「ジムの不安」
「ジムの不安」
フロウが衝撃の言葉を口にする。
「はい……殺せばいいのですね?」
『は!? い、今……殺すって言った!? だ、誰を!?』
「はい……手はず通りに……はい……欲望のままに……」
『や、やばい!? 会話が終わる!? に、逃げなきゃ!?』
ジムは振り返り走ろうとした時、空き箱に足を取られ音を出してしまう。
それと同時に向けられたフロウの凄まじい殺気が奥から感じられた。
『な、なんだよこの殺気!? や、やばい!? しくじった!? ここで戦うか!? 序列3位のフロウと!? い、いや……か、勝てない!?』
ジムはフロウの凄まじい殺気に当てられ勝ち目が無いと悟る。
そして、フロウは曲り角へ向けて急いで走る。
『誰かに会話を聞かれた……殺さなくては……』
そして、フロウが曲り角を曲がったその時だった。
「なに!? 誰もいない?」
小さな微風が空き箱を揺らし、そこには誰も居なかった。
『……気のせいだったか……とりあえずロキに気づかれる前に急いで戻るとしよう』
フロウは宴の席へと足を向け、そして数刻遅れてジムが上から落下する。
「いでっ!? つつつつつ……なんとか出来た……」
ジムは咄嗟に足に掛けていた風魔法で突風を起こし、上空へと飛んでいた。
「これで空飛べたら良いんだけど、まだ難しいんだよな……でも、とりあえずやり過ごせた……」
ジムは平静を装い宴の席へと戻る。
席に座ると隣にはもう既にフロウがいた。
そして、フロウはジムに話しかける。
「ジム殿?」
「あ、はい?」
「随分と長いお花つみでしたな?」
その言葉にジムは驚きを必死で隠す。
「っ!? いや……実は……」
『 き、気づかれたか?』
ジムは焦りを必死で抑え込み、何食わぬ顔で言葉を続ける。
「気づいたら女性の方でお花を摘みに行っていて……自分でもびっくりしました!! 人の気配が無くなるのをずっと待っていたんです!」
「そうでしたか! しかし、ジム殿の美形なら女性と間違えても不思議ではないでしょう」
「や、やめてください! 僕はこれでもちゃんと女の子を好きな男の子なんですから!」
『 こいつ……確認してきたのか?』
「あはは! やはりジム殿も雄ですな!」
「あはは……」
宴は無事に終わりプロキオン国の3人を見送った後にジムはみんなに相談する。
「ねぇ! みんな! 聞いて欲しい!」
帰る道中のジムからの突然の声かけに全員は疑問を浮かべ、その中でキリオが聞く。
「どした? ジム?」
「実は……宴の途中ーー」
何が危険なのかわからない為、ジムはありのまま話した。
狙いはこの中の誰かなのか。
アルデバランの上層部なのか。
プロキオン国の中だけの話なのか。
ジムは全員が身の安全さえ守れる警戒心だけでも伝えたかった。
「フロウさんが? そんなわけないだろ? あのロキさんやゼドの友人だぞ? ありえないだろ」
しかし、キリオからは思いもよらない言葉が返ってくる。
そして、それに続きプロンが言う。
「プロキオン国とアルデバラン国は絶対の協定で結ばれているわ……心配いらないはずよ?」
続けてペテルが言う。
「もし、プロキオンが裏切ってもアルデバランは負けることはないですよ」
そして、シリスは爪楊枝で歯を掃除しながら言う。
「もし仮にあたし達の誰かだった場合、理由が存在しない! だって今日が全員初対面だぞ?」
シリスは言葉を続ける。
「プロキオン国はアルデバランの恩恵を受けてる。裏切ることは考えにくい。ならプロキオン国内部の話だ。それにあたし達が口を出す必要がない」
全員から間違いない言葉が返ってくる中でそれでもジムは納得は出来なかった。
「僕もそうだと思います! でも何かあってからじゃ遅いんですよ!!」
ジムは必死に呼びかける。
「ジム? 私はジムを信じる」
そう言葉を掛けてくれたのはアンカー・ベガだった。
「ありがとう……」
納得のいかないジムを見てプロンは言う。
「プロキオン国はまだ数日滞在してから帰国するわ。今直ぐに事は起こらないはずよ」
「はい」
『 それもそうか……もしかしたら僕の聞き間違いの可能性も捨てきれない……とりあえず不安は伝えた……ここのメンバーなら殺される心配はないし……様子を見るか……』
そして、数刻の日々が流れる。
毎日の授業を終えて放課後を使い、キリオはシリスに剛鉄乃処女を教わり、ジムはプロンに暗聖級魔法を教わり、アンカーはペテルに力が無くなった時用に聖級治癒魔法を教わっていた。
