「理解されない」
「理解されない」
「な、なぜ……こ、こんなことに……」
『 懶神と契約したんだ……アンは死なないはずなのに……ど、どうして……』
ジムはペテル・ベガが所有する緊急治療室のベッドで眠る重症のアンカーをガラス越しで見てそう言った。
「わからない……今プロンさんたちが現場検証してる」
ジムは驚きの余り、キリオの肩を力一杯揺らし声を荒げて言う。
「アンは大丈夫なの!? ねぇ!? キリオ大丈夫だって言ってくれよ!」
「落ち着けって! 命に別状はない……ただ……」
「……た、ただ?」
「意識が戻らない」
「ど、どう言うこと? まだ意識が戻らないのは当たり前だろ?」
「違う……ペテルさんが言うには何か呪いに近い魔術が掛けられてるらしいんだ」
「なんだよ……それ……解除の方法は!? ペテルさんならなんとか出来るだろ!?」
「それが……これは外側からは無理らしい」
「無理? どう言うこと?」
「内側……アン自身が呪いに打ち勝つまで眠り続けるらしい」
「僕達には何も出来ないってこと?」
「悔しいよな……仲間が大変だって言うのに何も出来ないのは」
「……だから言ったじゃないか……絶対フロウだ!!」
「おい待てよ! 早まるな! まだ決まったわけじゃない!」
「それ以外考えられないだろ!? じゃぁ! どこの誰だって言うだよ!」
「それを探る為に今、現場検証しているんだろ?」
「防げたはずなのに……」
ジムは怒りに任せて拳を力一杯に握る。
「ジム……お前の所為じゃない。気負うな」
「う、うん」
沈黙を挟んでジムは口を開いた。
「……現場の状況が見たい……キリオ行こう」
「わかった」
ジムとキリオはアンカーの部屋へと着き、目の前の悲惨な状況に言葉を失う。
争ったと思われる荒れ果てた状態、壁には飛び散った血、そして、何かが爆発した様な痕跡も伺えた。
「ひ、ひどすぎる……」
余りの惨状にジムから言葉が漏れる。
「シリス? 何かわかったか?」
プロンとシリス、そしてペテルが現場検証をしている中、キリオがそう言葉をかける。
「来たか……もうすぐプロンの魔法で結果が出る」
「それで何がわかるんだ?」
「魔力痕跡……種類や、大まかな特定が可能だ」
「……そうか……」
キリオはジムの懸念を取る為に改めて言う。
「ジムの不安を先に取りたい! 今の段階で皆んなはどう思う?」
その問いにシリスが答える。
「フロウかもって話か?」
「うん」
「あり得ない」
シリスから帰ってきた言葉を聞いてジムは怒りを抑えて言う。
「理由は?」
「まず壁を見てみろ」
シリスが指差す壁の傷は4本の線で抉られていた。
「明らかに人間じゃない」
「それだけでは理由にならない」
「まだある」
「他には?」
「プロン結果は出たか?」
プロンは部屋全体に魔法陣を張り巡らせ痕跡を探していた。
そしてその時、魔法陣の隅で赤く発光する文字が現れる。
「お待たせ。今出たわ」
「どうだ?」
シリスが聞き、プロンは答える。
「これは……獣反応ね」
その真実を聞き、シリスは頭を抱えて舌打ちをする。
「……チッ……当たりっぽいな」
「ええ……断定はできないけれども」
その言葉にジムは聞く。
「当たりとはどう言う事ですか?」
シリスは答える。
「昔、あたし達が南国で繰り広げた戦争は知っているな?」
「はい」
「そこで厄介な奴が居たんだよ」
「厄介?」
「獣魔術師だ」
「でもそれって随分昔の話しですよね?」
「まぁ……聞けって」
シリスは窓の外を眺めながら言葉を続ける。
「その獣魔術師にあたしらは苦戦したんだ……苦戦の末、勝ったが、被害が凄かった。だから調べたんだよ。その獣魔術師を」
キリオが聞く。
「それで? 調べて何が分かったんだよ?」
「獣魔術師は西国出身だったんだ……そして、あたし達がお前らに隔絶空間の使い方を教えた理由はこの獣魔術師にある」
