「全力で目指す敗北」
「全力で目指す敗北」
「両者!! 前へ!!」
兜を被り、全身をしっかりと武装したアルナがキリオの前に立つ。
『よしよし……大当たりのアルナ様には簡単に見逃してもらうとしよう』
キリオはジムから聞いた、「アルナなら見逃してくれるよ!」の言葉を信じ、余裕を持って臨む。
その時。
「始め!!!!」
審判からの号令がかかった瞬間だった。
キリオは再び場外へ向け走ろうとした。
しかし、気づけば凄まじい速さでアルナに目の前まで詰められていた。
「え!? は、はやっ!?」
アルナは腰に下げる剣をそのまま振り抜き、キリオはそれを間一髪で避けることができた。
『おいおいおいおいおい!? 話が全然ちげぇじゃねぇかよ!!!!!!』
キリオはそのまま大きく後方へと距離を取ろうと逃げるがしかし、アルナはそれを読み、ビッタリ張り付いて二撃、三撃と剣を振るう。
『くそ! 実力物本過ぎ!? このままだと絶対痛いじゃんかよ!!』
アルナの攻撃をキリオは寸前で交わしてゆく。
会場ではアルナの攻撃を交わすことが出来ているキリオに驚きの声が上がっていた。
しかし。
『やべ!? ま、間に合わない!?』
アルナの四撃目でキリオは避けきれなかった。
その瞬間、激しい音が鳴り響いた。
「あっぶねぇ……」
キリオは間一髪の所で地面から鋏の形をした剣、「鋏剣」を錬成し、避けきれなかった四撃目を鋏剣で受け止めた。
その瞬間にアルナは後方へと逃げ、距離をとる。
『一旦引いてくれたのは有難いんだけど、ジムのやろう話が全然ちげぇんだが?! おそらくアルナはこの鋏剣の形に何か仕掛けがあると思って退避したな? この隙に場外まで走る!!』
キリオは後ろ側へ逃げるのではなく、アルナを警戒しつつ横へと走った。
しかし、平行してアルナもキリオに着いてくる。
『やっぱりアルナ様はなんとしてでも場外を阻止しようとしてんな? ならフェイントぐらいなら俺にだって出来る!!』
キリオはその瞬間、アルナに向かって鋏剣を構え、トップスピードで走り、詰め寄った。
アルナもキリオを迎え打とうと止まり、剣を構える。
『残念!!』
しかし、キリオはその瞬間に横へと飛び、また場外へと走り出した。
『なに!?』
だが、キリオのその考えは読まれ、目の間には凄まじい速さで移動したアルナがいた。
そして、大きく振りかぶるアルナにキリオは止まれず、鋏剣を盾にするが、アルナの重い斬撃にキリオは後方へと転がりながら吹き飛んだ。
『やばい!? 追撃がくる!?』
キリオは転がると同時にアルナと自分の間に壁を何個も錬成した。
しかし、壁を作ったことでキリオ自身もアルナの姿を捉えられない。
『今のうちに横に!』
一歩足を踏み出した時にはもう目の前にアルナが居た。
『くそ!?』
アルナの振り払われる斬撃にキリオは鋏剣でなんとか応戦する。
『なんだよこの力!? 一撃一撃が重すぎる!?』
キリオは応戦するも、アルナの一撃を耐えるので精一杯だった。
『見えてるのに!? 力負けする?!』
そして、キリオはアルナの剣に気を取られすぎていた。
その為に、キリオは腹の溝内に蹴りを貰い、倒れ込んだ。
「ぐほぉっ……」
その出来た隙でアルナは剣を振りかぶった。
しかし。
「く……始めからこうしておけばよかった……」
キリオがそう呟いた時にアルナも謎に気づいた。
キリオは持っていた鋏剣の成分の鉄を分解、そして錬成し直し、アルナの足の鎧と地面を溶接させていた。
そして、アルナが気付いた時にはもうキリオは場外へ向け走っていた。
「よっしゃ!! 俺の勝ち!!」
キリオの目と鼻の先はもうフィールドの外だった。
しかし、後ろから鎧の音がし振り返る。
「はぁ!? な、なんで!?」
『足枷をどうやって突破したんだよ!?』
すぐ後ろにはアルナが居た。
キリオを掴み引きあげようとアルナは手を伸ばす。
キリオは掴させない為に全力で走る。
『いけるか!? いや! いける!』
キリオは場外手前でヘッドスライディングの様に飛んだ。
そして、地面に手をつけた瞬間に錬金術を使用し、アルナの足元に落とし穴を錬成する。
見事にアルナはキリオの作った落とし穴にハマり、後もう少しのところでキリオを逃してしまった。
キリオはそのまま場外へと逃げ切り、余りの嬉しさにガッツポーズをとった。
「よっ……しゃぁっ!!!!!」
やっと思いで手に入れた勝利だった。
「勝者! アルナ・アルデバラン!!!!!」
勝敗が決まり、キリオとアルナの勝負が見甲斐ある物だった為に会場が沸き立った。
そして、審判員の宣言を聞きキリオは改めて我に返る。
『あ……そうだ! 俺、全力で負けを目指してたんだった……ガッツポーズとか取っちゃったよ!? 恥ずかしい!?』
キリオは恥ずかしさの余り逃げ出し、アルナもその場を無言で立ち去った。
「どうだった?」
アルナを出入り口で待っていたのはエル・アルデバランだった。
「……。」
「なんだと!? 御前より強いだと!? そんなバカなことが?!!」
「……。」
「確かにウェンも錬金術師に負けたが……あれは……」
「……。」
「本気ではなかっただと!? 今!! 御前相手に彼は本気では無かったと言ったのか!?」
「……。」
「なんてことだ……それが本当なら誰も信じる事は出来ない……」
「……。」
「あぁ……御前の言う通りこの事は伏せておかねば……バランスが崩れてしまうな……」
丁度その頃。
キリオはジム、ミィナ、ウィルの所へと帰ってきた。
「キリオお疲れ!! ねぇ!? さっきの剣何!? それにあのデザインは!? ねぇ!? なんなのさ!?」
帰ってきて早々にウィルがキリオに聞く。
「あぁ……俺の知識不足でね……まだちゃんとした剣は作れないんだ。だから俺の錬成度が1番高い鋏をそのまま剣のサイズに変える事で剣を作ったって事!」
「なるほど!!」
次にミィナが言葉をかける。
「キリオ様お疲れ様でした」
「お!? ミィナ! どうだった?」
「ジム先輩が教えてくれた重力魔法で相手様を抑え、私が場外へ降りることで解決しました」
「それは……随分複雑な気持ちのやつ……」
「そうですか? 私は全然気にしてないですよ?」
「あなたじゃなくて、相手側がだよ」
更にジムが不気味に笑い言葉をかける。
「負けたのに何カッコよくガッツポーズ決めたの?」
「やめろ! 自分でも恥ずかしいんだから!」
「まぁ……でもあれは試合に負けて勝負には勝ったって所だね!」
「いいこと言うなぁ!」
その時、ジムは口に手を当てふと呟いた。
「でも意外だったな……アルナがあんなに力入れてくるなんて」
「おい! そうだよ! 誰だよ! アルナ様が大当たりとか言ったのはよ!?」
「いや……ここは冗談なしに不思議なんだよな……今度聞いてみようかな」
「そうしてくれ! まじで死ぬかと思ったわ!」
無事に戦闘試験は終わりを迎え、最後まで勝ち抜いたのはやはりアルナ・アルデバランであった。




