「暴走」
「暴走」
『 し、死ぬ……こ、殺される? に、逃げなきゃ……逃げなきゃ……』
吹き飛び転がる中でゼドは逃げることを選択する。
しかし、既にキリオが瞬間的な移動を見せ転がるゼドを待ち、蹴り上げ、ゼドは宙へと飛ばされる。
『 あぁ……ここで俺は死ぬの……か?』
ゼドはその思いを最後に宙に蹴られたその時点で気を失った。
そして、蹴り上げたキリオはまた凄まじい速度で移動して空中でゼドを待ち、更に蹴り落とす。
凄まじい音を立ててレフェリーの目の前でゼドが地面に埋まった。
「……っ!?」
レフェリーもキリオの殺気に当てられ、自分の仕事を忘れていたが、ゼドの意識が無い事に気づき声を上げる。
「ゼド・カブル戦闘不能! 試合終了!! 終了!! 」
『 な、なんて事だ……錬金術師がこ、これほどの戦いを見せるのか!?』
しかし、キリオは空中で手を後方へと翳し、空気中の窒素を使い爆発を錬成して凄まじい加速する。
地面に埋まる気を失ったゼド目がけて膝蹴りで更に追撃をし、地面はクレーターの様に抉れ、凄まじい攻撃力を物語せる。
その様を見て、試合終了の合図が合ったにも関わらず追撃したキリオにレフェリー、観客、その周りの全てが驚きで静まり返った。
『空気中の0.00005%の水素を確認……錬成を開始』
キリオはゼドに手を翳し、掌に水の球体を作り出した。
『光エネルギーを反射、拡散……』
重低音から高音に達するエネルギー音が辺りを染め、光が増していく。
「お、おい………し、試合は終わったんだぞ?」
レフェリーが恐る恐る声をかけ、止めに入る。
「……。」
しかし、キリオは止めようとはしない。
水の反射で光を乱反射させ、エネルギーを限界まで溜める。
そしてその時、耳が痛くなるほどのエネルギー音が突然消え、辺り一面が真っ白に染まるその瞬間だった。
「ばっ……かやろぉおおお!!!!」
シリスがキリオの顔面を殴り飛ばし、キリオは耐えられず人形の様に吹き飛んだ。
「いっ……てぇ……1発目でこれかよ……」
『 急いでて武装錬金するの忘れてた……』
余りの痛みにシリスは殴った右腕を確認し、肘から折れていた事に気づく。
『強敵の存在を確認……排除へと移ります』
キリオは吹き飛びながらもなんとか体勢を整え、四足歩行の体勢から力一杯に踏み込み、シリスへと反撃する。
「クソ!? 速ぇ!?」
『 武装錬金!? いや!? 間に合わない!? 左手を犠牲に……』
咄嗟に左手で防御をしようと前に出したその時だった。
「冥界乃鎖!!」
シリスの目の前でキリオが衝撃音と共に地面に叩きつけられる。
「申し訳ないけど遅れたわ」
その声を聞き、振り返ればプロンが居た。
「プロン! 助かった!」
『高重力魔法を確認……反転術式を錬成……起動……』
その瞬間、奇怪な音を立てて国師である魔法師プロンの重力魔法をキリオは破る。
「私の魔法を破るとわね……」
しかし、遥か上空からペテルが力一杯に拳を振り下ろす。
その凄まじい破壊力にキリオは地面へと埋まり、その衝撃でフィールドが逆立った。
『強敵3個体を確認……』
キリオは肩の関節を外し、後ろ側に手を伸ばしてペテルの首を掴み締める。
『……うぐッ!? な、なんて力ですの!? 』
キリオに首を締められながらもペテルは勝負に出る。
「 ならッ!! 」
ペテルは歯を食い縛り、凄まじい速さで致命傷を与える拳を何度も何度もキリオに叩き込む。
治癒師に掛けられた命を代替わりまで奪い続ける程の強い呪い。
それを反転術式で得た異常な重量級のパワー。
渾身の一撃をキリオが気絶するまでペテルは何度も殴った。
『私の意識が持つか……キリオ君の意識が持つか……』
しかしその時、一瞬ペテルの意識が飛ぶ。
『ま、まずい……』
キリオはその隙を見逃さなかった。
首をずっと離さなかった手でペテルを投げ飛ばす。
