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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「2人の出発」

「2人の出発」





シリスが馬車を操縦し、積荷と一緒にキリオ、ジム、プロンは荷台で会話をしながら戦地予定地へ向け進む。

その時、ペテルが参加出来ないと聞き、ジムは納得する。



「そうですか……ペテルさんはアンの治療でこれないのですか……それはそうですよね」



そして、プロンは淡々と説明した。



「それでも治癒部隊は派遣されているわ。損害は大きいでしょうけど大丈夫なはずよ?」


「ちなみになぜ僕達だけこんなに早く出発されたのですか?」


「地形の操作、下見ってところかしら?」


「なら錬金術師部隊は先にいるのですか?」


「数刻遅れてくるわ」


「そうなんですか……ではまず詳しい作戦を教えて頂けますか?」


「そうね。まずは地形の下見をし、錬金術部隊が到着したらシリスの指示のもと地形操作を行い、その後錬金術師部隊は後方支援と前線の歩兵として派遣されるわ」


「相変わらず錬金術師の扱いが悪いですね」


「仕方がないわ。疲労する武器の生産に武具、防壁など錬金術師は使い勝手が良い所為せいね。でもだからシリスがここに居るのよ」


「どう言う事ですか?」


「シリスの二つ名は知らないのかしら?」


「二つ名ですか?」


「鬼神のシリス」


「鬼神?」


「錬金術師でシリスがある程度優遇されているのは戦争での功績が大きいからよ。錬金術師を死なせない為に前線でいつも活躍しているの。シリスがいれば千人二千人の兵力と同じような物ね。それで荒ぶるシリスを見てついた名が鬼神。」


「……。」



ジムもキリオもシリスの凄さに言葉を失った。



「あ……あの……シ、シリスさん? そんな凄い方だとはつい知らず……今までの無礼を……」



キリオは冷や汗を垂らしそう言う。



「やめろ! そんなよそよそしい痒い事言うじゃねぇ! あたしが名乗ったわけじゃねぇんかだから!」



その時、ジムが気付く。



「ん? てことは……シリスさんはアルフェラッツの遺跡には来ないって事ですか?」


「そうよ」



ジムはその違和感に冷や汗が垂れる。



「え? あ、あの……プロンさんは……」


「私も本陣の後方支援よ」



その言葉を聞き、キリオとジムは目を丸くしてお互いを見つめ合う。



「キリオ? これってまさか……」


「ジム……そ、そのまさかだよな?」



焦る2人にシリスが下品な笑い声を上げて言う。



「ギャッハハハ!! そうだよ! アルフェラッツ遺跡にはお前ら2人で行くんだよ!」


「おい!? ちょ、ちょっと待てよ!! そんなの聞いてねぇぞ!?」


「当たり前だろ!? 今言ったんだから!」


「なんだよそれ!? 敵陣に俺ら2人で心配になんねぇのかよ!」


「むしろその逆だ! 戦場に居る方が危なっかしくて心配になるわ!」



シリスは改めて言う。



「今回、本命は戦争だ。国と国の命運がかかってるのにも関わらず遺跡を守る国なんてあると思うか? それに鏡を壊してくるだけならお前らで大丈夫な筈だ」


「それは……そうだけど……」


「なんだよ! 怖いのかキリオ?」


「しょ、正直……怖い……」


「は? どうしたお前?」



シリスは真面目に驚いた。

まさかキリオから怖いと言う言葉が出るとは思っても見ていなかったからだ。



「いや……戦争って命のやり取りだろ……俺自身もそうだし、同じクラスのウィルだったり、関わった友達や知り合いが死ぬかも知れない……そう思うと怖いに決まってるじゃんかよ」


「そうだ。それが戦いであり、戦争だ。だからこそ皆がそうならないように頑張ってるし、皆んなが誰かを思って戦ってる。家族、友人、恋人……それでも急な別れは必ず来る。それに慣れろとは言わない、ただ言えることは心を強く持つことだ」


