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錬金術使いの異世界美容師  作者: 伽藍 瑠為
2章「過去編」
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「冬のトライアングル」

「冬のトライアングル」






キリオはシリスに解放され、ウィルの部屋のドアをノックした。



「……はいって……い、いいよ………」



中から元気の無いウィルの声が聞こえ、キリオは扉を開ける。



「大分疲れてんな」



ベットに満身創痍でぐったりと寝てるウィルを見てキリオはそう言った。



「ごめんキリオ……今日は疲れた……このままで許して」


「あんだけしごかれればそうなるわな」


「うん……でも、僕は今期の生徒で良かったと思ったよ」


「ん? どうして?」


「錬金術の先生の中でも、僕達にあんなに一生懸命になってくれる人ってなかなか居ないからね」


「……そうなんだ」


「でもシリスさんはあんなにも真っ直ぐに僕達に教えてくれた……横暴な様で、でもとても優しい言葉だった。僕も含め、皆んな嬉しかったんじゃないかな?」



それを聞いてキリオも改めて思った。

もし転移先がシリスの居た場所じゃなかったら。

もし荒れ果てた荒野に一人だったら。

助けもなく、右も左もわからない状況だったら。

色んな事を思うとキリオはシリスに感謝の気持ちが湧いた。



「確かに……俺もシリスで良かったって思うかな」



その時、ウィルが口を開く。



「あ! そうだ! 呪いの文献の本はそこにあるから持ってっていいよ!」


「お! ありがとう! 借りて行くわ!」



部屋を出て、ジムが待つ図書館へとウィルの本を読みながら向かう。



「この本わかりやすいな……魔法、契約、怨念の三つでちゃんと分けられてる……なるほど……」




その時だった。



「いて!?」

「あら……」



キリオは本に夢中で前方から来た誰かに気付かず、ぶつかったことで転び、本を落とす。



「す、すいません! 俺! 本に夢中になり過ぎてて……」



目の前には白金の様な髪色に頭に乗せた大きいリボン、小柄で身長も低い白の洋服を着た女の子がニコニコと微笑みを向け立って居た。



「いえいえ……私もごめんなさいですわ」


『……え? 俺この女の子に押し負けたのか?』



女の子はキリオの落とした本を拾い上げ、キリオに向け差し出し言った。



「呪いにご興味が?」


「え? あぁ……ええ……友達が調べてましてお手伝いを……」


「そうなんですわねぇ! でもあまりいい物ではないですわよ! では失礼」



そう言って元気に振る舞う女の子はその場を立ち去っていった。



「……いったい何者なんだよ」



キリオは疑問を抱きつつもジムが待つ図書館へと向かう。



「ジムお疲れ様!」



机に向かい本を漁るジムの後ろ姿を見つけてキリオは声をかける。



「……。」


「ん? ジム?」



顔を覗き込むとジムは座ったまま寝ていた。



「これは……プロンさんに相当そうとうしごかれたな?」



しばらくそのままにしておこうとキリオはウィルから借りた本を読む。



『魔法でかけられた呪いは魔法で解除が可能……魔法の術式をみ解き、反転術式をか……契約の場合は契約者、又は契約をほどこした一族の長など権限を与えられている者との審判しんぱん。先祖からの契約なども存在する。怨念は命を代価としたちから命と引き換えに解除が可能か……なるほど勉強にはなるけど……』



