「懶神からの手」
「懶神からの手」
キリオは部屋へ戻り、ウィルから借りていた本を手に取りベッドに腰掛け、読んでいた。
「これ面白いな……7つの堕天した悪魔か……傲慢、憤怒、怠惰、嫉妬、暴食、強欲、色欲か」
キリオは日本でも聞いた事ある話に面白さを感じていた。
「良く聞く七つの大罪ってやつか! 確か……宗教の犯してはならない罪だったか? ここの世界では元々天使なんだな……」
その時、部屋のドアからノック音が鳴る。
「キリオ? ジムだけど入っていいかな?」
「どうぞ!」
ジムはキリオの部屋に入り、キリオが座るベットの向かいにある椅子に腰掛け、口を開いた。
「……今さっきプロンから聞いた」
「……今日俺もシリスから聞いた」
「実はさ……プロンに呼び出される前に、あの花園でアンカー・ベガと直接会ってきたんだ」
「……どうだった?」
ジムは拳を握り言う。
「……泣いてた……助けてって……」
「そうか……苦しんでいたんだな……」
「うん……キリオ? 僕は彼女を助けたい……だから協力してほしいんだ」
「勿論だ! なら何か他の手がかりを探さないとな! 忙しくなるな!」
「キリオ……ありがとう」
「ジムには異世界来てからずっと助けてもらってる! お前の頼みなら俺は手伝うよ!」
「うん……本当にありがとう」
「……今、居ても立っても居られないんじゃないのか? どうする? これから図書館いくか?」
「うん!」
2人は図書館へ向かい虱潰しに文献を漁る。
西国のアルフェラッツにある遺跡の事。
呪いの多種多様な解除方法。
呪いの歴史。
ミラクの歴史。
黒魔術の文献。
今考えられるもの全てを調べた。
「くそっ!! これだけ探して何も核心に迫る内容を探し出せない!!」
痺れを切らしたジムが悔しさのあまりに机を叩いてそう言った。
「ジム……まだ時間はある。今は集中力が切れただけだまた明日探そうぜ」
「……そ、そうだよね」
「焦る気持ちもわかる……けど遺跡に行ったとして本当に解除が可能か定かじゃない。だからこうして探してるんだろ? なら足を止めるな。明日また諦めずに探そう。まだ目を通してない文献はたくさんあるんだから」
「……うん……」
「今日はもう終わりにしようか。明日は俺の特訓に付き合ってくれ! 対魔法師の戦闘をもっと想定したい」
「うん……わかった」
「じゃ……あんま気を詰め過ぎんなよ」
ジムは帰るキリオの背を見送り、自分も自室へと戻り疲れた体をベッドへと預けた。
「……助けたい……助けてあげたい……何か、もっと核心的な情報が欲しい……な……」
ジムはそのまま寝た事にも気づかず、気が付いた時には真っ白な空間に居た。
「……ここは……」
「やぁ! やぁ! やぁ! ジム君!」
後ろから声をかけられて振り返る。
そこにはジムと同じ様相をした懶神が居た。
「随分と久しぶりじゃないか……これで現れるのは2回目だね」
「前回の情報は役に立っただろ?」
「助けてくれたのは感謝している。でもまだ僕は君を信用していない」
懶神はミィナを助ける前日に突如としてジムの夢に現れ、その時、キリオの身に危険が来るとだけ告げていた。
「わかってるわかってるわかってる!」
「それで? 今回は何をしに来たんだ?」
「いやいやいやいやいや! お困りの様子だったからね!? ついついつい出て来ちゃったわけなのよ!!」
「……随分と都合がいい話だね」
「ん? ん? ん? ん? そうかな? そう見える? そう見えるならそれはきっと勘違いだよ!!」
「……前回といい今回といい……君はいったいなんなのさ」
「言ったじゃないか! 僕は神だよ!? まだまだまだひよっこだけどねぇ! 神が人を助けるのは当然だろぉ?」
「その神様がなんで僕に干渉してくるのさ」
「それそれそれそれ! それなのよ! 君が歩む道の先々で危ないことがあるからさぁ!!」
「それは僕以外にだって居るだろ?」
「いやいやいや! それは違うよ! 君にも危ないし!僕にも危ないからさ!!」
「どう言う事?」
「それは・ひ・み・つ!!」
「別に構わないけど」
「おいおいおい! つれないじゃぁないかぁ!?」
「君は怪しすぎる」
「まだ信用してないのか? 僕がここに来たってことは命に危険があるから来たんだよ?」
「ん? どう言う事?」
「教えてもいい……けど! 前向きに僕の協力をしてくれる事を考えてもらいたいのさぁ!!」
「協力?」
「ジム君もハッピー! 僕もハッピー!! それが僕には見えてる! どう? 悪い話じゃない! 協力してくれれば契約をしないで危機を回避できる! デメリットはない! 間違いない話しじゃないかぁ!!」
「話がうますぎる」
「そうだねぇ! 今回の危機を僕が回避して僕の協力をしてもらう! 僕とジム君がウィンウィンになった時には契約を交わすのはどうだろぉ?!」
「君と契約したとして僕にどんなメリットがあるんだ?」
「危機を回避できる!」
「他には?」
「他にかぁ……ちょっと待ってねぇ……」
懶神は自分のこめかみに人差し指を突き刺し脳をかき混ぜるように考える。
「……んー……この先々でジム君の出来事……これは……違うなぁ……こうなったら……こうなって……ん……」
「何をしているの?」
「ん? 今? あ! これの事? 世界線の計算だよ?」
「世界線?」
「パラレルワールドって知ってる?」
