「プロキオン国ゼド」
「プロキオン国ゼド」
「キリオ! 待って!!」
「……あ……お、おはよう……ジム……」
キリオは授業の為に広場へ向かう途中でジムに呼び止められた。
「ん? キリオ元気ないね? どしたの?」
「……ふぁ?……あぁ……あれから寝てねぇんだよ……」
「え!? そうなの!? いったい何があったのさ?」
「……実はさぁ……武装錬金術でシリスと揉めてさ……カクカクシカジカ……」
「え!? それ本当!?」
「そうなんだよ……でも結果的に改善できたから良かったんだけどさ……完成もしたし……ただ……」
「ただ?」
「錬成がめっちゃむずいんだよね……」
「錬金術はよくわからないけど両手でパンじゃダメなの?」
「やめろぉぉ!! それやったらマジで終わる!! でも日本での創作物には助けられているのは間違いないな!」
「武装錬金の改善ってようはあのゴム人間の技のギア……」
「やめろぉぉお!! 皆まで言うなぁ!!」
「冗談だって! でもよく炭素が弾力性質になるって知ってたね!」
「炭素は美容業界でわりと使われてるんだよ。 ゴムは無いけど……でもそれで思い出した!」
「え? 炭素が?」
「そう! イオンとか結構いい働きするんだよ! で? ジムの方はどうなの?」
「僕の方は順調だよ!」
「うぁ……うざいわぁ……天才ってうざいわぁ……」
「フフ! キリオからの嫉妬はとても心地がいい!」
「おい! 素直過ぎるだろぉ!!」
そして、ジムが本題に入る。
「そういえば! 今日プロキオンの選ばれた参加者が来る日だね!」
「大会もうすぐだもんな……なんか噂とかないの?」
「これといって……あ! でもプロキオン国はアルデバランと違って多様性に優れてるみたいなんだよね!」
「多様性?」
「アルデバランは一つの職業に対して突き詰めるのが常識だけど、プロキオン国は違うんだよね!」
「どういうこと?」
「例えば、僕みたいな魔法師でも剣術が使えたり、剣士でも低級魔法なら扱えたり、サブ職業がしっかりしてるんだってさ!」
「なんか……新しいな! 先を行ってるって感じするな!」
「僕も考えなかったわけじゃない……でも魔法を知れば知るほど……他の事に手を回す暇がないんだ……だからプロキオン国は凄いと思う」
「まだ可能性があるだけいいじゃん! 俺なんか錬金術師以外皆無だぜ?」
「キリオの前で言う言葉じゃなかったね! ごめん!」
「いいよ! 気にすんなって! 錬金術師だったからこそ美容師ができそうで良かったって思ったんだから!」
「キリオってこっちきてからずっと明るいよね? 落ち込んだりしないの?」
「……考えないようにしてるかな? 正直こっち来る時の状況で自分が生きてるとも思えないんだよね。それと前にさ……置いてきちゃった物たくさんあるって話ししたよね?」
「うん」
「実はさ……結婚の約束した彼女が居てさ……結婚の準備もしてた時だったんだ。でもそれももう日本に戻れるかわらないし……後悔ってよりかは……申し訳ない気持ちでいっぱいかな」
「そっか……変な事聞いてごめんね」
「気にすんなって! いつかは伝えとこうかなって思ってたし! こっちきても悩んでられないぐらい毎日が楽しいからやって行けてる! ジムのお陰でもあるんだから! 感謝してんだぞ!」
「それなら良かった! あ! そしたらさ! プロキオンの参加者をお昼に見に行かない?」
「お!? いいねぇ! いく!」
「ならお昼済ませたら中庭ね! じゃね!」
「おう! じゃな!」
そして、午前の授業を終え、キリオは中庭に着きジムを待つ。
「少し早かったかな……」
その時だった。
「あれ〜ここどこだよ」
プロキオン国の腕章を付けた金髪の青年が迷子になっているところをキリオは見つけた。
『あれ……プロキオン国の予選参加者だろうな……錬金術師の俺が声かけない方がいいか』
キリオはそう思っていた。
