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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「開戦」

「開戦」






「いいか! お前ら! ミラク国は15万の兵力に対しこっちは20万だ!! アルデバラン国が負けることはない!!」



大草原が広がる地。

蜃気楼でぼやけて見える地平の更にその先にミラク国の15万の兵が並び、対してアルデバラン国は20万の兵を整列させ、先頭の錬金術師部隊にシリスは呼びかけていた。



「いつもの事だが! 錬金術師われわれは今回も捨て駒だ!!」 



兵士の怒気どきを上げるためにシリスは自分が伝えたいありのままの言葉をつづる。



錬金術師あたしたちは非戦闘員にも関わらず前線にいつもこうして立たされている!! 錬金術師には戦う術は無い! なのにも関わらず!! 錬金術師が死のうとアルデバラン国の奴らは誰もあたし達を助けてはくれない!! だからこそ! 今並べた5人チームで常に行動しろぉ!!」



シリスは2000人ほどの錬金術師を5人1チームに分け、戦闘経験のある者など上手く分配し整列させていた。



「後方の奴らは錬金術師を屍の盾にしか思っていない!! なら! お前達は戦わなくていい!! しかし! 逃げることだけは許さない!! もし! 逃げた事により陣形は崩れ!! 今隣に立っている仲間が目の前で殺されるからだ!!」



シリスのその言葉に全員が驚きの表情を見せる。



「あたしからお前らに言えることは一つだ!」



間を置いてシリスは力強く言葉を口にする。



「仲間の命を守れぇ!! これが絶対条件だ!!」



シリスのその言葉は風に乗り良く響き渡る。



「隣の友人を守れ! 仲間を守れ! 絆を守れ! そして自分自身を守れ! 敵を撃破しなくていい!! お前達は自分達の命を守り抜けばいい!!」



シリスのその一つ一つの言葉は錬金術師部隊一人一人の心に深く響く。



「そして!! 最後に言わせてくれぇ! 全員……」



シリスは今から言う伝えたい言葉に、心を一杯に乗せて、思いを乗せて、願いを乗せて、希望を乗せてその言葉を力強く叫ぶ。



「必ず生きて帰ってこい!!!!」


「はいッ!!!!」



シリスの言葉に感化された錬金術師部隊の返事はかなり圧巻だった。



「よし! 一緒に行こうか! 地獄へ!!」



シリスを先頭に全員の顔つきが変わる。

しかしその瞬間、先に動いたのはミラク国だった。

敵国の前衛で赤い霧が数多く立ち上がっているのにシリスは気づく。



「あれは!?」



シリスはその見覚えのある赤い霧に驚いた。



「……これはまずい事になった……」

『 まさか獣魔術師? あの中に獣魔術師が何人居るんだ? 1人一体だとしたら兵力の差が大きく変わる……いや……1人複数持ってた場合……被害はこっちが大きいじゃねぇかよ……』



シリスは近くにいた一つのチームリーダーに指示を出す。



「このチームに頼がある! 魔法師プロンを経由し、本陣の軍師にこの事を伝えろ! 獣魔術師を確認!! アルデバラン兵力20万を超えると!! そして、後方にいる武具生産錬金術師部隊に魔力がからになるまでありったけの武器を作らせろ!! 更に相手が魔獣なら冒険者隊が必要になる! 前に出せと伝えくれ! 急がないと手遅れになる!!」


「りょ、了解!! 急ぐぞ!!」



5人が後方へと走る背中を見届け、シリスは全員に説明する。



「全員聞けぇ!! 状況が大きく変わる!! あたし達の相手は人間ではない!! 向こうに複数の獣魔術師がいる! 相手は魔獣だ! 拘束具系の錬成は効かない!! 地中深くに埋めることを心がけろぉ!!」



