「模擬戦」
「模擬戦」
入学する生徒達が職業順に学園の大広間に並び、キリオはジムとミィナと離れることとなり、その中、学園長の挨拶が行われていた。
「この度は、お集まり頂き栄誉ある事と、沢山の名誉ある師の御弟子様方がこんなにも集って頂けた事、誠に感謝しております。しかし、この場に相応しくない錬金術師も居ますが、皆様どうか楽しい学園生活を送って頂きたいと思っております。そして、この後に皆様の実力を把握する為に模擬戦を設けております。教師の指示の元、移動をお願いします。」
それを聞いてキリオが驚いた。
『はぁ!? 模擬戦!? 聞いてないぞぉ!?』
キリオは背後にいる少年、違う街から来た錬金術の生徒に話しかけた。
「なぁ? 模擬戦って何やるの?」
しかし、その少年は物凄い慌てぶりで最大限に声の音量を下げてキリオに耳打ちした。
「いや! あ! ちょっ、まずいって!! 校長が話してるのに僕達錬金術師が喋ったら殺されるって!!」
「あぁ……ごめんごめん。で? 何やるの?」
キリオも合わせて小声で喋る。
「え? 知らないの? なんで知らないで来たのさ?」
「いや……師匠が教えてくれなくてよ」
「そんな無責任な師匠なの? それで錬金術師って君も災難だね」
「んで? 試験て?」
「職業対抗の1対1の模擬戦だよ!」
「げ!? ガチ戦闘!?」
「そうだよ! 毎回、恒例なんだ! 錬金術師を使って行う見せ物みたいなもんだよ!」
「あぁ……なるほど。やっぱり……この世界腐ってんな」
「バカ! 誰が聞いてるかわからないんだよ!? そんなこと言わないでよ!!」
「やべ! つい本音が出ちまった! ちなみにその戦闘試験って勝ったらまずいよね?」
「何言ってんの!? 僕達錬金術師が勝てるはずもないじゃないか!? 錬金術師は武器作りや、修理、ただの何でも屋の量産されてるだけの雑用係だよ!? 1番戦闘に不向きの職業だよ!? 本当に何も知らないで入ってきたの!?」
「え? 錬金術師って戦わないの!?」
「戦えるわけないじゃん!? 錬金術は戦争の時に壁や、地形を作り、戦場を有利にしたり、一般兵の武器を量産したり、ただこき使われるだけの職業だよ!?」
「なんだよそれ」
『俺が今までやらされてた修行はなんだったんだ?』
「君、本当に錬金術師なの? その無責任な師匠って誰なの?」
「シリス・アルタイルだけど?」
「はぁ!? 錬金術師でもトップクラスのあのシリスさんの弟子!? 弟子は取らないって噂を聞いたけど!?」
「そうなのか? 俺まだこの世界……」
『あ……異世界人ってことはちゃんと隠さなきゃな……』
キリオは改めて言い直した。
「……いや、シリスに適性があるって言われて錬金術師になったからまだ良くわからなくて」
「そうなんだ! シリスさんが目をつける錬金術師としての素質……気になる……君、名前は?」
「キリオ……キリオ・アルタイル」
「僕はウィル! ウィル・アルシャイン」
「よろしく」
「よろしくキリオ!」
そして、全生徒が学園の闘技場へと移動し、模擬戦は始まった。
武器を使う者は加工された安全性のある武器を用意される。
そして場外、又は戦闘不能と判断された時に模擬戦を終了する物だった。
しかし、模擬戦は見るに耐えないものだった。
「……錬金術師はサンドバッグかよ」
『降参が存在しない時点で錬金術師を痛ぶる物なのが伺えるな』
非戦闘師は枠に入れられていない。
しかし、錬金術師だけは非戦闘員にも関わらず、戦闘要員として枠の中に組み込まれていた。
少なからず、錬金術師以外の戦闘は見ていて甲斐がある試合も確かにあった中で、何故か1番、逞しい戦闘を見せなければならない職業の相手はどれも錬金術師だった。
戦闘開始の瞬間に戦闘経験の無い錬金術師は場外へ向け全力で走り出すが、敢えて場外を阻止し、無理やり戦わせる者、そして、それを見て笑う者、楽しんでいる状況だった。
「次!! 錬金術師ウィル・アルシャイン!! そして、魔法師ジム・デネブ!! 前へ!!」
「お? ウィルとジムか! ウィルは運が良かったな」
キリオはウィルの相手がジムなのを見て安心した。
「始めっ!!」
号令がかかったと同時だった。
ウェルは全速力で場外へと走る。
しかし。
「重力魔法……」
ジムの重力魔法でウィルは地面へ向け、押しつぶされる様な重みを与えられ、動けなくなった。
会場ではジムの魔法名だけの詠唱の短縮に驚く声が上がる。
「う、動けない……」
動けないウィルにジムはゆっくり近づき、自身のポケットからハンカチを取り出し、自分の口へと当てた。
そして、ゆっくりとウィルに手を翳し、魔法を使う。
「燃上柱……」
その瞬間、ウィルの体から炎が発火し、凄まじい火力に柱の様に高々に炎が上がった。
「うぁあああああ!!!!!」
辺りにはウィルの悍ましい叫び声が響き渡る。
「……は? ジムな、なにやって……」
キリオは衝撃を受けた。
