「シリスの思い」
「シリスの思い」
「はーい! お終いにするぞー! 全員集合!」
息を切らし、肩を上下に揺らす生徒達は集合した。
生徒を確認してシリスは言葉を続ける。
「皆んなに考えてもらえたと思う! あたしが何故! 錬金術に必要のない動きながらの錬成をさせているのか! 何故! 今まで必要も無かった錬成陣をわざわざ体へ書き込み皆んなにこんな事をさせているのか! あたしは…」
シリスは想いを、感情を乗せて言葉を放つ。
「あたしは! ここにいる皆んなに生き残ってもらいたい!! 運命で錬金術師なってしまったなんて言うのは簡単だ! そう思うことで諦めてきた者も多いだろう! だからこそ! 生きる術を! 生き残る術を! あたしは今期! この場に居る生徒に教えて行く!」
シリスは力強く言葉を放つ。
「だからきつい事を言う! 弱音をあげる事は許さない! 諦めも絶対に許さない! それがお前らの生に繋がるなら! 無様でいい! 足掻き! そして喪がけ! あたしはただ! ここに居る皆んなに生き残って欲しいからだ! あたしは今期のこのメンバー全員を「闘える錬金術師」にする!!」
その言葉にキリオは納得した。
『通りで自分やシリスの様な同じベースの錬金術師がいないわけだ。最初の実験が俺だったって事か』
キリオは理解した。
何故、今までの基礎的な、常識的な錬金術を知らないのか。
周りと比べて錬金術への考え方が違うのか。
キリオはただ闇雲に訓練されていたわけでは無かった。
シリスは錬金術を生存させる為ではなく、錬金術師を生存させる為に考え、組み上げていたのだ。
『まぁ……戦えない者を戦える様にするって大変だろうな』
その日、シリスの想いが生徒に届き、生徒達は疲弊しながらも基礎訓練を乗り切った。
「よし! 今日は以上で終了とする! 明日も厳しい1日となる! しっかり休んでおけ!!」
生徒達に紛れてキリオが帰ろうとした時だった。
「キリオは待て!」
「へ!?」
キリオは呼び止められると思っておらず、シリスに首を掴まれ、変な声が出てしまった。
「な、なんだよ! 終わりじゃねぇのかよ!」
「お前はまだ元気だろうが!」
「いや! たまには休みぐらいくれや!!」
「あたしを超えたらな! いつもの組手やるぞ!!」
そう言いながらシリスはキリオを引きずり、広場の定位置まで移動する。
学園に入る前に日課としてやっていた組手。
キリオは一度としてシリスに勝てた事がなかった。
「ちょっ! 待てよ! 勝手に決めるなよ! この後、ウィルのとこ行ってジムと会わなきゃ何ねぇんだよ!!」
「大丈夫! プロンも同じことやってるから間に合うよ!! じゃー早速始めるぞ!!」
そう言ってシリスは指を鳴らし、自分の身体に錬金術を施す。
「武装錬金術」
武装錬金術とは。
体内にあるあらゆる成分(鉄、タンパク質など)を使い錬成し、防御、攻撃力、身体能力を向上させる錬成術である。
シリスの皮膚に錬成陣が発光し、体を光が淡く包み消える。
そして、シリスはキリオを等間隔の位置へ投げ飛ばした。
「こらぁ! 人を投げ飛ば……」
キリオの体勢が整う前にシリスは既に距離を一瞬で詰め寄り、殴りかかっていた。
「どわぁ!?」
キリオはシリスの拳を間一髪で避ける。
しかし、先程キリオがいた地面はシリスが殴った事で凄まじい衝撃音を放ち、抉れ、大きいクレーターを作った。
「バカバカバカ!!! いきなり死ぬって!!」
「ほら! 早く体勢整えないと本当に死ぬぞ!!」
間一髪で逃げるキリオにシリスは追撃を続ける。
「くそ!! まずは隙を作らないと!」
キリオは逃げながら地面に触れて錬金術で壁を数枚作る。
「そんなもん! 武装錬金術使ってるあたしにくらわねぇよ!!」
1枚、2枚、3枚とキリオが作った石の壁を拳で粉砕していくシリス。
しかし、4枚目を破壊した時、シリスはキリオを見失った。
「ほぉ? やるじゃん……でも……」
更にシリスは指を鳴らし、体全体にまわしていた武装錬金術を右手の拳に集中させる。
「どうせ地面だろ!?」
シリスは地面を力一杯に殴った。
先程とは比べ物にならい破壊力で地面が抉れ、クレーターを作り、亀裂まで入る。
「残念! 上だよ!!」
気づけばキリオはシリスの上空にいた。
「これでも喰らえ!!」
シリスが地面を凄まじく殴って舞い上がった岩をキリオは蹴り散らかしながら錬金術を使用し、鋭利の形に変えてシリスへと飛ばす。
「へぇ! 面白いじゃんかよ!! しかし!!」
シリスは飛んでくる岩を全て粉砕していく。
「空中はダメだとあれ程言っただろうがぁ!!」
シリスは錬金術を地面に使い、キリオの落ちてくる真下に蟻地獄を作った。
「やべ!? 間に合わなかった!?」
キリオはシリスが岩に気を取られてる間に地面に着地できる計算だった。
しかし、空中に舞った岩の数、跳躍したキリオのジャンプ力、全ての誤算でキリオは見事にシリスの作った蟻地獄に落ち、首だけを残し、身動きが取れなくなる。
「はい! またあたしの勝ち!!」
「くっそ! 俺にも早くその武装錬金術教えろよ!」
「だめに決まってんだろぉ? あたしは武装錬金術使って要約お前と互角なんだからお前が使ったら訓練にならんだろ? キリオは戦術、知恵、発想であたしに勝たなきゃ意味がない!」
「俺は戦闘なんて今までやって来なかったんだ! このぐらい出来ていればそれで十分だろうが!」
その言葉を聞き、シリスは真面目な顔になって言った。
「……キリオ? その考えがだめなんだ……そう思ってた奴らは全員死んだんだ……」
「……え?」
「……あたしは今まで何人の死を見送ってきたと思ってる? 皆んなあたしの前からいなくなっちまった……」
「シ、シリス?」
「キリオの居た世界と違ってこの世界では何でもない事で命が消えていく……今もどこかで刻々と命が消えて逝くんだ……伝えたい言葉も伝えられず、別れの言葉も言えず、気づけば全てを失っている」
稀に見ない真剣なシリスにキリオは黙って聞く。
「力無き者が大切な物を守るには護る力が必要なんだ……あたしがどれだけ後悔して来たと思う? どれだけ涙を流し続けたと思う? あたしはキリオを弟子にした責任がある……あたしはもう後悔したくない……お前にも後悔を背負って欲しくない」
少なからず、生徒たちの前ではシリスが真面目なのは理解していた。
しかし、今まで見た事が無い二人しかいないこの場所でこれほど真剣なシリスにキリオは改めて驚いた。
「ご、ごめん……軽率な発言だった……わ、悪かったよ」
「わかってくれればいいんだ」
シリスは蟻地獄に首だけで埋まるキリオに手を差し伸べた。
「あ、ありが……って!! 手出せねぇよ!! 早くこれを解除しろよ!!!」
「あ! ごめん! 忘れてた!」
最後まで締まらないシリスにキリオは安堵も感じた。




