「武装錬金術」
「武装錬金術」
「シリス! 入るぞ!」
シリスだけの教員部屋にノックしても返事が無かった為にキリオは勝手に入る。
「なんだよ……留守か……ん?」
キリオは机の上に並ぶ資料が気になり、目を通す。
「す、すげぇ……」
錬金術の基礎、応用、進化、事細かに分析され、まとめられた資料がそこにはあった。
「皆んなの為に頑張ってるんだな……」
シリスの性格上、表面では見えてこない努力を目の当たりにし、嬉しくなった。
「……へぇ……ん? これは……」
資料の1番下に合った古い紙。
「お! 武装錬金術の資料だ!」
キリオは武装錬金の詳細が書かれた資料を見つける。
「どれどれ……武装錬金術とは、体内にある分質を使い防御力、身体能力、力、ステータスを飛躍的に上げる効果がある……しかし……」
キリオは武装錬金術の真実に驚愕した。
「……はぁ? な、なんだよ……こ、これ……」
その時、扉が開いた。
「お? キリオ来てたのか」
そして、帰ってきたシリスにキリオが怒りを交えて言う。
「……おい……シリス……これはどう言うことだよ」
キリオは余りの怒りに手が震えていた。
「……そうか……見たのか……」
キリオの真剣な顔にシリスは困ったように頭を掻く。
「俺に武装錬金を教えなかった理由は……これか?」
「あぁ……まだ改良出来てないからな」
「あんなは……その状態で俺の訓練に付き合ってくれてたのかよ……」
「……はぁ……そうなると思って言わなかった」
その言葉にキリオは我慢の限界を超え怒鳴った。
「ふざけんなっ!! 寿命を縮めてまで何やってんだよっ!!」
キリオが見た資料には武装錬金術で体内の成分を使った錬成時に血流など、臓器の負担、心臓への過度な炎症が発生し、寿命が激的に減ると記述されていた。
「……あたしの命だ……どう使おうがあたしの勝手だ」
「餓鬼見たいな事言ってんじゃねぇよ!! そんなの許されるわけねぇだろぉ!!」
「は? 何様だ? 命を使うのにお前の許可が必要なのか?」
「そういうことじゃねぇ!! 俺が!! あんたを!! 心配だから言ってんだぁ!!」
「……。」
シリスは驚いた。
キリオの怒りによって発せられたその言葉はシリスにとって久しく経験のない優しい言葉だった。
「……まさか……お前に言葉を言われるとはな……」
「こんなの! もうやめてくれ! 俺は! あんたに居なくなってほしくない!!」
「……皆がそうさ……でもこの世界は不条理なんだよ。いや……それが運命と言った方が正しいのか……」
「そんな事言うなよ! そんな寂しい事言うんじゃねぇよぉ!! この世界に来て!! 俺は!! 一番最初に会えたのがあんたで良かったって思ったんだ! シリスだから良かったって思ったんだよ!! そんなあんたが寿命を減らしてまで……そんなのやめてくれよ!!」
「あたしはお前の為に必要だと思ったから使った……お前をこの世界で生かす為にそう決断した……」
「俺にそこまでする必要なんてないだろぉ!!」
「……キリオがあたしを心配するその気持ちと一緒だよ。もう見たくないんだ……目の前で大切な仲間が死んでいくのはな」
シリスは窓を開けに移動しながら言う。
「もっとあたしが側に居てやれば助けられたんじゃないかって……もっとあたしが頑張れば救えたんじゃないかって……本当は出来る事がたくさんあったはずなのに……」
キリオの知らないその横顔でシリスは遠くを見つめ思い出しながら言う。
「それをしてこなかったことに後悔するんだ……だから…他の命を助ける為にあたしは……あたしの命を賭けて皆んなを守るんだ」
そして、シリスはキリオに向き直り、キリオの目を見てはっきりと言う。
「お前はあたしの過去の悲しみを知らない」
「……くそ……」
キリオ自身も気付かされた。
キリオの願いも、シリスの思いも間違ってはいない。
相手への強い思いが感情を昂らせ、自分自身の自己思想を訴え、強い思いがそうさせていたと同時に、キリオはシリスが武装錬金術を使うことを辞めないと悟り、辞めさせられないと理解した。
わかってあげられない号哭なる悲しい気持ち、報われることのない後悔の日々、シリスがどれだけ苦しかったのか、キリオは理解してあげられないことに悔しさを覚える。
「……俺の気持ちだけは……わかってはくれてるのか……?」