「よし! 合わせるぞ?」
キリオはジムとアンカーにそう声をかける。
3人は放課後を使い、いつもの練習場で冬のトライアングル連携技を初めて合わせようとしていた。
そして、キリオはジムに確認する。
「無詠唱じゃないんだよな?」
「そうなんだよね。暗聖級魔法は無詠唱で出来なかった」
「なら、ジムの詠唱が始まったのを見て俺が錬成し、アンが踏み込む所まで真似してみようか」
「わかった! アン! 準備いい!?」
数十メートル離れたアンカーにジムは合図を送る。
「じゃ……始めるよ? キリオタイミングちゃんと合わせてよね!」
「初合わせなんだ! 大目に見てくれよ?」
ジムは笑顔を返し、詠唱を始める。
「……我は応える。神の紡ぐ意志、届け詠嘆、受ける感慨、光り及ぶ我は謳う、対し陰り処に郷愁を、風に神癒、水に命脈、灯火に祝福、雷雨得て弔意する。我、比喩を言霊にて語らんーー」
ジムが詠唱を始め、キリオは頃合いを見て地面を力一杯に殴る。
「来い!! 剛鉄乃処女!!」
キリオが突き立てた拳から青い雷光が走り、地面から聖母マリアを象った剛鉄の器物が作り上げられる。
その中、ジムの詠唱は続く。
「……傲慢に恭謙を、憤怒に鞏固を、怠惰に精励を、嫉妬に慈愛を、暴食に中庸を、強欲に慈善を、色欲に純潔を、克己至りたまえ! 我の名はジム・デネブ!! 天の戒律を此処に示し!! 生彩戒現! 冥界乃監獄!! 」
アイアンメイデンが創り上げられたと同時に床一面に紫色に発光する魔法陣が広がった。
しかし。
「ジム! ズレてるよ! やり直し!」
アンカーから指示が飛び、その瞬間崩れるようにキリオとジム膝を着く。
「ぶはぁ!? きっつ!?」
「魔力の消費が……半端ないよ」
弱音を吐く2人にアンカーが近寄り言う。
「何? 2人共もうバテたの?」
挑発するアンカーにキリオは言葉を返す。
「バカ! お前! これはまだコツが掴めてねぇんだよ!」
ジムも続けて言う。
「なんか……歌う時に歌い方が間違ってるそんな感じ……」
「あ! わかる! 腹からじゃなく喉で声出して痛めてる感じ!」
「そう! それ!」
その分かりづらい例えでアンカーは理解した。
「2人共……絞りができてない」
「絞り?」
キリオは目が点になる。
今までは膨大な魔力の余り、キリオもジムもただ使用すればなんとかなっていた。
しかし、今は難易度が高い課題に無駄に魔力を送り込み、飽和状態になっていたのだった。
「例えばホースでお花に水をあげる時、その場所から遠くのお花に水をあげるにはどうする?」
アンカーは問題形式でジムとキリオに質問する。
そして、その問いでジムは理解した。
「なるほど!! そう言うことか!」
「おい! ジム教えろ!」
「言い方ね! 気をつけてよね!」
「いいから! はよ!」
「アンがしてくれたホースの説明が1番しっくりくるかも! 要するに僕達は遠くのお花に水をあげるのにホースの先端を窄めればいいのに窄めないで大元の水道を全開に出してる状態なんだよ! 水道は少しで良いんだ! 先端、つまり魔力を押し出す出入り口を小さくすればいい!! 少量で尚且つ、威力も上がる!!」
「おお! なるほど!!」
その後、度重なる回数の末に連携技は漸く完成し、キリオとジムは崩れるように倒れる。
「もう無理!!」
「もう限界だぁ……」
魔力を使いすぎ、疲労から2人の体は悲鳴をあげている。
「2人共お疲れ様……凄く上出来」
アンカーのその言葉にジムとキリオは顔を見合わせて微笑んだ。
「そういえば……アンはペテルさんに何を教わったの?」
キリオは疑問に思い仰向けに寝そべりながらそう聞く。
「えへへ……それは内緒」
「めっちゃもったいつけるじゃん」
そんな日々を繰り返し、ジムはこの日、いつも通り起床し、毎朝の日課の紅茶を啜っていた。
『プロキオン国が帰るのは今日か……結局フロウは何も動かなかったな……事件すら起きていない。僕の聞き間違えだったのかな……』
その時、突如としてキリオがジムの部屋の扉を勢い良く開けた。
「ジム!!」
「どうしたのキリオ!? ここ魔法師棟だよ!?」
危機迫る表情でキリオは息を切らし言った。
「アンが!!」
その瞬間、不安がジムの全身を駆け巡った。
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
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