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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「鬼の子もまた鬼」

「鬼の子もまた鬼」






アルフェラッツ遺跡から洞窟を錬成し、地上まで出たキリオとジムは戦争地へと急ぎ、森を駆けていた。



「皆んな大丈夫かな?」



キリオは仲間を思い心配する。



「きっと大丈夫だよ! 戦力はアルデバラン国が上なんだ! 負けるはずがないよ!」

『 懶神なまけがみもこの世界線ではアルデバラン国が9割で勝つと言っていた……問題はないはずだ』


「負けなくても誰かが傷つくし、今この瞬間にも命を落としてる仲間が居るかもしれない。そう思うと心配でさ……」


「キリオは人の死体を見たことある?」


「見たことないな」


「なら最初は衝撃を受けるかもね」


「ジムはあるの?」


「あ! 言ってなかったけど僕、異世界ここでの親を殺してるんだ」


「はぁ!?」


「だからわりと慣れちゃったんだよね」


「何があったんだよ」


「両親共に酷い人達でさ。僕、転生者だから普通の子供とは違うって言われて「悪魔の子」って呼ばれてたんだよね……」



ジムは当時を思い返しながら淡々と話す。



「……僕も失敗したと思うよ? 早々と色んな事に手を付けたと思ってる。でも異世界来たら皆んなそうなるよね? 魔法使ってみたい、学んでみたい、次は失敗しない様に生きようとかさ……僕はただ、異世界ここでは優秀で居たかっただけなのに……父親も母親も僕を恐れ始めた……それで10歳の時、殺されそうになった……」


「だから親を殺したのか?」


「ん……実は僕も必死であの時の記憶は曖昧あいまいなんだけど……気づいた時には目の前で父さんと母さんは血まみれで死んでたんだ」


「そうか……辛かったよな……」


「それがさ! 辛くはなかったんだよね! 多分本当の親じゃないからだと思うんだけど……」



勘違いしているジムにキリオは力強く言った。



「ちげぇよ! お前自身がだよ!」



間を開けてキリオは言葉を続ける。



「その親は自分が理想とするジムを見ていて中身であるお前を見てはくれてなかったんだろ? お前自身、本当はジムではなく自分を理解して欲しかったんじゃないのか?」


「……あ……なるほど……」


「俺はジムを否定するわけじゃない。ジムであるお前を思ってるからこそ言う。ジムが居て、ジムの中に居る前世のお前が居るから俺は異世界ここでやっていけてる……感謝しているし、ちゃんと認めてるんだ……だからこそ俺は今、じょうを感じてる」



キリオはこの世界に生まれたジムではなく前世の思想なかみを肯定した。

ジム自身もキリオに言われて初めて理解する。

ジムの両親はジムの異常な成長、知識量、言動、未知の恐ろしさなどに違和感と恐怖から悪魔の子と呼んでいた。

しかし今、周りに居る仲間はジムの中の意志を理解してくれていることにジムは気づかされた。



「……ありがとう……なんかスッキリした」


「でもそっか……ジムにはそんな過去があったんだな……」


「まぁね! そこも含めて異世界だよ」


「……俺は耐えられないかもな……」


現代日本人ぼくらは争いを知らないからね」


「俺も覚悟しないと……」



キリオは決意を改め言葉を続ける。



「急ごうジム……俺たちが早く着くことで助かる命があるかもしれない」


「そうだね!」




そして、二人は戦場に到着し、驚愕する。



「ど、どういうことだよ……こ、これ……本当に勝ってるのか?」



キリオはアルデバラン国兵士の恐ろしい死体の量を見てそう言った。



「な、なんで……」



ジムも驚いた。

懶神の言葉を真に受け、安易な考えでここまで来た。

しかし、目の前に転がるアルデバランの兵士の死体の量にとても9割で勝っているとは思えなかった。



『 まさか……1割の確率が今出ていたとしたら……アルデバラン国は負ける……』


「うぅ……」


「キリオ!? 大丈夫!?」



余りの気持ち悪さにキリオは吐き気が襲った。

目の前の戦場では、体は潰れ内臓や脳が押し出され死んでいる人間、手足が飛んで死んでいる人間、上半身と下半身が切断され死んでいる人間、焼死体やその臭い、更にその戦場の危機迫る空気に悲鳴、そして混乱。

