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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「変わる戦況」

「変わる戦況」








「武装錬金術!! 戒級強化フルエンハンスメント!!」



シリスは四メートルは超える大型キメラと1人対峙していた。



「拳闘士術!! 蜷局とぐろ!! 貳連段にれんだん!!」



上空から凄まじい遠心力を加えた回転でキメラの頭頂部に脚技二連撃を見舞い、キメラは地面に埋まり、動くことが出来なくなる。



「やっぱり埋めないとダメかな……」



キメラの力量を判断し、シリスは地面に着地と同時に炭素を使ったロンズデーライトでキメラの周りをしっかり固める。



「悔しいけど武装錬金でキリオが見つけた炭素変換はかなり重宝してやがる……」



改めてダイヤモンドより硬い炭素に関心しながら状況を見渡す。



「まだこっちの被害はない……錬金術師部隊も上手く地中に埋められてる……このまま順調に運んでくれればいいんだけどな……」



しかしその時、ミラク国の陣営で一際大きい赤い霧が立った。



「……そんなに優しくはないかぁ……」



赤い霧は少しずつ晴れていき、そして姿を現したキメラを見てシリスは驚いた。



「な!? おいおいおい待てよ……キメラでド、ドラゴンを作ったって言うのかよ!? これは……もうあたしが最前線で戦ってられねぇな。それに、そろそろもどらねぇと魔法師の2撃目の餌食になっちまう」