「わ、わかった」


「少なからず……お前らのアンの件が終わったら戦場に手伝いに来てもらう。その時必ず人間の死体は腐るほど転がっている……本気まじで覚悟だけはしとけよ」


「う、うん」



そして、ジムが話を戻す。



「僕達の行動と錬金術師の動きはわかりました。他の部隊はどのような動きになるのですか?」



プロンは重要事項が他にないか考えながら言う。



「そうね……他に報告しておかないといけない事は……輝きのトーラス隊は来ないってところかしら?」



その事実にジムは驚いた。



「え? アルデバラン国最強の聖騎士部隊が今回参加しないのですか!?」


「ええ。そう言っていたわ」


「なんで!?」


「全ての部隊を出したら国が空っぽになってしまうじゃない、トーラス隊が国にいればなんとかなるし、安心できるわ」


「あ……なるほど」


「今回、トーラス隊全員はいないけど、幹部は数人参加し、そこを将軍として部隊を編成しているみたいよ」


「ちなみにこの戦争でアルデバラン国の負けはどこになりますか?」


「撤退と、本陣のトーラス隊副隊長アイン・アルデバランが撃たれたら終わりじゃないかしら?」


「逆に勝ちは?」


「相手本陣の主将の首か、殲滅よ」


「そうですか」



キリオがアインの名を聞き心配する。



「予選の時、そのアインさんに良いところまで勝負できた記憶があるんですが……あの人は強いのですか?」


「予選はレベルを合わせるために試験官には枷が付いているのよ。力の半分以下で戦ってたはずよ?」


「あ……おごりました……すいません」


「良いのよ。気づいたことが大事だわ」


「ちなみに1番重要なことを聞いても良いですか?」


「何かしら?」


「敵は本当に殺さなきゃいけないんでしょうか?」


「ええ。それが戦争よ」


「は、はい……」


「しかし、完全に無力化できるのであれば殺す必要は無いわ」


「本当ですか?」


「ええ……ただ、完全なる無力化を忘れないで」


「どういうことですか?」


「例えば重力魔法グラビティで抑えたからもう安心って思って背を向けた時、解除され殺される可能性だってある。安易な考えが仲間の命を奪ってしまう事が多いからよ」


「はい……わかりました」



キリオの話がひと段落ついた事でジムはプロンに聞く。



「他に作戦は? あるのですか?」


「そうね……これは伝えるか迷ったのだけれど、あなたを信じて教えてあげるわ」


「何ですか?」


「プロキオン国が別働隊で参加するわ。そこにフロウも居る」


「……なるほど。わかりました」



ジムはそれ以上何も言わなかった。

その本意はプロンにもキリオにもわからなかった。



「着いたぞ!!」



その時シリスから声がかかる。



「キリオ手伝え!」


「何を?」


「地形操作だ!」



キリオは馬車を降り、目の前の広大な綺麗な景色に感動すると同時にむなしさと悲しさが同時に込み上げる。



『ここが……戦場になるのか……』



シリスはプロンと拠点の位置の相談している中、キリオはジムに聞いた。



「まさかとは思うけど……戦争真っ只中でフロウさんに問い詰めたりする予定あったりする?」


「僕もそれを考えてた」


「で? 答えは?」


「機会があればと思ってる」


「そうか……」


「僕を止める?」


「状況によるな……それこそ機会が有ればだな」


「……そう」



その時、シリスから声がかかる。



「2人とも手伝ってくれ!」



キリオはシリスと共に地形操作を始める。



「おい! キリオ! てめぇ! 手抜いてるだろ!? こっちの負担がでけぇぞ!!」


「精一杯やってるっつうの!!」



移動できる溝や、地下通路、落とし穴、防壁、遠距離攻撃用の武器、防具の生産など戦争で必要になる物を2人でできる限り済ませる。

その間プロンとジムは攻撃魔法のセットリストを作る。



「最初は低級魔法で魔力を温存しつつ聖級魔法の準備ですか?」



ジムは自分なりに考えプロンに聞く。



「いいえ。聖級魔法からよ」


「え!? 初手でですか!?」


「そうよ。初めに聖級を放ち、初級魔法を間に挟み魔力を回復し、そしてまた聖級魔法のローテーションよ」


「一対一と多勢では戦い方まるで違うのですね」



4人で出来る限り作戦を立て、準備をし、気付けば辺りは暗くなっていた。



「野営の準備をするぞ」



焚き火に、持ってきた食糧、テントを張り、4人は食事を取る。



「はい。これ……」



プロンはジムに紙を渡した。



「これは何ですか?」


「アルフェラッツ遺跡への地図よ」



ジムは受け取り、早速開いて確認する。



「思ってたより遠いですね」


「明朝にあなた達は出る感じね」


「そうですね」



シリスが口を挟む。



「道は避けろよ」


「なんでだよ?」



キリオが聞き返した。



「進軍するミラク国の奴と鉢合わせしたらどうすんだよ」


「あ……間違いない」



アルフェラッツ遺跡へ向かう旅路を相談し、4人は就寝し、翌日の朝準備が整い、シリスが言う。



「キリオ、ジム……頼んだぞ」


「頑張ってはみるよ」


「おい! キリオ! なんだよそれ! 任せろの一つも言えねぇのかよ!?」


「言えないな……俺は約束を前の世界に置いてきちまったからな」


「チッ……なら出来る限り頑張れや」


「その言葉の方が助かるわ」



キリオとシリスが会話する中、プロンとジムも話していた。



「ジム? あなたには心配していないわ」


「またそれはいったいどうしてでしょう?」


「だってあなたは本当に良くやっているわ。フロウの件にしてももしかしたら私達が間違えてるかもしれない……ジムが正しかった場合、皆んなを守れるのはあなただけよ? だから心を強く持つといいわ」


「アハハ……そこまで言って僕側には賛同してくれないんですよね?」


「ええ……私の考えとは異なるもの」


「プロンさんらしいですね……では行ってきます」



キリオとジムの背中を見送り、シリスが言う。



「あいつらなら大丈夫だよな?」


「ええ。ジムが居ればなんて事はないわ」


「あたしからみたらジムが危なっかしいんだが?」


「あら? それを言うので有ればキリオ君こそ危ないのでは?」



2人は沈黙を置いて笑いが込み上げる。



「……ブフッ! ブハハ!」


「……ウフフ!」


「まさか私らが弟子自慢をするとはな」


「ええ。本当に驚きだわ」



その時、遠くの方で錬金術部隊が列を成し向かってくるのが見えた。



「お? 来たか……始めるとしますか」


「そのようね」



戦争が始まろうとしていた。




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