「アルデバラン予選」
「アルデバラン予選」
予選当日。
大会出場希望者はアルデバラン国近くの平地に集められた。
「……かなり人がいるな」
そこには10000人程の色んな職業の群れ上がる戦闘員が居た。
「しかし……まさか俺だけとは……」
ミィナ、ウィルは後方支援を希望した為に、予選には参加せず、ジムとアンは五大選使候補として大会参加が既に決まっていた。
「……さ、寂しい……」
そんなキリオを横目に周りでは声が上がっていた。
「おい……錬金術師がいるぞ?」
「待てよ! あれ、守護士のウェン様に勝った錬金術師じゃないか?」
「はぁ? 錬金術師が!? ありえねぇだろぉ?」
「模擬戦見てないのかよ!?」
「信じられるはずがないだろ!? ここに錬金術師がいるだけでもおかしいんだぞ?」
全ての錬金術師は後方支援を希望していた為に、ここにいる錬金術師はキリオだけだった。
「……はぁ……寂しい……」
その時、唐突に後ろから肩をぶつけられた。
「邪魔だ……クソ錬金術師……どけよ……」
キリオが振り向くと腕に自信がありそうな大きい体格の男がいた。
周りでは驚きの声が上がる。
「おい……あれ……冒険者のガダイじゃないのか!?」
「ソロ冒険者の強者……あのガダイか!?」
「おいおいマジかよ……ガダイが予選にいるのかよ?」
キリオはガダイに道を譲り、頭を下げた。
「あ……す、すいません」
「お前がここにいるだけで不愉快だ……次見かけたら殺す」
そう言って大男は去っていく。
「……だんだん……これも耐え難くなってきたな……」
その時だった。
「良くぞここへ集まってくれた!! まず! 感謝をする!! 私の名はアイン・アルデバラン!! 今回君たちを審査する者だ!!」
前方を見ると魔法師と聖騎士の小隊が整列し、予選参加者を待っていた。
「……アイン・アルデバランって……現五大選使の聖騎士英雄の「ルナト・アルデバラン」の所属する部隊「輝きのトーラス」の副隊長じゃねぇかよ!? 予選の審査で副隊長が出てくんのかよ!?」
魔法で音声拡張されたそのアイン・アルデバランの声は10000人に良く聞こえ、アイン・アルデバランの名前を聞き、驚くものが後をたたなかった。
そして、アインの話は続く。
「ここへ集まってくれた理由はそれぞれあるだろう! 名を上げたい者や、力試し、賞金、そして職業として! 皆ももう知っていると思うが戦争が始まる! この予選で勝ち抜き、更にプロキオンとのトーナメント大会で上位の成績を収めたものは前線に出ることになる! 今は腕の立つ者達が必要だ! この予選で私が見込んだ者を私の下につけてもいい!!」
その言葉に驚きの声が上がる。
「マジかよ……アイン様の下に入れてもらえたら……人生安泰だぜぇ……」
「モチベ上がってきた」
「あの英雄のトーラスの隊に入れるのかよ……」
アインの掛け声で全員のモチベーションが上がっていた。
「では! 今回の予選の内容を発表する!」
その瞬間、全員が静まり返る。
内容は一切明かされていない。
この場で乱戦すらあり得た。
各々が周囲を警戒し、構え、今にも飛びかかる準備をし、チームを組む者、円状に固まる者、背中を預けあう者など数多くの動きが見れた。
「内容は……」
そして、アインの次の言葉まで皆が喉を鳴らす。
「……鬼ごっこだ!!」
その瞬間、全員が拍子抜けする。
「はぁ? お、鬼ごっこ?」
「……鬼ごっこって……タッチされたら負けって言う子供の頃の遊びだよな?」
「え? ふざけてんのか?」
そして、アインが説明する。
「今から魔法師によりマーカーをつける!!」
10000人の周囲に等間隔で魔法師が配置につき、詠唱を唱え、10000人を覆う巨大な魔法陣がに出現した。
「審査はこの魔法陣の中のみの範囲とし、鬼に触られた者や、外に出された者は全て失格と見なす! そして、鬼に触れられた者は魔法により円の外側に移動させられる! 最後の15人まで生き残った者が予選通過とする!! 更に! 鬼の担当は………私達だ!!」
そこにはアインの横一列に並ぶアインを含めて5名の輝きのトーラス隊が居た。
それをみて参加者はまた驚く。