「勝負に負けてしまいましたか……」
「次はあたしだぁ!!」
入れ替えで武装錬金術を終えたシリスがキリオの体勢が整う前に攻撃する。
「蜷局!! 貳連段!!」
上空から回転を加えて踵落としを見舞い、更にもう片方の脚で2連撃を決め、直ぐに距離を取る。
「プロン!! まだか!?」
シリスがプロンの状況を確認する。
「待たせたわね! 今終わったわ!」
プロンは重力魔法を破壊され、ペテルとシリスが繋いでいる間に闇聖級魔法の詠唱を終えていた。
「かますぜぇ!! 錬金術!! 剛鉄乃処女!!」
シリスが地面を殴ったと同時に青い電光が走り、激しい錬成音を轟かせ、聖母マリアを象った大きい器物が完成し、空いた蓋の中からいくつもの鎖がキリオを縛り上げ、引き入れようとする。
「冥界乃監獄!!」
更にプロンが闇聖級魔法を発動する。
地面に紫色に発光する魔法陣が浮かび、アイアンメイデンごと飲み込もうとする。
『隔絶空間を確認……対処へと移ります』
キリオはアイアンメイデンに巻き付く鎖を力一杯に引きちぎり一本ずつ壊していく。
「……く!? っそ……パワー負けする!?」
キリオの余りの力にシリスは歯を食い縛る。
プロンのデスプリズンはプロンが作り出した隔絶された空間への幽閉をする。
飲み込んでしまえば最強ではあるが、飲み込むまで時間がかかる。
その為、飲み込むまでの行動を封じるのがシリスのアイアンメイデンとの連携だった。
しかし、キリオの力にアイアンメイデンの鎖はどんどんと引き千切られていく。
その時、遅れて来たアンカーが加勢に加わろうと動こうとしたが、それをジムが止める。
「行っちゃダメだ……」
「どうして?」
「戦いのレベルが違いすぎる……僕達じゃ足手まといだ」
『 僕達だって今まで遊んできた訳じゃないのに……ここまでレベルが違うのか……』
その時だった。
「だ、だめだ……も、もたない」
シリスのアイアンメイデンの最後の鎖が今まさに引き千切れるその瞬間だった。
「いつも結局……最後は私が押し込む役目ですのね」
気づけばキリオの目の前に拳を力一杯に構えたペテルがいた。
「先程のお返しですの……歯を食いしばってくださいね」
ペテルの踏み込んだ足が余りの力にクレーターを作り、キリオの溝内に渾身の一撃を入れる。
『機能停止、機能停止……自律錬成を強制終了します』
凄まじい衝撃音と共にキリオはシリスのアイアンメイデンの中へと吹き飛び、その勢いでアイアンメイデンの扉が閉まった。
そして、プロンのデスプリズンでそのままゆっくりと沈み消えた。
「ペテル! ナイスタイミング!」
久々の連携にしては良くやれたと喜ぶシリスがペテルにそう言った。
「少しだけ遅れてしまいましたが……なんとか間に合いましたね」
「で? 選手の方は大丈夫だったのか?」
ペテルはキリオとの戦いで投げ飛ばされ、シリスと切り替えた後、ゼドの治療を行っていた。
「ええ……私にかかれば大丈夫でしたが、しかし……」
「しかし?」
「死ぬ寸前でしたよ」
「そうか……改めて2人ともありがとう」
キリオがプロキオン国の選手を殺めず事を終えシリスは安堵し、そしてプロンがシリスに言う。
「事態の報告……私も行ったほうがよろしくて?」
「ああ……済まないが頼む」
「治癒師からも報告を上げれば特に問題はないでしょう。私も同行します」
「本当にすまない」
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
ささいな感想やレビューでもとてもはげみになります!!
それと、もし良かったら厳しい評価でもかまいません!
今後成長していく為にも必要なので是非よろしくお願いします!
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