「志しを同じくする者」
「志を同じくする者」
夜の自主訓練の時間。
キリオとミィナは特訓に励んでいた。
「我、理に触れ、主たる根源に至りし魔を拝頂し、そして、今ここに我の名を持って戒現せよ! 燃尽時雨!!」
ミィナの後方上空に炎の弾が生成され、雨の様に降り注ぎ、キリオを襲う。
キリオは弾道を予測し、回避し、更に床から壁を錬成し、切り抜けミィナに向かって行く。
キリオはミィナに対魔法師戦闘用の特訓を手伝ってもらっていた。
そして。
「はい! 俺の勝ち!」
キリオは炎の雨を全て切り抜け、ミィナの喉元に鋏剣を突き付けた。
ミィナは両手を上げて降参を宣言する。
「ま、参りました。」
キリオは鋏剣を分解しお礼を言う。
「ミィナ付き合ってくれてありがとう。」
「はぁ……キリオ様は強すぎますぅ」
「ミィナにそう言ってもらえると安心するけどな!
でもまだまだ頑張らないと!」
「プロン様から聞きました……大変なことになってますね」
「ミィナは大会上位トップ10に入れって言われた?」
「いえ……私ではまだ無理だろうと言うことでおそらく後方支援程度かと」
「うん! 俺もミィナが後方のほうが安心かな!」
「……。」
ミィナは顔を赤らめて俯いた。
「ん? ミィナ? 大丈夫?」
「あ!? いえ! だ、大丈夫です!!」
「そう……」
「キリオ! これ教えて!」
その時、訓練場の隅で1人自主練習をしていたウィルが声を上げる。
「なに? どれ?」
「これ見て……上手く鉄だけを錬成できないんだ。どうしても混合しちゃって……」
「本当だ……ちょっと錬成術式見して?」
ウィルは言われるがまま右腕に描いた術式を見せる。
「あ……ここ! オームが足りてないよ!」
「え? 基礎術式にはここにオームじゃなくてバノが必要なはずだよ!?」
「そこにバノを入れるとここのデュモが一緒に発動しちゃうだよねぇ……オームだと非結合式を組み立ててくれるよ!」
「そうなの!? なるほど! え? でもその場合……術者の負担も大きいよね?」
「まぁね! でも慣れるとオームの方が楽になるよ!」
「そっかぁ……わかった! やってみる!」
その時だった。
「お待たせ!!」
扉が開き、ジムが現れた。
「お! 来たか!」
そして、ジムが後ろを振り返り言う。
「さぁ! 入って!」
現れたのはアンカー・ベガだった。
「治癒師アンカー・ベガです」
その時、ウィルが驚いた。
「え!? アンカー・ベガって……五大選使候補って言われてる……あのアンカー・ベガさん!?」
「よろしくお願いします。アンと呼んでくれればいい」
「ジム君といい、アンさんといい……たかが錬金術師のキリオの周りはいったいどうなってるの!?」
キリオも疑問に思う。
「……確かに! どうなってんだ?」
「……はぁ……キリオのその性格には驚かされるよ」
「そんなに褒めんなって!」
「……一言もそんなこと言ってないよ」
「よし! みんな集まったし! 早速特訓しよう! あ! でもそういえば! 俺大会の事を何も知らないけど誰か詳しくおしえてくれないかな?」
ジムが答える。
「そうだろうと思ってちゃんと調べてきたよ」
「さすがジム!」
「まず、今回の相手は東の同盟国プロキオン国と対戦する。単純に考えてトップ10はアルデバラン国とプロキオン国の五大選使候補で埋まるはずだ」
「……やっぱり強いのか?」
「だって全員プロキオン国五大選使の弟子達だからね……ただ向こうの治癒師は大会に出ない。アルデバランの治癒師が特別なだけで戦闘には不向きだからね」
「そうだよな……で試合形式は?」
「人数が多すぎるから自国で予選があるみたい……その予選で20人まで絞られてプロキオン国とトーナメントになるってプロンが言ってた」
「なるほどね。計40人って事は20人ずつでAとBのトーナメントになるわけか。ジムとアンカー・ベガとは同じブロックになりたくはないな」
「でも上位10位以内だからそれ以内に入っていれば手助けはできると思う」
「たしかに! ギリギリ10位を目指すのが妥当か」
「そうなるね」
その時、アンカーが口を開いた。
「ジム? この錬金術師……錬金術師のくせに随分と偉そう……なんで?」
「あはは!! そうだね! 偉そうだよね!」
その言葉にジムは笑い、説明する。
「多分だけど、キリオは僕より強いって言ったらどうする?」
「え? 五大選使候補と言われるジムより錬金術師が強い? とても信じ難い……」
キリオが口を開く。
「ジム! 流石にそれは言い過ぎだ!」
「ステータスの部分では間違いなく僕よりキリオだと思ってる! けど……戦術や地形によっては負けない自信はある!」
「上げて落としてきたな? でもそうだな……俺には遠距離攻撃はないし、圧倒的に経験が不足してる……だから尚更そこを訓練したいんだよな……」
そして、アンカーが言う。
「ジムにそこまで言わせる錬金術師……一度お相手願いたい」
「お! 俺もアンカー・ベガに特訓つけてもらいたいな!」
「わかった」
アンカーとキリオは定位置まで移動する。
「……。」
『治癒師アンカー・ベガ……どんな闘い方をするんだ? 検討もつかねぇ……ここは後手からの様子見だな』
キリオは構え、その時を待つ。
「もう初めてもいいの?」
「来いよ」
その瞬間だった。
アンカーが一瞬にして消え、気づいた時にはキリオの目の前で拳を振り上げていた。
「はやっ!?」
キリオは体を退け反らせ、間一髪で回避する。