身が震え出すほどの気持ち悪さ。

その全てがキリオにとって衝撃的な光景だった。



「覚悟……してたつもりだったのに……」


「キリオ? 少し休む?」


「い、いや……耐えなきゃ仲間を助けられない」



その時、前方でキメラに殺されそうなアルデバラン国兵士がいた。



「や、やめてくれぇえ!! 誰かぁ!! たすけてくれぇえ!!」


「キリオ!! あの人危ない!!」



ジムがそう叫んだ時には、キリオは既に走り出していた。



『助けるんだ……俺が怯んでる場合じゃない!!』



キリオは全速力で走りながらそう決意し、錬成を開始する。



「鋏剣錬成!!」



キリオは右手にロンズデーライトの鋏剣を錬成する。

そして、一歩強く踏み込み更に錬成する。



戒級強化フルエンハンスメント……」



武装錬金術を使用したその瞬間、キリオは目にも止まらない速さで加速する。



「後、もう少し!!」



そして、キメラが気づいた時には、鋭い眼光で睨み鋏剣を力一杯に振りかぶるキリオがいた。

しかし、ほぼ同時だった。

キリオの目の前でアルデバラン国兵士の頭がキメラの刀のような爪に寄って切断され殺された。



「うぁぁああ!!」



目の前の光景にキリオは腹の底から湧き上がる怒りと助けられなかった悔しさの感情に任せて叫びながら鋏剣を振り抜いた。

キメラの頭は一瞬で吹き飛び、遅れて血が噴き出し倒れ沈黙する。



「助けられなかった……もっと速く来ていれば……俺が恐怖に怖気付いていなければ……くそぉ!!!」



悔しさの余りキリオは使い物にならなくなった鋏剣を力一杯地面に突き刺す。



「キリオ……君のせいじゃない……」



ジムも追いつき、そっとキリオに寄り添うように言葉をかける。

キリオは怒りで力一杯に握る拳を震わせながら言う。



「きっと……この人の帰りを待ってた人がいたかもしれない……その人は俺になんて言うんだろうな……」


「……そんなこと考えたことないからわからないけど……頑張って助けようとしてくれた事を感謝してくれるんじゃないかな」


「そんなわけねぇだろ!? なんで助けてくれなかったって言われるに決まってんだろ!? こんなの……こんなのふざけてる!!」


「……キリオ……これが戦争なんだよ……」


「……くそぉ!!」



そして、次々に辺りではアルデバラン兵士の悲鳴が上がる。



「ジム行くぞ……俺らが助けられるだけ助ける!!」


「背中は任せて!」


「頼む……」



そう言ってキリオは両手に鋏剣を錬成し、走り出す。

目に入るキメラを片端から両断し、ほふり、その度に鋏剣を錬成し直し青い錬成光が尾を引き戦場を駆ける。



「うぉらぁあ!!」



剣術も流派も無いその荒れ狂う様な戦い方にアルデバラン兵は驚いた。



「だ、誰だよあれ……俺たちが苦戦していたキメラを一撃で……」


「お、俺知ってるぞ! あいつは錬金術師だ!」


「この間の大会で10位に入った錬金術師か!?」


「戦う錬金術師……鬼のシリスの弟子だと聞いている」


「つ、強い……」


「……鬼の子はまた鬼と言うことか……」



キリオの戦い方は正しさや美しさとは無縁。

柔軟で合理的でまるで獣様なその戦い方は見る者に鬼の印象を与えた。



「あ、危ない!!」



その時、たまたまキリオに助けられたアルデバラン兵はキリオの撃ち漏らしたキメラの追撃を見てそう叫ぶ。

しかし、キリオは見向きもせず自分の目の前のキメラに向けて既に攻撃態勢に入っていた。

キリオの後ろにいるキメラが手を振り上げたその時。



雷鞭ランブリング ウィップ!!」



突如、放たれたしなる雷光がキリオを襲うキメラに巻き付き感電させ、動きを奪う。

その雷光を放ったジムを見てアルデバラン兵士は驚いた。



「ま、魔法師プロン様の弟子のジム様!? な、なぜこんな前線に!?」


「な、なんて心強いんだ……」


「俺達も行くぞぉ!! 錬金術師に遅れを取るなぁ!! 続けぇ!!」



驚く者、戦意が上がる者、救いを感じる者、その場にいた戦意を失いつつあったアルデバランの兵士はキリオとジムの登場により戦意を回復していく。

その間にキリオは対峙たいじしていた一匹目を仕留め、二撃目でジムが動きを封じたキメラの首を飛ばす。



「キリオ! 僕がいなきゃやられてたよ?」


「お前を信じてるんだよ!」



帰ってきたキリオの言葉にジムは嬉しさで口角が上がる。



仲間乃絆こういうのをずっと求めてた……楽しい!』



ジムは高揚感から一層キリオの速さについて行く。

キリオが自由に戦える環境をジムは判断し、サポートする。

そして、キリオとジムが戦争に加わり、次々に倒れていくキメラの数は驚きのものだった。



「キリオ!? ペース落とさないと身が持たないよぉ!?」


「まだだ!! まだ救える命が目の前にあるんだよ!!」



助けられた命、助けられなかった命、差し引いてもキリオには悔しさと怒りが込み上げ最悪の状況を想像してしまう。

そして、キリオは全力で鋏剣を振るう中、ジムは遠くの方で固まるキメラの群れを見つけた。



「キリオ! あそこ!」



ジムに言われキリオも確認する。



「っ!?」



キリオは群がるキメラの隙間から見えた一瞬の青い光で、そこに誰が居て、どれだけの危険な状況なのかを理解し、唖然とする。

そして、最悪の状況を考えれば考えるほど脈は速くなり、緊張感が増し、焦燥感しょうそうかんに襲われた。



「し、シリス!!」



切羽詰まる形相でキリオは駆け出した。







来週から毎週土曜日の更新に変更します!


よろしくお願いします!

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