その時だった。



「ふぁ? あ、キリオ……来てたんだ……おはよう」



伸びをしながらジムはそう言った。



「ジムのくせにうたた寝か?」


「え? 言い方酷くない?」


「嘘だよ! プロンさんの訓練の疲れか?」


「あぁ……それもあるけど魔眼の練習で夜更かし」


「あぁ……なるほどね……で? 成果は?」


「へへ! なんと! わりと使える様になったんだよね!」


「おお! 凄いじゃん!!」


「で? キリオの方は?」


「実はさ! ウィルが本の蟲でさ! 呪いのわかりやすい文献借りて来た! ここ見て!」


「呪いは大きく分けて三つか……なるほど、これで僕が魔眼でもっと詳細を見れれば何かわかるなぁ……次は接触してみるか……明日にでも声かけようかな」


「それはそうと! なんでジムはアンカー・ベガにこだわるんだ?」


「え!? あ……うん……ほ、ほっとけないというか……」



ジムには珍しい反応にキリオはニヤついた。



「ほほう? わかるぞジム君! 言いたい事はとてもわかるぞ! うんうん!」


「はぁ!? 何言ってんのさ!? まだ何も言ってないだろぉ!?」


「そうやって取り乱した時点でわかりやすいんだよ!」


「くそ! キリオのくせに!!」


「お!? なんだその言い方は!?」


「キリオが言うな!!」


「はぁ!? やるか!?」


「おぉ!? 僕に勝てると思ってるのか!?」


「……くく……」


「……ハハ……いつまでこれ続けるのさ……」


「ごめんって! ジムにしては珍しい反応だったから楽しくてさ!」


「僕もそう思う……へへ……」


「気になっちゃんたんでしょ?」


「……うん……あの時、アンカー・ベガを見た時さ……思い出したんだ。日本むかしの悩んでた頃の僕の目に似てるって……隠しているけど、本当は辛いと思うんだよね」


「それもう好きなんでしょ?」


「……否定はできないかな。でも今はまだわからない……ただ、何か僕に出来ることがあるならって思って」


「……そっか! もちろん俺は応援するよ!」


「ありがとう」


「あ!! それよりさ! 俺ここに来る前に女の子にあったんだけどさ! かくかくしかじか!」


「え!? キリオが押し負けた!? なにそれ!?」


「女の子にだよ!? 小柄で金髪で頭に大きいリボンつけた子!!」


「ん? 頭にリボン? あ! それ五大選使ごだいせんし治癒師の「ペテル・ベガ」さんだよ!?」


「ん? 誰それ?」


「治癒師アンカー・ベガの師匠だよ! 治癒師なのにバリバリの武闘派で戦うヒーラーって言われてるんだ!」


「それ反則じゃね!?」


「だから五大選使なんだよ!」


「でも、なんでそんな人が錬金術師の塔に居たんだよ?」


「シリスさんから聞いてないの?」


「何を?」


「シリスさんプロンさんぺテルさんは冬のトライアングルって言われてるんだよ!?」


「なにそれダサくね?」


「いや! 内容聞いたらダサさなんて消えるから!」


「話てみて」


「その昔の冬、まだ今のメンバーが五大選使には入ってなかった頃。敵国との戦争で、この国アルデバランは2つの国から同時に責められた。そして、その当時の五大選使がそれを迎え撃ち、その隙に五大選使候補として名を挙げていた現五大選使達が敵国に乗り込む作戦だったんだ……」



ジムはその時の歴史が記された本を取り出し、話を続けた。



「その中でも北国は猛威を振るっていた為、北国へは聖騎士パラディン剣士ナイト守護士ガーディアンの部隊が向かい、南国へは魔法師ウィザード治癒師ヒーラーの部隊が向かったんだ」



ジムはアルデバラン国周辺の地図を見せてわかりやすく持っていた硬貨でキリオに説明する。



「南国はこの時、牽制けんせいさえすればそれで良かった。魔法師と治癒師だけで攻撃部隊が少なかったからね……でも、南国はアルデバラン国が攻めてくるのにそなえ、更に南方の国と手を結び、兵力を集めていたんだ」


「え? それやばいじゃん!」


「うん……それは最早、北国と変わらない兵力……いや、それ以上の兵力になっていたんだ」


「そこに向かったのがプロンさんとペテルさんの部隊だろ!? 勝ち目ないじゃん!」


「だから凄いんだよ! その戦いでプロン、ぺテル、そこにはキリオの師匠のシリスもいたんだ。そして3人を筆頭に大活躍し、南方部隊はその一国を滅したんだ」


「はぁ!? 3人で一国を滅ぼした!?」


「正確には3人の部隊でだけどね! でも3人の余りにも凄まじい闘い方、壮絶な力は見る者を圧倒しそして呼ばれた……冬のトライアングルと……」


「……。」



キリオはいつの間にかジムの話にのめり込み息を呑み、ジムは話を続ける。



「少なからず……兵はいたと思うけど、最も前線で戦い、勝利に至る結果を取ったのはこの3人の功績がかなり大きかったって話だよ」


「……要するにあの3人が動けば一国が無くなるってことと変わらないじゃんかよ!」


「だから凄いって言ってる!」


「……でも……その戦い……」


「もちろん多くの犠牲者が出た激戦だったって」


「……そうか……」




その話を聞き、先程のシリスの重い言葉がキリオの頭を過ぎる。




「強くないと……守りたい物も護れないか……」


「どうしたの? キリオ?」



「うん……少し、強くなれる様に頑張ってみようかなって」


「お!? いいじゃん! ちょうど来月に大会あるし!」


「……はい? え? ちょ、ちょっと待って? 今なんて言った?」


「ん? 大会だよ?」


「なんの?」


「他学園との」


「はぁ!?」






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