「キリオの参戦」
「キリオの参戦」
「おい! ハァ……ゼド坊! 大丈夫か!?」
「めっちゃ甘く見てましたよ! ハァ……狩ってこんなにきついんですね!」
疲労を見せるシリス、ゼドの周りには大量に転がるキメラの死体があった。
しかし、ドラゴンを模したキメラに囲まれ逃げ場をなくし、それでも押し寄せてくるキメラの群れに二人はぎりぎりの戦いを繰り広げていた。
「後もうちょっとで片付く! だから頑張れ!」
攻めてくるキメラを回避しながら攻撃を叩き込むが効いてるとは思えないほど無傷のキメラ。
「こんなに囲まれて良くそんなことが言えますね! 嘘下手くそですか!! 最後に冗談の一つや二つ言えないんですか!?」
ゼドも剛皮の隙間を狙って切り込むが切断するまで行かず苦戦する。
「これが冗談だろ! 後、最後とか言うな! 縁起が悪い!」
「とりあえず、そろそろ大技行っときますか?」
二人はキメラの攻撃を回避し、背中合わせになって会話をする。
「たしかに! やってくれ!」
「行きます!」
ゼドは上級魔法の詠唱を始めた。
「……我は唱える……叶の願い、刻の想い、度重なる永遠の声、言霊として号哭を汲み、淘汰されん仇なす者に恩恵を与えん……主、至し天の声よ答えよ……そして更に……」
その隙をシリスが稼ぐ。
「錬金術! 不断乃鎖!!」
周囲に青い雷光が瞬き、地面から極太い鎖が錬成され、囲われる前方のキメラ数体に鎖が勢い良く巻き付いた。
しかし、その後方からもう一匹のキメラか仲間を跳びこてシリスに攻撃する。
「チッ! 大人しく待ってろよ! こっちは一人でゼド坊の詠唱時間を稼がなきゃいけねぇんだよ!」
「……我、理に触れ、主たる根源に至りし魔を拝頂し……」
ゼドは集中し詠唱を唱える。
それは上級詠唱に低級詠唱を被せる魔法術式だった。
『まさか、魔法詠唱にこんな使い方があったなんてな』
シリスはキメラを往なしながら改めてゼドの所業に感心を抱く。
「……そして! 今ここに我! ゼド・カブルの名を持って戒現せよ!」
ゼドは掲げていた剣を地面へと突き刺し叫ぶ。
「極低温乃結晶!」
ゼドの剣が冷気を帯び、音を立てて氷の結晶が剣に纏う。
そして、更にゼドは二つ目の詠唱名を叫ぶ。
それと同時にシリスは空高々に跳躍し、ゼドの魔法を回避する。
「……食らえぇ!! 極寒乃領域!!」
マイナス140度で作ったダイヤより硬い氷の結晶の剣。
剣から一瞬にして冷気と共に氷結が広がり約半径7メートル範囲で凍りつき、地面に足を付けていたドラゴンキメラ達も全身凍りついた。
「今です!!」
ゼドの掛け声と同時にシリスは上空から技を見舞う。
「拳闘士術!! 風輪切脚!! 連!!」
シリスは空中で拳闘士術、風魔法足技を使い、脚力から出た風圧の刃を力一杯に飛ばし、体を翻しては辺りの凍ったキメラに連続で叩き込む。
凍りついていたキメラは悉く割れ、シリスはキメラを次々に倒していく。
更にゼドは極寒乃領域の領域から逃れたキメラに向かって走る。
「これならいける!!」
氷剣に剣術をうまく利用してキメラの剛皮の溝を狙い腕や頭を跳ね飛ばし、一体、二体、三体、と続けてキメラを討伐する。
そして、シリスが凍ったキメラを粗方壊した後に地面に着地した時だった。
まるでその瞬間を狙っていたかの様に無防備のシリスに襲い掛かるキメラがいた。
「し、しまった!?」
シリスは咄嗟に防御態勢をとるしか出来なかった。
「シリスさん!!」
ゼドも気付き、激声を飛ばす。
しかし四体目のキメラをゼドが倒した時、ゼドの剣が耐え切れず折れる。
『なんで今なんだよ!?』
それでもゼドはシリスを助けようと足を向け、必死に走り出す。
『くそ! くそ! くそ! 間に合え! 間に合ってくれぇ!』
まるで走馬灯の様にゼドの体感はその光景を遅遅として感じていた。
『俺の所為でシリスさんを失わせるわけにはいかない!! キリオに合わせる顔がなくなる!! 絶対! 絶対! 助ける!!』
ゼドは全身全霊で足を動かす。
『くそ! 何か他に……魔法……いや! 詠唱が間に合わない! 何か……何か……』
必死で今シリスを助けえるものを考えたがしかし、どれも間に合わない。
『考える暇があるなら足を動かせ!! 俺!! 骨が折れたっていい! 血反吐だって吐いてやる!! 今は!! 全力で走れぇ!!』
しかし、ゼドが伸ばす手はシリスまでとても遠かった。
『くそぉ! くそぉ! 後もうちょっとなのに! 届かない……』
キメラの鋭い爪がシリスに襲いかかる。
『すまない……キリオ……』
その時だった。
青い雷光が瞬き、高速で通り過ぎる。