その時、先程キリオが立っていた床がアンカーの拳によって凄まじい衝撃音を発して粉砕する。
「うぉ!?」
『はぁ!? 超重量級パワータイプ!? 異世界お決まりの治癒師のおしとやか柔らか系が無いじゃんかよ!!』
あまりの近接パワータイプにキリオは驚いた。
キリオはそのまま後方へと距離を取ろうと足に力を入れる。
『いや待て! アルナ戦の時に後方へ逃げて結局捕まった……今は隙だらけだ! ならっ!!』
キリオは逆にアンカーへ向けて力一杯に足を踏み込み、一瞬で距離を詰める。
『両手は錬成用に空けておく……初撃は足蹴り!!』
空中で体を翻し、アンカーへ右脚蹴りを繰り出す。
しかし、アンカーはそれを防御する。
『流石に反応も早い……でも! 叩き込む!!』
そのままキリオは二撃目、三撃目と蹴りを入れる。
だが、アンカーはそれを全て防御し、反撃に出る。
キリオは体勢を整え、防御し、隙を伺い、反撃に出る。
両者共に格闘技の読み合いの激しい攻防が繰り広げられていた。
「……。」
「ウィル? 口が開いたままだよ?」
2人の激戦にウィルは空いた口が塞がらず、ジムがそれを教えてあげていた。
「……! こ、こんなの見せられたら口も開いちゃうよ!!」
「あはは……だろうね! 僕もアンがここまで出来るとは思ってなかった」
「実はキリオから聞いたんだ……この力呪いなんでしょ?」
「僕もそう聞いてる」
「なんで呪われたらこんなに強いわけ?」
「どうやらね……治癒師は研究を重ねるに連れて呪いの反転術式を作ったみたいなんだ」
「反転?」
「そう……呪いの力を消す事はできなかった……でも減りゆく寿命を代償に呪いを力に変えたんだ」
「……そうか! 命はこの世界で1番想いし重い物だ! それの代償となると……」
「……それは凄まじい力と変わる。プロキオン国や他の国でも治癒師は治癒師らしく回復に長けた者達だが、アルデバランの治癒師が最強と言われているのは呪いを代償とした力があるからだ」
「ならジム君達がやろうとしてる事は……」
「アルデバランの均衡を壊す事かもしれない。けど……生きてていい命が消える事の方が僕は許せない……それに……」
「……それに?」
「アンを……放っておけなくて……」
ウィルは微笑み、そして、言う。
「……そういうの……僕も好きだよ」
「……うん……ありがとう」
そして、キリオとアンカーの戦いは変わらず激戦を繰り広げていた。
『くそ! 埒が明かない! 何か突破口を開かなきゃ! ……ん?』
その時、キリオはアンカーの表情に疲れが見えるのに気づいた。
『これはチャンスかもしれない!』
キリオは連撃からのフニッシュでアンカーを敢えて外し、一度床を粉砕して隙を作り、距離を取る。
「逃がさない!!」
アンカーは距離を取られないようにキリオを追撃しようとする。
しかし、気づけば目の前に壁が錬成される。
「く……」
だが、その瞬間でキリオは木刀を錬成し、脇へ移動して不意を打とうと抜ける。
『疲れが出てるアンカーをここで打つ! これいい線いってんじゃねぇか?』
しかし、壁を抜けて目の前に居たアンカーは緑の光に包まれ全回復した状態でキリオの行動を読み、拳を振り上げ待ち構えていた。
「え!?」
『やべ!? こいつ治癒師なのを忘れてた!?』
キリオは瞬時に腕をクロスさせて防御を取る。
「これでおわり」
力を一杯に拳に乗せ、アンカーはキリオに一撃を放つ。
凄まじい衝撃音を轟かせ、キリオは吹き飛び、壁に衝突する。
「勝負あり!」
ジムが闘いを見極め、声を上げる。
「勝者………無し!! 引き分け!!」
そのジムの言葉にアンカーは驚いた。
「何がどうしてそうなった?」
ジムがアンカーの後ろを指さし、アンカーはゆっくり振り返る。
「……なるほど」
そこには床が錬成され、氷柱の様な形をした鋭利な棘の先が振り返ったアンカーの喉元を捉えていた。
「いててて……なんとか出来た……てかぁ! 今の俺じゃなかったら死んでるからなぁ!」
戻ってきたキリオにミィナとウィルが聞く。
「キリオ様? いつあの錬成をされたのですか?」
「そうだよ! 吹っ飛ぶ時に錬成なんてしてなかったよね!?」
更にジムが言う。
「キリオ……これ……性格悪いよ?」
「フフフ! 実は密かに練習してたんだ! でもまさか……使うハメになるとは思ってなかったよ」
そして、アンカーが口を開いた。
「……なるほど。壁を錬成した時か……してやられた。あの時点で私は負けていたのか」
「錬金術を2個同時に錬成することをやってみたんだけど……複雑な物とかはまだ出来ないんだよね」
その言葉にウィルが驚き納得する。
「……確かに! 今までは錬成陣に対して一つのものを作るのに精一杯だから考えもつかなかった……ても! 錬成陣が体に施された事によってもっと複数の更には範囲的な錬金術が可能になるのか!」
「そう言うこと! さっきの錬金術式をオームに変えるとこんな事もできる! 更にこれを応用にもっと色んなことができると思うんだよね!」
ジムが口を開く。
「キリオも必殺技を考案中?」
「そう言うジムも?」
「まぁね!」
「どんなのだよ!」
「教えたら必殺にならないじゃん!」
「たしかに!」
そして、アンカーが口を開く。
「ジムの言う通りだった。この錬金術師は別格だとわかった……改めて私をアンと呼んでくれていい」
アンカーから差し出された手をキリオは握り言う。
「これからよろしくアン」
「よろしく」