「僕が知るパラレルワールドと懶神が言うパラレルワールドがあってるのかは知らないけど、その言葉は知っている」
「例えばで簡単に説明すると! 今の世界は僕とジム君が出会った世界! でも懶神と出会わなかったジム君の世界もあるかもしれない! ってかあるんだけどさ! 他にだと……曲がり角を右に曲がるジム君の世界と左に曲がったジム君の世界で一つだった世界が二つに別れた世界の数々の事だよぉ!」
「合ってる」
「まぁ! 他にも宇宙規模で考えると! この地球が存在する銀河系のさらにもう一つの銀河系の地球の世界とかもあるんだけどさぁ! 正夢も違う世界線のとリンクした時の現象なんだよ!!」
「……宇宙の向こう側?」
「お? この話は食いつくんだ?」
「いや……やっぱりいい」
「そう? あ! これなんかどうだろぉ!?」
「なに?」
「最強な激レア装備なんてどうかな?」
「レア装備?」
「そうそうそうそう! この世界で4つしか存在しない結晶を使った装備! ほら! ジム君は魔法師でしょ? 杖なんかあったいいんじゃないかなぁ!? この先々で必ず必要になるものだし! 後で取りに行くのも先に取りに行くのも同じだよ!!」
「……それはいつ手に入る?」
「そうだなぁ……んーと……最短で……学園を卒業してからかな?」
「……チッ……戦争までに間に合わないのか……」
「あぁ! 大丈夫大丈夫! 戦争はアルデバランが勝てるから! その装備なしでも余裕よ!」
「なんでそんな事言えるんだよ」
「他の世界線の統計をとっても9割は勝つよ! ここの世界はその9割で最も色が濃い世界だから大丈夫!! でもだからこそ9割の確率で君が救いたいアンカー・ベガは死じゃうんだけどねぇ!」
「……え? 今……なんて言った?」
懶神の思いもよらない一言にジムは驚き聞き返す。
「この世界ではアンカー・ベガは死ぬんだよ!」
「な……なんだって……」
ジムは驚きを隠せなかった。
しかし同時に懶神の現れた理由も理解する。
「……なるほど……今までの会話が意味無くなったな」
『懶神……初めから協力する事をわかって……』
「いやいやいやいや! 必要だったよ!! 君は必ず僕に協力をしてくれると思ってた! でも! そこに信用は無い! だからこそ! 信用に至る物を伝えたかった!」
そして、ジムは不気味に笑い言う。
「……僕はアンカー・ベガを救えるのなら悪魔にだって手を貸すよ」
「君ならそう言ってくれると思ってた!」
「それで? どうすればアンを救うことが出来るの?」
「そうそうそう! それ! 実はさぁ! ミラク国のアルフェラッツ都市の遺跡は邪神教徒の遺跡なんだ! そこの神は悪い奴でさぁ!! 呪いの権化見たいな者なんだよ! だからその神がこの世界に干渉する事が出来ないように祭壇の鏡を壊してもらいたいんだよね!!」
「悪い神とかはどうでもいい……それでアンの呪いが解けるの?」
「もちろんもちろんもちろん!!」
「嘘の可能性は?」
「もちろん無いよ!? それを破壊してくれればアンカー・ベガちゃんの呪いは解けるように懶神が取り計らうから!」
そして、ジムは懶神の目的はわからないが、懶神が嫌がる事だけは理解できた。
「……もし……アンが死んだら……僕も死ぬから」
「おいおいおいおい! どうしてだい!?」
「やっぱりその様子だと僕が死ぬと懶神にとっては不都合なだね?」
「ああ! なるほど! 保険だね!? そうだね! まだジム君には手伝ってもらいたいことが沢山あるんだ! 死なれたら困るよ!!」
「なら交渉成立だね」
「じゃぁじゃぁじゃぁ! 全てが丸く収まったら改めて懶神と契約成立だね!」
「わかった……それで? 次はいつ現れるの?」
「そうそうそうそう! そこなんだよね!! 毎回会えるわけじゃ無いんだ! 今この世界では懶神の力は弱まってしまっているんだよねぇ! でもそのミラク国のアルフェラッツにある遺跡の黒い鏡!! 黒鏡を破壊してくれればもっとジム君に協力が出来るよぉ! その呪いの神の力が懶神を妨げる神なんだ! だから協力しておくれよぉ!」
「わかった……僕はアンの呪いが解除されればなんでもいい」
「うんうんうん! なら契約成立だね! 詳しい内容を今教えるよ!」
その瞬間だった。
ジムは懶神の余りの速さに身動きすら取れず、気づいた時にはただ驚く事しか出来なかった。
「……え?……」
懶神はジムの額に人差し指を突き刺し、ぐるぐるとかき混ぜていた。
「……な、何を!?」
「ちょっとじっとしててね!」
「……!?」
その時、急にジムの頭の中に映像が流れてくる。
それはアルフェラッツ遺跡の中の黒鏡までの道だった。
「道は覚えたかい? そう難しくないはずだよ!」
「わ、わかった……」
「うんうんうん! 無事にジム君が黒鏡を破壊してくれたら僕はアンカー・ベガの呪いの解除を行うね! 直ぐにって訳じゃないからそこだけ了承しておいてねぇ!」
「約束は守ってよね……出ないと僕は死ぬから……」
「わかったわかったわかった! 任せてよ!! あ! そろそろ時間だね!! じゃぁ!! 頑張ってねぇ!!」
ジムが夢から覚めた時、カーテンから朝日の光芒が差し込み、今日が始まった事を知らせていた。
「……これで……アンを助けることが出来る……」
ジムは決意と共に拳を握った。




