「冬のトライアングルの茶会」
「冬のトライアングルの茶会」
キリオは1人、錬金術師の教室で自分の体の錬金術式を組み替えていた。
「ゼドの攻略法……まじでどうすっかな……武器の無力化かぁ……」
キリオは錬金術師の教本を片手に自分なりに武装錬金の改良をする。
「ここにアルツを入れて……コバルのセーフティーが働くから少しブースト出来るはずだ……」
しかし、この時キリオは注意事項を見落とす。
そこには「注意……アルツは術式によってセーフティーを無効化してしまう」と記されていた。
「よし! 終わった! 後は何かゼドの剣を壊す方法を……ん? 待てよ? 壊す?」
自分が無力化から壊すと言い間違えたことにヒントを得る。
「確か……教本の最後の方に……あった!」
まだ授業では習ってないページを開く。
「これだ! 反転術式! これならいける!」
錬金術は錬成し、作る事を生業としているがしかし、錬金術師の反転術式は壊す事を意味していた。
「早速この術式も足そう!」
キリオは術式を作り直し終わり、試合会場に向け移動する途中でシリスがいつも使う錬金術師教員室の前を通る。
「黒い鏡? そんな具体的な文献が? それはおかしい話だな……あたし達も読みあされる文献は結構探したはずだ」
その時、シリスの声が聞こえ、誰かと話してるのが伺えた。
「シリスいるのか……なに話してんだろ?」
キリオは扉に耳を当て、こっそり盗み聞きを始める。
「ええ……しかし、ジムが確信のように言っていたわ」
『この声はプロンさんか……』
「でも私達が見逃した可能性も否定できないですね」
『ペテルさんもいるのか……』
「情報の出所が曖昧だが、これでアルフェラッツの遺跡で間違いないとなった事は大きいな」
テーブルには3人分紅茶が用意され、それを囲んで上座に座るシリスがそう言い、プロンが捨てきれない懸念を口にする。
「ええ……ただ、それでも呪いが解けなかった時には……」
その時、プロンの向かいのソファーに座るペテルが笑ってはっきりと言った。
「大丈夫ですよ……その時は私が死ぬだけですから……」
その言葉にシリスが言う。
「それを防ぐ為に頑張って来たし! 弟子達が今も頑張ってんじゃねぇか! まだ諦めんな!」
「……あら? 寿命を減らし、弟子に止められていたあなたがそれを言うのですか?」
「あ……何も言い返せなくなっちった……」
「それにしても、今期の弟子は粒揃いですね」
ペテルの言葉にプロンも同意見を言う。
「本当に……異例の代だわ」
「異世界人が居るぐらいだからな。……にしても、知識が桁違いだ……と思ったら弱いったらありゃしない! 宝の持ち腐れ過ぎてビビったわ!」
余裕を見せるシリスにプロンが言う。
「あら? そんな事言ってて良いのかしら? ウチのジムは水聖最上級魔法の理論を魔法を学ぶ前から理解していたわよ? あの魔力量があればもう出来るのではないかしら?」
「はぁ!? 水聖!? ちょっ、ちょっと待てよ!? プロンがそれを覚えるのにどれほど時間がかかったと思ってんだよ!?」
「ええ……だからあなたはそんなに胡座をかき、侮り続けていて本当に良いのかしら? キリオ君はどうか知らないけど……あなたジムには負けるわよ?」
「おい! この会はあたしの会なのか!? さっきからあたしの心がずっとえぐられているじゃねぇかよ!」
その言葉にペテルが言う。
「シリスが素直じゃないから悪いんじゃないですか? ちなみにですが、私の弟子も今期最強ですよ?」
「アンが!?」
「そうですよ? 孤児院で見つけ家系の情報は残っていなかったですが、魔力量的におそらく何処かの王族級の子孫だと思います。それにシリスにしても弟子を取ったからにはキリオ君に何かを感じだからではないのですか?」
「うぅ……認めたくはないけど、あいつは確かに錬金術を学ぶ為に転移させられたようなそんな感じはする……一つ一つ作る錬度が一々高すぎるんだよなぁ……」
その言葉を最後に沈黙が続く。
そして、沈黙を破ったのはシリスからだった。
「やっぱり……今期……なのか?」
プロンが答える。
「まだ断言はできないわ……けど、そうなる流れができて来てしまっているそんな予感はしているわ。ちなみにシリスの所のディーはなんて?」
「久しく会っていないな。しかし、何か蟲の知らせがあれば来るだろう」
ペテルが溜息を吐き、一言呟く。
「……ヴァルプルギスの夜ですか……なんと悲しい事でしょうか」
更に、ペテルの言葉は続いた。
「シリスは薄々感じていたからこそ無理に寿命まで使い守ろうとしていたのではないですか?」
「やめろ! それ以上言うな! 恥ずかしくなる!」
ペテルにプロンが乗っかる。
「あら? 良いじゃない? あの鬼のシリスがここまで可愛くなったんだから。まるで恋をしている女の子見たいよ?」
「やめろぉぉ!!!!」
シリスは顔を真っ赤にして叫ぶ。
そして、ペテルが話を戻す。
「どちらにしろヴァルプルギスの夜を想定するのであれば治癒師の呪いは確実に私の代で終わらせなければなりません」
その言葉にプロンが頷き、言う。
「ええ……初代錬金術師ノプス・アルタイルと初代魔法師スピカ・デネブの残した言葉……世界が裏返る可能性があるわね」
シリスが口を開く。
「ヴァルプルギスの夜って言っても何もわかんねぇかんな……どう阻止すれば良いのか何をしたら良いのか」
それにプロンが答える。
「ええ……でもだから私達は今期の弟子達にその術を託す事が最重要のはずよ。おそらく今の子達が鍵になってくる」
『ヴァルプルギスの夜? なんかよく聞こえないなぁ……』
キリオが少し扉に寄りかかった時、扉が軋み音が鳴ってしまった。
「誰だ!?」
シリスが人の気配を感じ叫ぶ。
『やっべ!? 武装錬金術!! ここは爆速で逃げる!!』
キリオは速く逃げたいあまりにたまたま脚だけに武装錬金術を施し、凄まじい速さでその場を去る。
その数秒後シリスが扉を開け確認するが、そこには誰も居なかった。
「……おかしいなぁ……誰か居た気がしたんだけどな……」
逃げるキリオはその時、気づく。
「あれ? 部分的武装錬金術って出来たの!? これ負担も軽くなって10分以上持つんじゃ……?」
思いもよらない所でキリオはゼドへの対抗策を思い付いた。
ここまで読んで頂き、本当に嬉しく思います!
「錬金術使いの異世界美容師」は毎週金曜日、夜22時の更新です!
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