誰がどう見ても命を落とすレベルの火力。
そして、その場にいた全員もその異変に気づき、驚き、笑いさえ消えた。
しかし、ジムは更にエスカレートする。
「消えて無くなれぇ!!!」
ジムがそう言った瞬間に炎は更に火力を増し、会場全体にその熱が伝わるほどの暑さを放ち、その時、ウィルの叫び声が途絶えた。
「せっ、戦闘終了!! 戦闘終了!!」
審判も慌てて戦闘を止める。
「聖なる神の恩恵よ。我を媒介にマナの龍脈によって与えよ。我の言霊に答え、我の名を唱え、我の力を変え、生命の声を聞き届け、彼の者の声を聞け、繋ぎ、手繰り寄せ、そして命を癒せ……回復術」
審判の号令が聞こえたその瞬間にジムは詠唱を唱え、炎の中にいるウィルに回復をかけ、そして、炎が徐々に消えた時、無傷のウィルが驚いた表情で腰を抜かしていた。
「……し、勝者!! ジム・デネブ!!!」
審判も、会場にいた全員も、ウィルが生きていた事に安堵してる様に見えた。
『いや、違うな。こいつらは殺人が起きなくて良かったと思ってるんだろうな……ジムのやろう……』
その時、キリオは居ても立っても居られず、ジムの退場する出入口へと向かった。
その途中で会場にいた生徒達の漏らした言葉を耳にする。
「……ジム・デネブやばくね? 殺す気だったぞ?」
「あいつとは関わりたくないよな」
キリオはジムの所へ向かい、ジムを見つけてことばをなげる。
「おい! ジム! やり過ぎなんじゃないのか?」
キリオはジムを見つけ、そう言葉をかけた。
「やぁ! キリオじゃないか!」
「答えろ!」
「なに? 怒ってんの? あんな事で?」
「はぁ? あんな事だと? マジで言ってんのか? 少なからずウィルは死ぬかもしれなかったんだぞ!?」
「何言ってんのさ! 人間なんてそう簡単に死ぬわけないじゃん!!」
ジムの余りの軽さにキリオは驚きを抑えられなかった。
「……お前、本気で言ってんのか?」
「だったらどうしたの?」
「……信じてたのに……お前もこの世界の住人と一緒なのかよ……」
「……ぶ、ぶぶ……く、くく……」
突然、ジムが笑いを堪えだす。
「てめぇ……いい加減にしろよ。この状況で何笑ってんだよぉ!!」
キリオが怒鳴り声を上げた瞬間だった。
「キリオ! 待って!!」
唐突に後ろから声がかかった。
キリオが振り返るとそこにはウィルが居た。
「ウィル!? お前大丈夫なのか!?」
「うん! 僕は平気! 心配してくれてありがとう!」
「でも、どうしてここにウィルが居るんだ?」
「ジム様にお礼を言いに来たんだよ!」
「……は?」
キリオはこの状況を理解できなかった。
「ぶ……ぶっははは!!」
その時、ジムはもう笑いを耐えられず吹き出した。
「おい! ジム! 説明しろ!!」
「あはは! ウィル君には一芝居打ってもらったんだよ!」
「……え? じゃ……」
キリオはウィルに向き直った。
「うん! 僕は燃えてないよ!」
「……。」
『穴があるなら入りたい』
キリオは恥ずかしくなった。
そして、ウィルが口を開く。
「ジム様が口にハンカチを当てた時に僕に言ったんだ炎でカモフラージュしてあげるから燃えた様に叫んでって」
今度はジムが口を開く。
「僕はここでの印象をやばい奴にしたかったんだ」
キリオが疑問に思い聞く。
「どういう事?」
「キリオが誰かと揉めてる時に僕が現れれば色々と話が運びやすいでしょ?」
「……そういうことか。ただ、ただ申し訳ねぇじゃねぇかよ」
『俺の事を思ってくれてたのに、俺は何してんだか、ただ、ただ恥ずかしくなる一方だよ』
ウィルがジムに言った。
「改めて、ジム様ありがとうございました」
「どういたしまして! ここだけはジムでいいよ! でも二人がもう知り合いになっててびっくり! キリオは僕以外の友達が作れないかと思っていたよ!」
「……バカにされてるのに何も言い返せない」
ウィルが口を開く。
「でも凄いね! キリオがあの魔法師のジム様と仲がよかったなんてびっくりしたよ!」
「師匠同士が仲いいんだ」
「え!? あの国師のプロン様とシリス様がぁ!?」
「そうだよ? 冬のトライアングルとか知らない?」
「なにそれ? 知りたい!」
「また今度ね!」
その時、ジムが改めてキリオに聞く。
「それはそうと、キリオはどうするのさ?」
「戦闘の時にか? まぁ、相手によるけど……うまく場外落ちるよ。勝つとまずいだろ?」
「そうだね」
キリオの言葉にウィルは聞いた。
「錬金術師が勝てるわけないじゃないか! さっきからキリオは何を言っているんだい?」
「あぁ……そうだったね! ついつい自信家でさ!」
その時キリオの名前が呼ばれた。
「次! 錬金術師キリオ・アルタイル!! 対するは! 守護士ウェン・アスピディス!!」
「……ん? え? ウェンって………はぁ!? よりによって!? あいつかよ!?」
「……はぁ……本当にキリオは運が無いというか、事を持ってくるよな……」
苦笑いしか出なかった。