「な!? なんだと!? あれは「輝きのトーラス隊」2番隊から5番隊の隊長達だぞ!?」
「強者には間違いねぇが……鬼ごっこって事は……に、逃げれば……い、いいのか?」
「よしよし!戦わなくていいならまだ俺たちにも可能性があるかも知れない!」
「トーラス隊に入れるなんて夢のようだ!」
「鬼ごっこなら余裕も余裕だな! 嬉しい予選だこれは!」
10000人の参加者が、並んだトーラス隊の隊長に驚き、そして内容に甘んじたその時だった。
「以上を持って開始とする!!」
その瞬間、アインを含めたトーラス隊5人の姿が一瞬にして消えた。
「え? は、始まったのか!?」
急な開始の合図に困惑する参加者達。
しかし、結果は一瞬の出来事だった。
「に、逃げなきゃ……え?」
気づいた時には100人ほどの参加者は魔法陣の外に立っていた。
「…は!? な……な、何が起きたんだ?」
彼らが瞼を閉じた瞬間にはもう失格になっていた。
「う、嘘だろ……」
参加者がいる魔法陣の方に目をやると凄まじい速さでトーラス隊の5人は人混みを駆け巡り、一瞬にして参加者の体に触れ、瞬く間に失格にしていく。
「な、なにが……お、鬼ごっこだよ……」
そして、失格になった者は気づく。
もし今が戦争だった場合、自分達は今の一瞬で死んでいたのだと理解した。
「うぉぉぉぉぉ!!!!!」
その時、鋭い雄叫びを上げ、大剣を振り上げた男がいた。
それはソロ冒険者ガダイだった。
誰も居ない目の前の場所に大剣を力一杯振り下ろしたその時だった。
剣と剣が衝突した甲高い凄まじい音が辺りに響き渡る。
「へぇ……合わせられたか……」
気づけばガダイの目の前に剣で対峙するトーラス隊副隊長のアインがいた。
そして、ガダイはアインに向かって言う。
「鬼ごっことは随分と性格が悪いことを言ってくれるじゃねぇかぁ!? 普通そう言われた者は逃げを選択する! しかし! ようは戦って自分の身を守れってことだろ?」
「気付く者が出てくると思っていたよ! 君は筋がいい! 兵士はルールの中で決められた動きをする! 戦略に合わせた行動をする事で戦況を変える! しかし!いざ乱戦となってしまった場合、自分自身で考え行動しなければならない! アルデバラン国は兵士はいるが個性が少ない物でね君みたいな者を探していた所だ!」
その時、ガダイの力に押し負け、アインは後方へと体を受け流し、退避する。
その流れから後方で逃げていた参加者の体へと触れ、ガダイの攻撃を回避しながら次々に参加者を失格にし、その場を戦いやすい場へと変えていく。
「逃げんな! 戦いなら、ここの戦場は10000対5だ!」
その言葉を聞き、参加者は理解し、剣を取り攻撃に転じ始めた。
「これはなかなか……状況を見極め、自ら注目を仰ぎ、戦況を変えようとするとは……君はいいね!」
「なら俺をトーラス隊に入れることだな!!」
アインとガダイが激戦を繰り広げていたその時、近くで異様な驚きの声が上がっていた。
「この騒ぎ……もう一つのルールに気づいた者が現れたかな?」
「なんだと?」
2人は意識をそちらへ向け、謎を目にした。
「な……に!?」
ガダイは驚いた。
それは錬金術師のキリオがトーラス隊5番隊隊長を魔法陣の外に押し出した後だった。
「……あ、やべ……これ……や、やっちまった?」
キリオは5番隊隊長との激戦で思わず魔法陣の外に退場させてしまった。
それを見てガダイが気付いた。
「そうか! お前ら審査員も退場が適応されているのか!!」
「ご名答!! にしてもあの錬金術師……面白いな! 君とはまた後で遊びたいな! それまで生き残ってることを願うよ!」
「なんだと!?」
アインはその言葉を言い終えたその時、ガダイに反撃に出る。
アインの凄まじい速さの斬撃にガダイは防戦するのがやっとの状態だった。
最後のフィニッシュでガダイは後方へと吹き飛ばされ、なんとか耐え抜いたが、すでに目の前にアインの姿はなかった。
「……本気じゃなかったってわけか……くそ……」
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