その時だった。

ミラク国から攻撃の合図の笛が鳴り響き、遠くの方で土煙が舞い始める。



「始まったか……」



今、アルデバラン国とミラク国の戦争の火蓋が切って落とされた。



「全員!! 戦闘態勢!! 5人1組で陣形を作り!! 配置しろ!! 急げぇ!! 魔法師の餌食になるぞぉ!!」



錬金術師部隊は急いで配置に着き、迫り来る魔獣を目視し、驚愕した。

万を超える数に大きさは様々だが、2メートル以上の得体の知れない魔獣の群れが凄まじい速さで向かってくる。



「な、なんだよあれ……見たことのない魔獣ばかりじゃねぇか……」



魔獣の異変にシリスも気づく。

しかし、所々の知っている魔獣の部位を見て理解した。



「おい……ちょっと待てよ……あれはくっついてるのか!? 」

『 いや……初代の文献で見たことがある……あれは……混合獣キメラか!? そんな錬成が実在するのか!? 初代の文献でも仮説は合ってもその錬成方法は乗ってなかったって言うのに!? ミラク国が可能にしたのか!?』



その頃。

シリスが送った報告部隊がプロンの所へ到着し、事情を説明した。



「わかったわ。報告ありがとう。後方の軍師の元へ急いで行きなさい」



そして、プロンは魔法師部隊の副隊長に指示を出す。



「セット内容を変えるわ。初手は陽炎ソレイユで行く」


「ソレイユですか!? 内容は伺っていますが! 誰も出来ない可能が高いと思われます!!」


「大丈夫よ。私を誰だと思っているの? 全て私がサポートするわ」


「どうすると言うのですか!?」


「部隊の半分に魔力球を作らせ、その魔力にもう半分の部隊で炎魔法を詠唱させ点火させなさい。どちらも聖級の質でお願いするわ」


「それでは高魔力により形状の維持やバランスが崩れ! 詠唱術式途中で大爆発を起こしかねません!!」


「そこの術式のサポートを私が目算で行うわ」


「無謀です!! そんな事出来るはずがない!!」


「何故、私がそんな無謀をするかよく考えてみなさい」


「……え? ど、どう言うことでしょうか?」



魔法師副隊長は必死で考える。



『 当初の予定では水聖級魔法で災害的な妨害、派生からの雷鳴魔法での攻撃予定だったはず……それをソレイユに変える理由……水聖級魔法に比べ、ソレイユは立ち上がりが速い……更に瞬発的な攻撃力を誇る……』