「あの〜すいません……みんなと逸れちゃってここどこですか?」
しかし、金髪の青年はキリオに話しかけてきた。
『話しかけてきちゃったよ……この錬金術師の紋章見えないのかな……あんまりめんどくさい事にはなりたくないんだけど……』
「私は錬金術師なのでお話しない方がいいかと思いますよ?」
「え!? まじ!? 錬金術師!? もしかして今回トーナメントに出場する錬金術師!?」
「……え? あ、はい……」
『うわぁ……めっちゃめんどくさそうこいつ……』
「おお! 会ってみたかったんだよ!! なぁ!? あんた名前は!?」
「き、キリオといいます……」
「キリオか! 敬語なんてやめてくれよ!! 俺はゼド! 気軽にゼドって呼んでくれよ!!」
『めっちゃ馴れ馴れしいのだが……』
「あ、あの……そのゼドさんが会ってみたかったとはどう言う意味ですか?」
「だから敬語はやめてくれって! 俺はお前を尊敬してんだ!」
「尊敬?」
「おうよ! 俺はプロキオン国の一般兵だ! 今回のこの予選では名の通った強者が入って当たり前の中で無名の俺達が参戦したんだ! 同じ境遇だろ? そんでもって戦える錬金術師って言うじゃねぇか!? お前本当にすげぇよ!!」
「俺を軽蔑しないのか?」
「なんでそんな事すんだよ! 底辺を知ってて力を示し、上がってく奴はみんなすげぇ! 当たり前だろ!? 俺はそういうのが好きなんだ! 下から成り上がる! そんな物語がさ!」
「……お前みたいなのも居るんだな」
「どう言う意味だよ?」
「なら……尚更だ。俺に話しかかけない方がいい」
「だからなんでだよ!」
その時。
「おお……ここにいやがったか」
声がした方を振り向くとそこにはプロキオン国の腕章をした体格の大きい青年と細身でいかにも高貴な青年の2人が歩いてきた。
「あ! フロウにロキさん! いや〜助かった〜!!」
その時、体格のいい男フロウはゼドの頭に拳骨を入れる。
「いっ……てぇ!!! 何すんだよ!!」
フロウはゼドに目もくれずキリオに謝罪を入れる。
「うちの者が迷惑かけていた様子ですいませんでした」
キリオが言葉を返す。
「い、いえ……どちらかと言えば私が迷惑かけてしまいますので大丈夫です」
「……?」
その言葉にフロウとロキはキリオの服に描かれる錬金術師の紋章に目が入る。
「なるほど……錬金術師だったか」
『ほら始まるぞ……世界からのいじめが……』
キリオは罵声を覚悟して心を固め、次の言葉を待つ。
そして、高貴な印象を持つ青年ロキが口をゆっくり開いた。
「応援している……頑張ってくれ」
「……え?」
想像もしなかった言葉にキリオは驚いた。
「あ、ありがとうございます……」
「では、私たちはこれで失礼する」
そう言ってロキとフロウは背を向ける。
「あの人達は人の中身を見てくれてるのかな?」
更にゼドの話は続いた。
「あの2人は冒険者として荒れてた俺にこの道を教えてくれた。あの二人がいるから今の俺がいる。すげぇ優しくてめっちゃかっけぇ2人なんだよ!! ロキさんもフロウも今回異例出場の錬金術師のあんたに期待してた! お互い頑張ろうぜ!」
「……そうなんだ……」
キリオは少し嬉しかった。
「トーナメントで当たっても手加減しねぇからな!」
「うん……俺も負けられないんで……その時はお手柔らかにたのむよ」
「言ってろ! じゃなぁ!」
ゼドも2人を追いかけ、帰る。
「あんな人達もいるんだな」
その時だった。
「キリオ! ごめん!! お待たせ!」
『そうだ……俺にはコイツもちゃんと居るんだよな』
「おせぇよ! ジム! 何やってんだよ!!」
「プロンさんに捕まっちゃってさぁ!! 本当にごめんって!!」
「構わんよ! 今度奢ってくれたら許してやる!」
「そんなに待ってないでしょ!? ん? キリオなんか良いことでもあったの?」
「ん? 別に! トーナメントが楽しみだなって思ってさ!」
キリオは空を見上げてそう言った。