その時、上空から火の雨が降り注ぐ。



「うお!? あちっ!? くそ!? プロンのやろう!? 構いなしにぶっ放しやがったなぁ!?」



シリスは急いで後方へと下がった時だった。



「これはシリスさん お久しぶりですね」


「お!? ロキ坊!? それに、フロウとゼドも一緒か!?」



プロキオン国部隊はアルデバラン国の援軍として100人派遣され、その中の10人将としてロキは抜擢され、前線まで部隊が上がってきていた。



「貴様!! 錬金術師の分際でロキ様になんたる無礼な言葉を!! 非常識にも程があるぞぉ!!」



ロキがひきいるプロキオン部隊の副隊長がシリスの礼儀知らずに怒鳴る。



じい? 彼女は私達にとって大事な人だ」


「し、失礼しました……」



副隊長は謝罪を入れる。

そして、ロキのその言葉にシリスは更に調子にのる。



「お!? ついにあたしと今晩を過ごす事に決めたかぁ!? いいぞ! 使い物にならなくなるまであたしがお前の逸物を可愛がってやるよ!!」


「あはは! 私にこんなご冗談を言えるのはあなただけですよ」



その時、ゼドがシリスに聞く。



「シリスさん? キリオはいねぇのか?」


「キリオは別件で今出払ってる! だが、もう終わっててもいい頃だ! そろそろ合流出来るんじゃないか?」


「そうか! 楽しみだな! あいつと一緒に戦えるんだ!」



更にフロウもシリスに訪ねる。



「では、ジム殿はどちらへ?」


「ジムもキリオと一緒だ!」


「そうですか……」



そして、ロキが本題に入る。



「シリスさん? 状況説明を頂いてもよろしいですか? あれはいったいなんなんですか?」



ロキは迫るキメラを指差してシリスにそう聞いた。



「あぁ……おそらくあれは混合獣キメラだ」


「キメラとは?」


「あたしも文献でしか見た事がない。空想の産物かと思ってた……しかし、ミラク国は完成させていたんだ」



ゼドがキメラの部位を見て驚く。



「げ!? 頭サラマンダーじゃないですか!?」


「そう! キメラは至る所の獣の部位を掛け合わせたモンスターだ! しかもそれを獣魔術師が契約しコントロールしてやがる!」


「対人戦闘を期待してたのになぁ……モンスター相手か……」



ゼドは少し残念そうにそう言った。



「ゼド坊! だからこそ甘く見積もるな! 混合獣あれを相手にするには3人は必要だぞ」


「ですよね……だから残念なんですよ! こんなのただの狩りと一緒だ!」


「それも相当難易な狩りだがな……武器強化しても、あのサラマンダーの剛皮膚に剣は通らない。」


「間の溝を狙えばいけそうですね!」


「狙わせてくれればいいけどな! だからあたし達錬金術師はキメラの動きを封じてる! その隙に仕留めてくれ!」



会話が進む中、キメラは着々と迫って来ていた。

そして、ロキが言う。



「女性に先行させるのはちょっと気が引けますが……よろしいので?」


「まかせろ! だって今日あたしを抱いてくれるんだろ? お姉さん頑張っちゃうぞ!」


「またご冗談を……しかし、戦争ここではそのお言葉に甘えましょう」



シリスは肩を回しながら一歩皆んなより前に出る。



「いくぜぇ! 広範囲錬金術ワイドリジョン!!」



勢い良く両手を地面に叩きつけたその時、青い雷光が瞬き、凄まじい轟音を鳴らして地面が捲り上がり、波のようにキメラを飲み込んだ。



「すげぇ錬成範囲!?」



シリスの所業にゼドが驚いた。



「うぉおお!!!」



シリスは力一杯に錬成する。



「これほどの錬成をたった一人で……」



ゼドに続きフロウも驚いていた。

そして、シリスの錬成はある程度の範囲のキメラを飲み込み、コンクリートのように固める。

その瞬間、ロキが大声で指示を出す。



「各自! 3人一組になり! キメラを討伐せよ! 前進!!」



ロキが率いる部隊は雄叫びを上げ突撃する。



「ではシリスさん私達も行ってきます」


「おう! 死ぬなよ!」


「御武運を」



そして、ロキ、フロウ、ゼドも戦場へと駆けていく。



「あたしも、もうひと暴れしとくか……」



その時、シリスから見て右手側からも激声が飛んでいた。



「冒険者の見せばだぁ!! 素材をうばいとれぇぇ!!!」



そう叫んでいたのはガダイだった。



「冒険者隊もようやく前線に来たか」



シリスは辺りを見回し、更に状況確認する。



「おうおう……貴族隊もお出ましか……ようやく戦争らしくなってきやがった」



アルデバラン国を代表する貴族達の隊も前線へ上がり、そこにはアルナ・アルデバラン、エル・アルデバラン、ウェン・アスピディスの姿もあった。



その時、シリスの前方でロキ、フロウ、ゼドの三人は一匹のキメラに苦戦していた。



「くそ! 固すぎだろ!」



ロキ達は5メートル級のキメラと対峙し、ゼドが一太刀入れたその時だった。

キメラは遠心力から長い尻尾をゼドに向けて放つ。



「やべ!?」


「馬鹿者!」



直ぐにフロウが援護に入り、ゼドの目の前でキメラの尻尾を剣で受け止めた。

その隙にロキが詠唱を終え、攻撃に移る。



光速ライト ファスト!!」



ロキは聖騎士の為、光魔法を使い光速に剣技を乗せてキメラの首を跳ね飛ばす。



「ゼド油断するな」


「す、すいません」


「しかし、臆するな。私達3人で確実に仕留めていくぞ」



その時、急に何か大きな物の陰りが被さり、3人は上を見上げ、ゼドが冷や汗を垂らし驚いた。



「まじかよ!? 空飛んでんじゃねぇかよ!?」



それはドラゴンを模倣もほうした10メートル級のキメラだった。

そして、そのキメラは空中で羽ばたきながら喉元を赤く染める。



「まずい!? 退避!! 急げぇ!!」



ロキが気付き、激声を上げ指示を出し、3人は瞬時に距離を取る。

その瞬間、キメラの口から放たれた凄まじい業火が上空から降り注ぐ。



「逃げ切れない!?」



直撃は免れたものの、広がった業火がゼドを襲う。



「クソ!?」



その時。




広範囲錬金術術ワイドリジョン!!」



突如として、地形が轟音を唸らせ形が変わりゼドの目の前に大きな壁が築き上がり守る。



「危なっかしいやつだなぁ!! 他の所に行けやしない!」



ゼドが振り向けばそこにはシリスがいた。



「す、すいません!」


「しかし、これはまずいぞ……」



上を見上げシリスはそう言い、ゼドも目線を上空へと向けて驚いた。



「うそ……だろ……」



ドラゴンを模倣したキメラは一体だけではなく、上空で十体以上が嫌な羽の音を立てて飛び、そしてその十体が同時に喉元を赤く染めた。



「まじかよ!?」



シリスが気づいた時には既に遅かった。

唸る轟音を響かせて十体同時に口から炎を放つ。



「ワイドリジョ……」

『 ま、間に合わない!?』



シリスはまた広範囲錬金術で防御を試みるも明らかに間に合わない。

しかし、その時だった。



大型魔障壁フルウォール!!」



上空一面に黄色に光る六角形が幾つも連なり、壁が展開され、キメラの炎を受け止める。



「これは!? 魔法師部隊の大型魔障壁!! プロン! ナイスタイミング!」



大型魔障壁は十体のキメラの業火を全て受け切り、消滅する。

そして、キメラは雄叫びを上げ、地上へと降りてきた。

混合獣それを見て腕に自信のあるアルデバラン国兵士が名を上げようと走り出す。



「今がチャンスだぁ! 着地を狙えぇ!! うぉぉお!!」


「バカ! やめろぉぉ!!」



キメラの強さを理解しているシリスは叫ぶ。

しかし、シリスの声は届かずキメラの振り抜いた刀の様な爪が無謀に向かってきた兵士達数名を一振りで三等分にする。

他でも次々にアルデバラン国兵士は無残に殺されていく。



「クソ!!」



急いで崩れた隊列を修正しようとシリスは走り出そうとしたが、複数の着地音と共に気づけばゼドと二人でドラゴンキメラに囲まれていた。



「これは流石に死ぬかもな……」


「俺まだ女を抱いたことないんです」


「だからあの日にあたしに抱かれてれば良かったのになぁ!」


「ええ……今では後悔してますよ……」



二人は冷や汗を垂らし苦笑いを浮かべる。




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