「 ……は!? まさか!? それ程の敵!? それも一刻を争う事態なのですか!?」


「わかったなら急ぎ準備をさせてちょうだい」


「了解!!」



魔法師副隊長は魔法師部隊を二つに分け、プロンに言われた通り炎の点火物になる魔力球と点火する炎魔法を行わせる為に部隊に指示を出した。

その時、近くで敵の動きを監視していた仲間から報告が飛ぶ。



「敵兵! 目的地到達!!」



その報告を聞き、魔法師副隊長か叫ぶ。



「詠唱開始!!」



その場の魔法師部隊全員が聖級魔法の詠唱を同時に唱え始める。

1人でも間違えれば詠唱術式は失敗し、唱えた魔力は空気中に分散してしまう。

聖級魔法の詠唱で持っていかれる魔力量は相当な物の為に魔法師全員が意識を集中し、緊張で手が震えている者もいた。

しかし順調に魔法師部隊の上空にはまだ大きくは無いソレイユが徐々に姿を表す。



「……少し乱れているわね」

『 ソレイユの周りに私が魔力で膜を張りバランスを取れば……』



プロンは両手を上に翳し、目算で魔力の補助を行う。

しかしその時、魔法師の部隊の1人が詠唱術式を1文字外したその瞬間だった。

轟音を轟かせるソレイユの一部で爆発が起きる。



「……っく!?」



プロンは全体の形状維持を行いながら同時に部分的にもサポートし、足りない術式を目算で埋め、直ぐに修正し、軌道に乗せる。



『……これは……私でも結構辛いわね……』



総勢50人の聖級魔法が使える魔法師が束になって作る壮大な魔力をプロンは1人で抱え込む。

その難しさと辛さは想像絶する物だった。



陽炎ソレイユ……もはや小さい太陽の様ね……あの子はなんて物を作ったのかしら……でも、弟子よりもっと凄い事をやるのがーー』



プロンはバランスを取りつつ、部分的な補助をこなし、負担はかなり大きかった。

しかし、師匠と言うプライドがそれを更に駆り立てる。



「ーー師匠ってものよね!!」



プロンは更に魔力を力一杯に送る。

完成しつつあった陽炎ソレイユだったが、プロンが魔力を送る事で脈打つ様に轟音を鳴らし更に膨れ上がった。

そして、アルデバラン兵とミラク兵が並ぶ丁度間へキメラが差し掛かかり、事前に錬金術師が作った落とし穴に落ちたその時、完成する。



太陽乃力ソレイユ スフィアー!!」



放たれた聖級魔法。

それはシリスの後方上空から轟音を奏でて直径100メートルの炎の球が飛来し、キメラに着弾する。

閃光が真っ先に瞬き、遅れて凄まじい爆発音に耳は一時的に機能を失い、爆風で全ての者が飛ばされそうになった。



「プロンの奴!? とんでもねぇ魔法ぶっ込んできやがったな!?」

『 この破壊力……何人で聖級魔法の詠唱させたんだよ……そうなると次の聖級魔法までかなりロスが出る……今度はあたしの出番だな!』



そして、シリスは1人走り出した。

戦場の真ん中では火の海に煙が立ち上がり、その間を生き残ったキメラが走ってくる。



『ここでキリオに見せてやれないのが少し残念だが……本家の力見せてやんよ……』



シリスは近くにあった岩を踏み台に跳躍し、空高々から地面に向けて拳を力一杯に叩きつけた。



広範囲錬金術フルフォージング ゾーン!!」



一瞬にして青い雷光が地面を駆け巡り、超広範囲で凄まじい轟音を奏で、高波の様に地面が捲り上がる。



「いっけぇぇええ!!!」



シリスの錬金術はキメラをほとんど飲み込み、土の中にある強度成分を使って錬成されたコンクリートでキメラを地中深くへと閉じ込めた。



「よっしゃっ!! まだまだ行くぜぇ!!」



更にシリスは1人突進する。

かなりの数を減らしたが、それでも後方のキメラは生き残り、脚を止めずに迫ってくる。



「人間なら怯んで隊列を乱し楽なんだけどな……混合獣こいつらはそんなの関係ないか……」



その時、4メートルは超えるキメラ1匹が目の前に現れた。



「さて……お手並拝見と行きますか!」



シリスは数回に渡り前転を加えて遠心力を作り、最後に力一杯空中で蹴りを放つ。



風輪切脚ふうりんせっきゃく!!」



シリスは拳闘士術けんとうしじゅつ風魔法足技を使い、風の刃を飛ばした。

キメラに向かって凄まじい速さで飛ぶ風の刃だったが、キメラにはサラマンダーの暑い剛皮でシリスの攻撃は片腕で跳ね除けられる。



「やっぱり効かねぇか……」

『 これじゃ、こっちの武器が刃こぼれして直ぐ使い物にならなくなっちまう……果たして、錬金術師に作らせた武器で足りるのか?』



その時、魔法師部隊では2撃目の準備が整った。



「第二波の上級魔法詠唱を急げぇ!!」



魔法師副隊長が声を張り上げる。

しかし、緊迫するこの状況で監視役から声が飛んだ。



「ちょ、ちょっと待ってください! 座標に1人戦う兵士がいます!!」


「なんだと!? まだ後方待機のはずなのにそいつは何をやっているのだ!!」



その時、プロンから驚きの言葉が出る。



人間あれは大丈夫よ。気にしないで詠唱を開始しなさい」


「そ、それはさすがにまずいのではないのでしょうか!?」


「あれは錬金術師よ。1人死のうがかまわないわ……」



その言葉を聞き、その場の全員が納得する。



「……まぁ、戦場真只中あそこにいる錬金術師を本当に殺せたら大したものでしょうけどね」



プロンはシリスへの信頼から微笑んでそう言った。







ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!


ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!

それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!

今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!



「錬金術使いの異世界美容師」は毎週金曜日、夜22時の更新です!



是非またのお越しをお待ちしております!!

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