、ジオウルフの脚で凄まじい脚力の蹴りを放つ。
「ぐぅ!?」
ロンズデーライトで作った装甲でガードするも、内へ伝わる衝撃が凄まじかった。
しかしシリスは耐え抜き、体を翻して顔面に蹴りを放ち、そして即座に離脱する。
「良い動きしてやがるなぁ……」
首を回す無傷のトゥランスプラントを見てシリスは微笑みを浮かべる。
「やっぱり……きかねぇか」
凄まじい戦いが始まった。