青雷光はゼドよりも速く。
キメラがシリスに攻撃するよりももっと速く。
凄まじい速度でキメラの腕と頭を同時に吹き飛ばし、更に周りにいた複数のキメラも撃退する。
ゼド、シリスは余りの唐突に唖然とする。
「……い、いったい……な、何が……」
そして、ゼドとシリスは青い雷光の先を見る。
「間に合って本当に良かった」
そこにはそう言って本当に嬉しそうに笑うキリオが居た。
「キリオォ!!」
余りの嬉しさでシリスはいてもたってもいられずキリオに飛びつき抱きしめる。
「よく帰ってきたぁ!! 待ってたぞぉ!! そして本当に助かった!! あたしは嬉しすぎて今日はお前と今晩を共に過ごそうと思うぞぉ!!」
「やめろぉ! 離れろぉ! お前の胸で呼吸ができない!!」
ゼドは戯れ合う二人を見て安堵した。
「よかった……ほ、本当に良かった……」
緊張の解れからゼドは膝から崩れる。
「ゼ、ゼド!? 大丈夫か!?」
それを見ていたキリオが心配した。
「い、いや……だ、大丈夫! 安心してちょっと気が抜けた……」
「何言ってんだよ!? シリスを守ってくれてたんだろ? 本当に助かった!」
「いや……お礼を言うのは俺の方だ……シリスさんを助けられないかと思ってた……キリオに合わせる顔がないって……でも……本当に良かった……」
その時だった。
ゼドの後ろでキメラが雄叫びを上げて刀のような爪を振り上げ攻撃しようとする。
「やばい!?」
ゼドはそう思った。
しかし。
「僕も忘れてないでね!」
その言葉と共に雷撃の鞭がキメラの動きを止める。
それと同時にキリオも既に鋏剣を振りかぶっていた。
「サンキュー! ジム!!」
キリオは追いついたジムに礼を言いながら、無事にキメラを倒す。
「安心するのもいいけど! まだここは戦場だよ! 気をつけて!」
ゼドにジムはそう言った。
「あ……あはは……そ、そうだったな……」
『 あ、あんなに苦戦していたキメラをこの二人はあっさりと……なんて心強いんだよ……』
ゼドは呆気に取られた。
「シリス! 戦況はどうなってんだよ!」
早速キリオはシリスに聞く。
「よくねぇな……けど、そのうちひっくり返るだろ!」
「何を根拠に言ってんだよ?」
「お前らが合流したからだ!」
「俺達だけでこの戦況を変えられるとはとても思えねぇんだけど……」
「何言ってんだ! あたしの弟子なんだ! そのぐらいやってもらわないと困る!」
「えぇ……めっちゃ無茶振りやん……」
キリオは至極嫌そうな顔を見せる。
そして、キリオはロキとフロウの姿が見えない事に気づく。
「あれ? ゼドがここに居てなんでロキさんとフロウさんがいないんだ?」
「そうだ! 逸れたんだ! 俺、行かなきゃ!」
キリオの言葉でゼドは思い出した。
「なら俺達も……」
キリオはその次の言葉を言うのを思い留まり、言い直す。
「……いや……わかった! 一人で大丈夫か?」
「俺がそんなに弱いと思ってんのか?」
「思ってるわけねぇだろ! お前の力は俺が1番認めてる!」
「ありがとうな! 戦争が終わったらまた飲もうぜ!」
「おう!」
「じゃっ! また後でな!!」
ゼドはそう言い残し、去っていく。
「僕がいるから?」
唐突にジムはキリオに向けそう言った。
「悪いなジム……」
「いいよ……今は目の前の戦争に集中しよう」
「気づかってくれてありがとう」
そして、シリスはキリオの手に持つ黒い鋏剣を見て聞く。
「それはそうとその鋏どうした?」
「あぁ……ロンズデーライトで作った鋏剣だ……これじゃなきゃキメラの装甲を貫けない」
「へぇえ! なるほどな……となると……ウフフ」
シリスは何かに納得し、怪しい笑みを浮かべる。
「なんだよ!」
「いや! 良い事思いついてよ!」
「何企んでんだよ!」
「ん? そりゃ……」
その時だった。
前方の方で悲鳴が聞こえ、キリオ、シリス、ジムが確認した時には複数のアルデバラン兵が無残に死体で転がり、ミラク国兵士であろうその者は涙を流し覚束ない足取りで叫んでいた。
「い、痛いんだよぉぉお!! 誰かぁ!! 助けてくれぇ!! 体が熱くて熱くて痛い! 早く! 誰か! 俺を殺してくれぇ!!」
キリオは彼を見て苛立つ。
「おい……ジム……あいつらやりやがった……」
「やっぱり居たか……」
そこには魔獣ジオウルフの腕と脚を生やし、契約刻印が胸にある人間がいた。
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
「錬金術使いの異世界美容師」を
是非またのお越しをお待ちしております!!