「十分に理解してる……しかし、私がお前を守るのに力は惜しまない」
「……わかってんのか? シリスが死んだら俺が今のシリスと同じ思いを背負うんだぞ……」
「それもわかっている……でも今までずっと後悔してきたんだ……その気持ちもわかるだろ?」
「……ちっ……わかってる……」
譲れない思いと、納得出来ない心にしばらく沈黙が続く。
「……。」
「……。」
そして、その沈黙に耐えきれずシリスは言った。
「今日はもう帰ってくれ……」
「……あぁ……わかった……」
キリオは悔しさを噛み締め、その場を離れようと移動した時、机の資料の束に手を引っ掛け散らばらせてしまう。
「何やってんだよ! 締まらねぇなぁ! 片付けろ!」
「うるせぇ!! わかってるよ!!」
その時、キリオは広い上げた資料に目が止まる。
「……じ、人体錬成……の文献……?」
「あ? あぁ……それは初代錬金術師ノプスの文献だ。武装錬金の改良に使えると思ってな。禁忌だからやるんじゃねぇぞ」
その文献には……
酸素65.0%、炭素18.0%、水素10.0%、窒素3.0%、カルシウム1.5%、リン1.0%、少量元素0.9%、微量元素0.6%
平均的な大人の体には、水(酸素と水素)が約50kg、炭素が約18kg、カルシウムが数kg、窒素とリンが少し、そして鉄が含まれると記載されており、人体を構成している元素の割合がまとめられていた。
「……な、なぁ? 今の武装錬金の内容を教えてくれないか?」
キリオは人間を構成する元素記号を見て何かを感じ取りシリスにそう聞いた。
「は? お前にわかるわけないだろ?」
「いいから!! 早く!!」
キリオの緊迫した状況に驚きつつもシリスは説明する。
「授業でやろうと思ってたが……今最初から説明してやるよ」
シリスは説明を始めた。
「今までの錬金術は鉱物で錬成を行なって来た。そして、授業ではそれを応用し、鉱物の中にある元素記号を識別して錬成する事をやった」
実際にシリスは棚から鉄の鉱物を取り出し、鉄だけを使い剣に錬成してみせる。
「この時、私達は鉱物の中にある鉄の成分Feに干渉し、戒現化、又は操作している……ようは元素の錬成なんだ」
そして、キリオに自分の右手を見せて言う。
「人間の体の中にもヘモグロビンの鉄……Feの元素が存在する。私は鉄に干渉し、錬金術で体の表面の硬化で防御力を上げ、血中の循環操作で身体能力、パワーを飛躍的に上げる事に成功した。しかし、お前が読んだ資料通り、体内の負荷がそれに耐えられない。これが武装錬金の真実だ」
キリオはそれを聞いて人体錬成の文献に必死に目を通す。
『過度な負荷……何かその負荷を無くす方法があるんじゃ無いのか? 血液の循環……人体の内臓が耐えられない……って事は? それに耐えられる物に変える事ができれば……耐えられる素材……ゴムなら!?
キリオは資料に必死に目を通す。
『この人体を構成する元素の中でそれが可能な元素は……』
「……!?」
キリオは数少ない知識の中でそれを見つけた。
「あった! これだ!! これならいけるかもしれない!!」
「は? 何があったんだ?」
「武装錬金術師のデメリットを無くす元素が体の中には存在する!! これだよ! 炭素だ!!」
「炭素?」
「炭素は多様性に優れている! 負荷がかかる部位を炭素で弾力性質に変えることが出来れば!! デメリットは無くなる!!」
シリスは余りの驚きに呆気に取られて言う。
「……な、なんてことだよ……あたしが見つけられなかったこの問題をお前が解決しちまったのかよ……」
「いける! 絶対いける! 後は錬成式さえ上手く組み込めれば武装錬金術は完成する!!」
「……はは……アッハハ!! すげぇぞ! キリオ!! 大発見じゃねぇかよ!! よくそんな事思いついたな!!」
「へへ! 俺の故郷で炭素はかなり使われてるんだ!」
『ゴム人間の漫画からとは流石に言えない』
「早速錬成式を作るぞ! キリオ手伝え!!」
「わかった! あと! どうせなら炭素をもっと使って武装錬金を強化しよう!」
「そんなことが可能なのか?」
「魔力を媒介に使えばいけるはずだ! カーボンって言ってダイヤより硬くする事も出来ると思う!」
「やべぇ……楽しくなってきやがった!! キリオ! そこの紙取ってくれ!」
「わかった!」
気づけば次の日の朝日が上り、武装錬金術は完成した。