西国言葉を聞いてジムは青ざめる。
「ってことは……」
「そうだ……今この瞬間……」
シリスは間を置いて次の言葉を言い放つ。
「……戦争が始まった」
シリスの言葉にその場の空気が凍る。
しかし、ここまでの事実がありながらもジムはフロウへの懸念を捨てられずに居た。
「それでも……僕はこの件にフロウが怪しいと思ってます」
聞き分けの悪いジムのその言葉にキリオは苛立ちを耐えきれずに言う。
「おい! 良い加減にしろよ! ここまでの証拠があるんだぞ!! まだフロウさんを疑うのかよ!」
「ごめんキリオ……それでも僕だけが感じたあの違和感は誰にもわからないと思う」
「どうするつもりだ?」
「今からフロウに直接聞きに行く」
ジムから返ってきた言葉にキリオは驚いた。
「はぁ!? ジムまじでいってのかよ!?」
「プロキオン国が一時帰国する前に動かないと間に合わない」
「ダメだ! 行かせられない! 異世界を知らない俺でも国と国とで揉めたら大問題になることぐらい俺にだってわかる! そんなの絶対ダメだ!」
キリオのその言葉にジムは怒りが抑えられなくなり、怒鳴り声を上げる。
「アンがやられたんだぞ!? 仲間が死ぬかもしれなかったんだよ!? そんな悠長なこと言ってられる状況じゃもうないんだよ!!」
「だからこそ慎重に行こうって言ってるんじゃねぇかよ!」
「ダメだ……君じゃ話にならない……」
「それでも行かせられない」
「そこを……どいて……」
「嫌だ」
そして、間にシリスが入る。
「そこまでだ……ジムの言い分もわかる。けど、キリオの言い分も正しい……」
その言葉にジムは聞く。
「じゃぁ……どうしろと?」
「今は抑えろ……今回の戦争でプロキオン国の力は必須だ」
ジムはもう限界だった。
聞かされる言葉はずっと否定的で、我慢や、忍耐を求められ続け、自分と違い冷静な皆んなにジムは言い返せば言い返すほどに、言葉を並べれば並べる度に感情が溢れ、歯止めが効かなくなった。
「仲間がやられたのに今は抑えろだって!? 我慢しろ!? あんた達は何を言ってんだよ!! アンがやられたんだよ!? 死んでいたかもしれないこの状況で我慢しろ!? ふざけるなぁ!!」
「ジム? 良い加減にしなさい?」
荒ぶるジムを止めたのはプロンだった。
そして、プロンは優しく言葉を続ける。
「状況を良く見なさい……頭の良いあなたならわかる状況よ?」
「……ふざけるな……」
「……今のは聞かなかった事にしてあげるから謝りなさい」
「いいや……間違っているのはあんた達だ……」
ジムはもう抑えられなかった。
自分だけが知っているフロウの恐ろしさ、そして、違和感、大事な仲間を傷つけられたにも関わらず、自分を否定し、怒りも、悔しさも見えない仲間。
ジムは仲間に対して悲しさと同時に怒りを覚えた。
「……ごめん……皆んな……」
ジムは涙を一粒流し、微笑んでそう言った。
その瞬間シリス、プロン、ペテルはようやくジムは理解してくれたと思った時だった。
「……重力魔法!!」
急にジムはその場の全員に重力魔法を掛け、その同時に自身に強化魔法を施し、急いでフロウの元へと走り去る。
しかし、その時。
その場のキリオをだけが、ジムの表情の意味をしっかりと理解し、ジムに重力魔法をかけられる直前キリオは既に行動していた。
「階級強化!!」
キリオは武装錬金術から更に反転術式でジムの重力魔法破壊する。
「キリオ! ジムを止めろぉ!!」
シリスがそう叫んだ時にはキリオはジムを追いかけていた。
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
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